第17話 助かった


 アクアがにこりと笑い、俺に手の平を向ける。


 そこから魔法陣まほうじんが生まれ、俺の体をすっぽりとおおう。


 きらりん☆に変身した時と同じだった。


 体だけでなく、意識そのものが光に塗りつぶされる。


 ようやく発光の終わった体を見下ろすと、


「も、元の姿に戻ってるうううっ!!」


 見慣れた学生服に包まれた男の体に戻っていた!


「マジで助かったぁああ――って、ちょっと待てよ? 見た目を直せるなら会った時に直してくれよっ!? あの街中での羞恥しゅうちプレイはなんだったんだよ!?」


 喜びながら不満を口にする俺に、アクアはためいきじりに答える。


「あの時点ではまだ、ナル君が私に協力してくれるとは限らなかったし、さきほども言ったけれど、この魔術では根本的な解決にはならない。君が戦う意思を見せれば解除されてしまうから注意してほしい。いざという時のために、そこにある杖は肩身かたみ離さず持っているべきだろう」


 立てかけたはずのSTARスター LIGHTライトを見ると、そこでも変化が起きていた。


 杖状だったSTARスター LIGHTライトが、星型の宝石へと変化している。


 俺は床に転がってしまっていたSTARスター LIGHTライトを持ち上げ、しげしげと眺めた。


『魔法少女マジカルきらりん☆』の番組内でも、きらりん☆が魔法少女に変身していない時は宝石へ姿を変えていた気がする。


「ナル君がきらりん☆に変身すれば、STARスター LIGHTライトも杖へと戻るだろう」


 アクアはそう言うと、フードをかぶり直してテーブルを立った。


「何か進展したら知らせに来るから、その時はよろしく頼むよ」


 俺達を置いてきぼりに、そのままアクアは歩いて行ってしまう。


 引き留める間もなく、何を聞けばいいのか分からないままにアクアは店外へと出て行った。


 それが唐突とうとつすぎて、何もできなかった。


 魔術師に変人が多いのは、本当の事らしい。


「……ナルは、もう魔法少女になれない方がいい?」


 唖然あぜんとしていた俺に、隣のしずくが、遠慮えんりょがちに口を開いていた。


「どうだろうな?」


 俺は少し考え、答えを口にする。


「でも、えて危ない橋を渡る必要はないんじゃないか? 戦わずに済むなら、それが正しいんだと思う。そもそも、この力は俺の実力じゃないし、それを使うことは、やっぱり、ずるいことなんじゃないかな」


 俺の答えに、雫は、


「でも、アクアが言っていた悪い魔術師とか、新しい怪人が現れたら? それに、例えば、誰かが目の前で事故にいそうだったら? その力を使えば、誰かを助けられる状況なら、ナルはどうするの?」


「……それは」


 俺をかばって、隕石魔人いんせきまじんの前に出た雫の後姿を思い出す。


「雫にも迷惑がかかるかも知れないけど、助けに行くと思う」


 隕石魔人に襲われた時、俺にはまるで勝算なんてなかったけれど、それが無謀むぼうだと分かっていても、雫を助けたかった。


 そして、俺にその力があるなら、使いたいと思う。


「そうだよね」


 雫の無邪気むじゃきな笑顔には、見ているこちらが恥ずかしくなるぐらいの破壊力があった。


「とりあえず、何もしなくていいってことなんだよね?」


「アクアの言葉が、本当かは分からないけどな」


 正直、アクアの言っていたことを信じられる材料は少なすぎる。


 確かにすじは通っていて、先ほどの話に矛盾はない、と思う。アクアが何かを企んでいるとしても、俺たちは何もしないように頼まれただけだ。


 他に頼まれたことと言えば、


「放課後も、ずっと一緒にいたほうがいいのかな?」


 そう口にする雫を見られなかった。


 こんな恥ずかしいことを強要されて、俺は冷静でいられるのだろうか?


 しかし、これからどうするにしても、まずはかばんを取りに学校へ帰らなければならない。どう言い訳をしようか考えている間に、俺は机の端に伝票が残されていることに気付いた。伝票を広げてみれば、ドリンクバー二人分とカツサンドセットは、当たり前に未払いだった。


 伝票の端に、汚い字の書置きがある。


 さっきの魔術のお返しは、カツサンド代でよろしく♪


「や、やられた……っ!」


 思わずつぶやく俺を見て、雫はまた笑っていた。

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