第3章 5-7 決勝! アークタ対イェフカ

 やはり。あれは独特だが確かに何らかの型だ。少しというからには、ほとんど自己流になってはいるのだろうが。


 「では、ユズミは? お友達と伺っておりますが、クロタルさんもあの剣を習って?」


 「いいえ。ユズミは友人ではありますが、生まれは全く別です。彼女は、ボーンガウレ侯国騎士団長の家系です」


 これも、そんな太刀筋だと思った通りだった。

 「ですが、私は……」


 「生まれなんてどうでもいいですよ。要は、いま、自分がどうしているかです。ちがいますか?」


 クロタルが寂し気に目を伏せたので、思わず現代日本人の感覚が出た。この世界が封建制や絶対王政であるならば、出自は重大事だ。自由民主主義の発想は異端である。桜葉はつい云ってしまってヤベッ、と思ったが、


 「そ……そうなんですか?」

 クロタルは神の啓示をうけたかの如く目を輝かせ、


 「わ、私ごときがハイセナキスをやるなどとおこがましいと思っておりましたが……イェフカがそうおっしゃるのであれば、気が楽になりました。私は、ハイセナキスとは無縁の、しがない書庫番の娘なのです」


 「おれなんて、異世界のおっさんヒラリーマンっすよ!」

 と、云おうとして「お……!」で止まった。咳ばらいをし、


 「どうせドラムに入ったら生まれ変わるんです。武器やドラゴンも、訓練でどうとでもなりますよ。クロタルさんも、零零四型にぜひ、入りましょう!」


 「私が……!?」

 クロタルが驚愕の表情をうかべる。その顔はしかし、嬉しさが滲んでいた。

 「そ……そんなこと……そんなことが?」

 「そのためにも、あたし、頑張りますから!」


 「で、でも、イェフカ……博士が無事に零零四型を造ったとしても……また、選ばれなかったら……」


 「それは……」

 確かにこのドラム、次も異世界のおっさんを選ぶ可能性はある。

 「分かりませんけども」

 「ですよね」


 「とにかく、やりますよ。やってやります。次も勝って……全国大会とやらに行きますよ。その賞金で、零零四型を博士に作らせますよ」


 そして、いっしょに住みましょう!!

 そこは心で叫び、桜葉は食事を再開した。やる気が出ると、食い気も出る。

 クロタルが、涙の滲んだ眼でイェフカを見つめ続けた。



 「時間です。二勝一敗同士。決勝戦です。七選帝侯国代表が決定しますよ」

 「はい」


 食事を終えて口を漱ぎ、新しい刀を抜いて試していた桜葉が素早く納刀して晒帯から外すと、そのまま係員へ預けた。


 いざ行こうとして、桜葉め、クロタルのキスを待ってそわそわしてしまった。クロタルがそれへ気づき、イェフカへ近づくと口づけした。


 「……フフ、不思議な儀礼ですが、慣れるとなんだか良い気分となりますね」

 最近見せる、たおやかなまでの笑顔に桜葉がどぎまぎする。

 (浮かれてる場合じゃない浮かれてる場合じゃない浮かれてる場合じゃ)


 そう念じつつも、にやけてしまう。ようやく、こっちの世界へ来てよかったなどと考えられるようになってきた。


 それはそうと。これで負けたら元も子もない。桜葉は今度こそ本気で気合を入れ、顔をバシバシと叩き、最終決戦へ向かって歩き出した。


 いつもの通路を進み、刀を受け取り、槍を受け取る。ユズミに柄を切断されたので、新しい槍だ。ちょっと立ち止まり、持ち手の感触を確かめる。うん。変わらない。行ける。竜場へ出て、顔を近づけてきたガズ子の顎の下を撫でてやる。


 「アークタは正攻法だ。最初は、ランスチャージ戦になるぞ」

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