第5話 一緒に帰りましょう


「一緒に帰りましょう」


 それは船頭せんどう先生が「道草食わずに早く帰れよ」と言ってホームルームが終わった後の事。


 俺が普段通りに一人で帰宅準備をしていると、音もなくしずくが近づいていた。教室は授業終わりの喧騒けんそういていて、珍しい俺たちの組み合わせに誰も気づいていない。


 ……もしかすると、自意識過剰だったのかもな。


「一緒に帰るって、マジ?」


「マジです」


 雫の真剣な眼差まなざしに、俺は頭をかく。


「雫さんは、何か部活とか入ってないの?」


「家での時間が欲しいし、私って頭が悪いから、人より勉強しないと身につかないの」


「雫さんの頭が悪いと思ってる奴なんていないぞ。授業中に詰まる問題の答えを出すのは、いつも雫さんだろ?」


「それは誉め言葉として受け取るとして、彼女なんだから、呼び捨てで呼んでほしい」


「……マジですか?」


「マジです!」


 座る俺の前で、雫は机に手をついて、上体をずいっと前に出す。


「もう一回聞くけど、本気で一緒に帰るの?」


「本気だけど、ナルは嫌、かな?」


 前かがみになった雫の上半身は、発育の良い胸が強調されていた。


「雫、の家ってどこ?」


「北区」


「逆方向じゃねーかっ!」


 結局、その日は校門前まで一緒に帰った。

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