第16話 協力


 ようやく本題が来たと思った。


 最初から、やけに好意的な態度が不自然だった。


 俺は今まで生きてきて、身内以外に無条件の献身けんしんを受けたことなんてない。そんな人間は、ゲームかアニメか、特撮の世界にしか存在しないんだ。


「君は、まだ力を手にしたままだろう?」


 自分の体に改めて視線を向ける。


 しずくに撮ってもらった俺の姿は、アニメの魔法少女マジカルきらりん☆そのものだった。


 金髪のツインテールをわえるピンク色のリボンが映えていたっけ。


 元の俺の姿からすれば、まるで想像もできないほど似つかない。


「この力を消す、つもりなのか?」


 アクアは目を細める。


「残念ながら、そのためには発動した魔術師を特定して調べる必要がある。そもそも、きらりん☆そのものであるナル君は、魔力で構成された人外じんがいの存在。魔術師的に言えば人間の存在を超えた半神はんしんだ。人類最強の一角である私ですら、君と正面から戦えば無傷とはいかないだろうね。……でも、強すぎる力は人をまどわせるし、その術式に捉えられたままで過ごし続ければ、ナル君は元の姿に戻れなくなる」


 またしても自分の胸を見下ろす。


 何のもなかった男子高校生として生きるのと、きらりん☆として生きるのは、どちらが幸せなんだろう?


 少し悩んだ気もしたけれど、首を横に振る。


「こんな恰好かっこうで過ごすなんて、あり得ねぇ!」


「……可愛いのに」


 俺の言葉に、雫がどこか悲しそうに見つめてくる。


「やっぱり、ナルは魔法少女でいるのは嫌?」


 俺は空気も読めず、その整った顔が至近距離にあってどきりとした。


「……雫だって、このままじゃ困るだろ? 俺は、その、雫の彼氏なんだからさ?」


「あ、そうか。そうだよね?」


 ほころぶ笑顔も可愛いなチクショー。


「……あー。良い雰囲気の所で悪いんだけれど、話を戻そう。私が君たちに協力してほしいことっていうのは、簡単な約束だ」


「約束?」


「君達には、その力を使わないように徹してほしい。私が言うのもアレだが、魔術師には変人が多い。無から有を創造する魔術なんてものは神の所業しょぎょうと違いなく、そんな力を持つ君達を欲している魔術師は腐るほどいる。そして、君たちがその力を使えば、他の魔術師が君達に気づく可能性も大きくなる。私もできる限りは対応するが、敵は少ない方がいいからね。他に何か聞きたいことはあるかな?」


 俺達は、よくわからないまま、すでに他の魔術師に狙われているらしい。


 テーブルに置いたグラスが汗をかいていて、それが目についた。


 アクアの話は、それに比べて途方もなく現実味がない。


 何を考えて、何を聞けばいい?


「でも、もしも隕石魔人いんせきまじんや他の怪人が襲い掛かってきたら、どうすればいいんですか?」


 先に口を開いたのは雫だった。


 アクアは少しだけ目を細め、


「それは気にしなくて構わない。隕石魔人は修復力の対応可能範囲内だ。立ち去ったことで術式の範囲外へと出てしまっているし、生体としての核を持たない隕石魔人は、すでに修復力の影響で消滅しているだろう。私からの願いは、君たちがこれから怪人に出会っても、力を使わず戦わず、逃げてほしいということだ。それが君たちにとって、最も安全だと私は思う」


「……わかった」


 承諾しょうだくする俺を、雫が見つめていた。


 アクアは安心したのか薄く息を吐く。


「聞き分けが良くて助かるよ。私も可能な限り助太刀すけだちすることを約束しよう。あとはそうだな。魔術って奴は、基本的にするモノなんだ。修復力に限界があるために、一度に発現できる魔術の総量も限られる。限界を超えた魔術の使用は修正力によって打ち消されたり、空間消滅を引き起こしたりするからね。何が言いたいかというと、君たちには魔術のことは他言無用にして欲しいんだ。数少ない事例だが、大勢の人間が一度に魔術の存在を知覚したために、発現できる魔術が修復力を超えて滅んだ町も存在する。日本的に言うなら神隠しという現象がそれだ。そして、最後にもうひとつ」


「まだ、何かあるのか?」


 正直に言うと、話が長すぎて疲れてきていた。


 眉を寄せた俺に、アクアは「これが最も大切なお願いだ」と口を開く。


「私がこの件を解決するまで、君たちにはできるだけ二人で行動してもらえると助かる。その方が私も守りやすいし、今回の術式の傾向を考えれば、君たちの危険は圧倒的に少なくなる。二人で行動してくれるのなら、後は好きに乳繰ちちくり合ってくれて構わないよ」


「なっ!?」


 顔を染める俺達を見て、アクアはまた笑う。


「さて、名残なごり惜しいだろうけど、ナル君もその姿では不便だろう。表面的に上書きするだけになってしまうが、見た目だけでも元に戻してあげよう」

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