第7話 昼食


 視聴覚室は最上階のかど部屋で、化学室などの特別教室に隣接するため教室からの喧騒けんそうは遠く、昼休みとは思えない静けさに包まれていた。


 でも、


「どうしてしずくは、視聴覚室の鍵を持っているんだ?」


「予備の方だけど、視聴覚室の鍵は私が預かってるの。部活の終わり時間まで勉強したいって相談したら、船頭せんどう先生が二つ返事で貸してくれた」


 視聴覚室は、大きさこそ普通の教室と同じだったけれど、並べられた机は地面に固定されている長机だ。俺達は最前列の窓際に並んで座り、雫が手に持っていた弁当を広げる。


「それからは、お昼はここで食べてるの」


「……そうなのか」


 それは、いつも一人で食べているということだろうか? 


 考えてみれば、昼休みに雫を教室で見かけたことはなかった。


 しかし、雫はどうしてそんなことをしているのだろう。


 それに、


「勉強するにしても、家ですればいいだろ? 昨日はそう言ってたし?」


「昨日は、その、帰りたかったのっ!」


 雫はなぜか恥ずかしそうに顔をそむける。


「家じゃ勉強に集中できないでしょ? テレビとか小説とか、分かりやすい娯楽ごらくがあると、どうしても気を取られちゃう。だから、私は何もない所で勉強したいの」


「それって、テスト期間中に掃除がはかどるみたいなもんか?」


「良い例えね」


 雫は相槌あいづちちながら弁当箱のふたを開けた。


 小ぢんまりとした弁当箱は二段重ねの円形で、上段にはアスパラの肉巻きやウインナーと卵焼きが二切れ、ブロッコリーやプチトマトなどが所狭しに並んでいて、それらがレタスで仕切られていた。下段には白いご飯がき詰められていて、雫は四種類のふりかけをトランプのようにして見せてくる。


「どれがいい?」


「じゃ、明太子」


「明太子、好きなの?」


 小首をかしげる雫の整った顔に、改めて緊張する。


 俺はうなずいて、


「これ、手作りなのか?」


「口に合わないかも知れないけど、でも、頑張って作ったから、大丈夫だと思う」


 前世の俺は、かなりとくの高い人生を送ったのだろうか?


 これが噂のモテ期ってやつなのかも知れない。


「さっきは、というか、昨日からだけど、ごめんなさい。私、今まで彼氏とかいなかったから、どうすればいいのかわからなくて」


「いや、俺だって彼女なんていなかったし、気持ちは分かるよ」


「そう?」


 二人でそろってふりかけをかけると、雫は箸を手渡してくれる。


「一緒だね」


 雫の作った弁当は、素直に美味しかった。


 俺はそれを褒めながら食べ進めていたけれど、そうしているうちに、少しずつ緊張がほぐれるのを感じる。そして、それは雫も同じように見えた。雫からは、さきほどの焦るような仕草はすっかりと抜け落ちていた。雫も俺と同じように緊張していたんだと思う。


「あの、変なことを聞いてもいいかしら?」


 なんでも聞いてくれ! と思わず答えてしまいそうになって堪える。


「……それは内容によるだろ?」


「なら、答えたくなかったら答えなくてもいい」


 雫は空になった弁当箱を巾着きんちゃくぶくろにしまいながら深呼吸する。




「ナルはアニメというか、魔法少女が好きなんだよね?」


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