第3章 5-4 ユズミの反撃

 桜葉は剣道の経験はない。そりゃ、見たことくらいあるが……古流剣術も体験程度しかやったことはなかった。居合は、抜いてしまえば剣術だ。居合道と共に剣道もやるか、古流武術でも居合術を含む剣術の流派でもやっていない限り、現代武道としての居合は居合のみなのである。


 すわなち、なのだ。居合は鞘の内にあるから居合であって、抜いてしまえば剣術だった。純粋な居合道家が、抜いて戦うことはできない。


 桜葉、たまらず背を向けて逃げた。観客は何事が起きたと思っただろう。圧倒的に勝っている桜葉が逃げるのだから。


 ユズミが慎重にそれを追った。うかつに近づくと何をされるか分からないとでも思ったか。


 距離をとった桜葉は、なんと刀の柄と切っ先を掴み、膝を上げた脚の上でぐいぐいと曲がった方向の反対側へ戻しをかけた。


 そんなもので、曲がった刀が戻るものなのか!?


 それが戻るのである! くの字にまで曲がったのなら救いようがないが……ゆるくカーブを描いている程度なら、緊急的にまっすぐになる。本来であれば、じっくりと重しをかけるなどして時間をかけて戻さないと、反動でまた曲がり、目に見えないレベルでグネグネになってしまう。


 ユズミが目を見張る。ユズミの眼には、曲がっていることすら気づかない。何をやっているのか!?


 「遊んでいるつもり!?」


 一気に走り、距離を詰めたユズミがバスタードソードを脇構えっぽい後ろ斜めから振り上げて桜葉めがけて左袈裟に叩きつけた。桜葉は寸前で遮二無二納刀に成功、まだわずかに刀身が歪んでおりカタタッと鞘が鳴ったが、膝を縮めて低い姿勢となりかまわずその手首めがけて抜刀した。切っ先が寸分違わずユズミの左手首をとらえる!


 ズバァン! 爆発音がし、ユズミが反動で後ろへ下がる。ダメージは一割近いか。が、思ったほどではない。実戦なら左手を切られて勝負ありだが、これはハイセナキスだ。ダメージ判定がちょっと実戦想定と異なる。桜葉は瞬時に振りかぶって、真っ向からとどめの一刀をユズミの脳天めがけて叩きこんだ!!


 その桜葉の顔面めがけて、なんと右へ体勢を崩したユズミの左足による直線ハイキックが炸裂! ボグぁッ! 桜葉に初のダメージ! なんと、ユズミは格闘もできるのか!? そしてふらついた桜葉めがけ、次はユズミが胴斬りにツーハンドソードを豪快に叩きつけた!


 ガヴァアッ……! 桜葉が爆風にまみれ、くの字にひしゃげて横倒しに転がった。ダメージは合わせて四割半ほどか。ゲージの半分が一気に赤くなる。


 転がったまま桜葉が這うように距離を開け、振り返りざまに納刀した。ガカッ、鞘が鳴り、パキッという嫌な感触もする。割れた。ドラムなので、手を切る心配がないのが幸いだ。居合にとって鞘というのは、刀と同等の価値がある。


 ユズミは警戒と余裕で、またも下段に両手持ちソードを構えて静かに桜葉へ近づく。

 (あと少し……あと少しなんだけどな……)


 ここで焦ってはだめだ。ユズミの腕前と攻撃力をもってすれば、一発大逆転もある。

 ふぅー。大きく息をつき、冷静を保つ。心臓が……いや、魔力炉が爆発しそうだ。


 そこへユズミが間髪入れずに踏みこんで間合いを詰め、バスタードソードで一気に突きを見舞った。桜葉が歩を引いてサッと避けるや、体を回転させ再び下段に足を狙って切ってくる。それも避けると、剣を止めずに流れるように振り上げて右袈裟に切ってきた。トリッキーな動きに見えて、かなり基本に忠実だ。やはりユズミは正統派、騎士階級か何かだと確信する。


 だがその分、剣筋は読みやすい。

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