魔法少女マジカルきらりん☆始めましたっ!

星浦 翼

☆ ぷろろーぐ ☆

第1話


「このまま信者を増やし続ければ、君は願いを叶えるどころか、世界のことわりですら書き換えることが可能だろう。君に願い事はないのかい?」


 わらわを生み出した白髪の魔術師はそう言いおった。


 頭をひねってみるが、妾に願いなど思いつかぬ。


 しかし、それもそのはずじゃ。


「すでに神のごとき力を持つ妾は、世界を手中に収めておるも同議である。つまるところ、そんな妾にとって、これから何かを得るということが想像できぬのじゃ。……そうじゃな? お主様も腐るほどの大金を得たのであれば、労働を捨て怠惰たいだに暮らすであろう? 過不足とは時に意欲をぐものじゃ」


「私利私欲のために使えとは言わないよ」


 魔術師は妾の答えに不服なのか、前髪をかき上げてぬかしおる。


「しかし、君はその力に価値を見出さないのかい?」


「ならば、世界平和などはどうじゃ?」


 漠然ばくぜんとした妾の答えに、魔術師は薄く笑った。


「君のような優しい子が神になれて良かった。でも、その代わりに、君には普通の人間としての人生は失われてしまった。君はその力のために、実の両親からも恐れられ距離を置かれてしまっている。だから、その埋め合わせに、君には君のための願いを叶えてほしい」


「……妾のための、願いじゃと?」


 そんなものが、この世に残っておるのじゃろうか?


 それから妾は三日ほど悩み、ようやくその答えを見つけた。




 この世に、本物の〝正義の味方〟を生み出したい。


 


 もしも、この世に正義の味方さえいれば、悪は滅びていなくなるじゃろう。


 悪が滅びるのじゃから犯罪はなくなり、不幸な者も減るはずじゃ。正義の味方が本気を出せば、不慮ふりょの事故や自然災害ですら防ぐに違いない。貧富格差もなくなるじゃろうし、利権がらみの戦争もなくなる――とは言い切れぬが、少なくなるはずじゃ。そうじゃな? 狩りによる希少動物の絶滅も減るじゃろう。


 誰もが幸せで、全ての物事が良い方向へと進む世界。


 分かりやすい正義というモノサシにより、空気を読んで嘘をつく必要もない。正義さえ信じていれば、正しく分かりやすく生きていける世界。正義の味方さえいれば、この世界は、そんな理想郷になるやも知れぬ。


 なぜならば、現実とはもっと複雑で、曖昧で、悪が野放しじゃ。


 自らの利益を求めることが悪いとは思わぬが、どうして人間どもは、そのために他者を裏切るのじゃろうか? 


 賛同してもらおうなどとは思わぬが、自らの利益が損なわれようとしても、正しいと思うことが、正しいと思えることをすることが、どうしてこの世界の基準にならないのじゃ?


 ……厳密に言えば、これは妾のための願いとは、少し違うかも知れぬ。


 じゃが、それは素敵な願いに思えたのじゃ。


 ふふふふふふ。


 どうじゃ?


 まだ十年しか生きておらぬ妾にしては、良い考えじゃろ?


 なんじゃ、その不服そうなツラは? 


 少しは妾のことを褒めても良いのじゃよ?


 こらっ! 乱暴に妾の頭を撫でるでないっ! ええい。やめんか鬱陶うっとうしいっ! やめろという言葉が聞こえぬのか! このアホ、バカッ! 放せぇっ!


 これだから魔術師は嫌いなんじゃっ!

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