第2章 5-2 もう、帰りましょう
よくわかりませんが……と前置いて、気まずそうに役人たち、
「多額の契約金を得て、スティーラ殿の家族は村人と気まずくなり……また金もあるのでさっさと村を捨てて出て行ってしまったそうです。残されたスティーラ殿の婚約者には金は渡らず、村人らとの折り合いも歩くなり、これも村を出て行って行方不明だそうで」
「いえ……ですが、スティーラがここからグロッカに来て、まだ半年もたっていな……」
そこまで云い、クロタルは茫然と立ちすくんだ。
「ど田舎のムラなんてそんなもんでしょ」
思わず嫌悪に表情を歪め、桜葉が口走った。
「どうせ村八分にあったか……もしくは出て行ったことにされて、金を奪われて殺されてるかも」
「そんな……!! なんという恐ろしいことを……!」
「もういいです。クロタルさん。帰りましょう。こんなところ、記憶も無ければ用もありません」
「で、ですが……」
せめて、スティーラに連絡くらいしなかったのか。そう思ってクロタルは言葉が出なくなった。少なくとも競技場では、いっさいの連絡は受けていない。婚約者も決まっていた娘をハイセナキスへ売って、はいさようなら、だ。
「それで……記憶が……?」
「なんですか?」
「なんでもありません」
いつも桜葉が云うセリフを、クロタルが云った。
「…………」
クロタルの沈鬱ぶりは、桜葉から見ても不思議なほどだった。なにか、自分で考えていたことと真逆の現実を突きつけられたかのようだった。
「もう、帰りましょう」
桜葉はもう一度云った。ここにいても意味がないし、居心地も悪い。村人にとっても、もうスティーラなど死んだも同然……いや、最初から村に存在しなかったも同然なのだろう。この小屋が目に入るのも不愉快なはずだ。
「グズグズしてたら、夜中に襲われるかも」
「ま……まさか!」
クロタルが驚愕と恐怖で目をむいた。初めて見る顔だった。
「いえ、我々もおりますし、ドラゴンもいますから」
役人にそう云われ、桜葉も黙った。しかし、とっとと帰りたいのは事実だ。
「ま、ま、今日は、我々が食事を用意しておりますから、旅の疲れを癒していただき、数日ご滞在いただいて……」
「まさか。明日、帰ります。クロタルさん、いいですね」
その桜庭の珍しく断固としたもの云いに、役人たちが色めいた。
「それは困ります! せめて二日はご滞在いただきませんと、我々も立場が……!」
(お前らの立場なんか知ったことかクソ! ボゲ!!)
苛ついていた桜葉は思わず声に出そうとして、なんとか呑みこんだ。
「いえ……イェフカの云う通り、明日、帰りましょう」
クロタルがそう云い、桜葉はホッとした。
「ただ……侯命もあります。復命をするためにも、イェフカには午後からそのコロ-ジェン地方の戦闘法を習っていた場所を再度訪れていただき、明日、グロッカへ戻りましょう」
桜葉、目を
「イェフカ刀は、村で造られていたのですか?」
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