姦計―④―

 思わず名前を叫びながら、ロックは地上に降り立つ。


 紅ではなく、灰褐色の双眸をしたアンティパスが、ロックを見据え、


「君が誰かは、分からない。だが……」


 平静だが力強いアンティパスの声と共に、ストーン・コールド・クレイジーに灰褐色の迅雷を浮かばせ、


に、剣を振るわせてもらう!」


 アンティパスの姿は、ロックの目の前から消える。


 消えた場所から風が吹き、鉄が砕けた衝撃がロックの背後から襲った。


 灰褐色の戦士の一振りが、風雨を切り裂きながら、コシュチュシュコの右肩にめり込む。


“蹄鉄”は、肩から大きな蒸気を噴き出しながら、足から崩れた。


 しかし、アンティパスの背後から、


彼の背後から飛んできたのは、カイルの蹄鉄”ジャクソン”の左腕から放たれた、約2メートルの大きさの杭だった。


「俺はテメェなんかと友情を育んだ覚えはない。だが……」


 そういって、ロックは背面から剣を切り上げると、


「テメェの知っていることを教えてもらう。俺の中に流れる記憶……その持ち主が、何をしたのかも!」


 雨を弾きながら跳躍したロックは、ジャクソン機から放たれた杭を、翼剣から放った斬閃で遮った。


打ち合って、飛ばされた杭が、”ラ・ファイエット”の前面の甲羅に大きくぶつかる。


鋼鉄の表面から火花を血の様に散らす、上空に泊まる鉄騎兵”ラ・ファイエット”。


その頭部に、ロックは翼剣を振り下ろした。


ナノマシン:”リア・ファイル”で強化された”頂き砕く一振りクルーン・セーイディフ”の一刃が、甲羅から微かに覗くラ・ファイエットの頭部を叩き潰す。


その衝撃で、蹄鉄は勢いを上げながら、地表に落下。


大きな擂鉢を作った。


 カイル=ウィリアムスの駆る”ジャクソン”が、擂鉢の周縁に吹き飛ばされる。


 しかし、その反動で飛び出した、大杭がロックを捉えた。


だが、灰褐色の壁がロックの前に広がる。


 針の衝突の衝撃で、混凝土が砕けるが、結果として杭の勢いを殺した。


杭は、地表に落下したが、カイルの蹄鉄の照準がアンティパスに変わる。


 ロックに破壊された”ジャクソン”の右関節は、杭箱に覆われていた。機械仕掛けの両腕から射出される蒸気圧が、雨粒を天に返しながら、二本の杭を放つ。


 アンティパスは、下手に構えていた剣を振り上げた。


二本の杭は、剣の風圧で舞い上げられる。


だが、カイルの”ジャクソン”から続けて撃たれた、四本はそれを物ともしない。


小さな弾道噴進爆弾然とした四本の杭が、アンティパスの頭に突き進む。


 それを、遮ったのはロックの剣だった。


 ”穢れなき藍眼スール・ヒンプリィ”の水鋸が、カイルの駆る人型戦車から放たれた杭の弾丸を切り裂く。


「俺は、テメェにし、


「それは君の意地か?」


 アンティパスはロックに問いかけた。


 彼の中で思っていたのは、高尚なことではない。


俺は、。だから……」


 鉄の人形に駆るカイルが、左手の杭をロックに肉迫させてくる。


「ロック=ハイロウズと言うに貸し借りは、!」


 ロックは、自分の命導巧ウェイル・ベオを逆手から正眼に替え、カイルの左杭の刺突を迎え撃つ。


 鉄の人形は、全長3メートル弱。


大きさから来る力の差は、歴然だった。


 だが、ロックに下がる選択肢はない。


“蹄鉄”の左の一撃から放たれた応力を、赤い外套に触れる手前で、磁向防スキーアフ・ヴェイクターの壁で遮った。


――自分の関わりのない過去で、全てを縛られる訳にはいかない。


 アンティパスに吐露することなく、ロックはカイルの駆る”ジャクソン”の一撃に歯を食いしばりながら信念を刻む。


――だから、!!


深紅の外套の守護者クリムゾン・コート・クルセイド”という肩書に興味はない。


ロックは、関わった力の大きさと引き換えに、大事な人を無くした。


それを繰り返したくない。ましてや、が、


それが許せなかった。


『妙なことを言うな……“UNTOLD”を操るお前が、人間を語れる了見か?』


 カイルの電子変換された嘲笑が鉄の塊から、流れる。


「“UNTOLD”を知り、それに流されずに戦う。自分を見失わない。それが、人間だ!」


 最後に命を賭して、己を認めてくれた少女。


使う。


ロックの、戦うことへの原動力だった。


 抱いた信念と共に、ロックは鉄巨人からの応力を跳ねのける。


彼は、微かに生まれた蹄鉄との隙間に、”迷える者の怒髪ブイル・アブァラ”の噴進火炎を放った。


鼻を突く臭いと共に轟炎が、鉄巨人の左腕を切り離す。


 カイルの駆る鉄巨人は、ロック目掛けて、右手の代わりとなった箱から杭を突き出した。


 だが、灰褐色のセメント弾がロックの横を突き抜ける。


アンティパスの灰褐色の籠手に覆われた、右腕の混凝土砲弾が、右腕と化した杭箱を潰した。


 両腕から切り離された、胴体と脚部だけとなった“蹄鉄”。


アンティパスの上段斬りが、後者を圧壊する。


 更にカイルの乗る胴体の前面を、ロックの”ブラック・クイーン”が、大きなIの字を刻んだ。


“蹄鉄”――”ジャクソン機”――は胴体の後ろから、火花と蒸気を出しながら、人を飛ばす。鋼鉄の蟹から放り出されたカイルが、雨空で弧を描いた。雨に晒されながら、背中から肺を圧し潰した音と共に、彼は大地に叩きつけられる。


 コシュチュシコ、ラ・ファイエットも立つことは出来ず、それぞれの操縦者の傭兵が鉄のガラクタから、傷だらけで這い出た。


 ロックはそれを他所に、


が、礼は言っておくぜ。アンティパス」


 悶えるカイル達を見ながら、ロックは吐き出した。


「大丈夫、この結果でお釣りは十分に来る」


 アンティパスは、灰褐色の甲冑で薄く笑って返す。


 ロックの中で、彼の顔を思い出そうとするが見つからない。


「悪いが、何処をどう考えても……テメェを、思い出せん」


「だから、大丈夫だ」


 ロックの正直な気持ちだが、言葉に困る返答に、アンティパスは快活に返した。


ロックが言葉を失ったが、アンティパスは続ける。


「あくまで……その魂を、のであって、ロック……君じゃない。を思い出せと言うのは、無理な話だ」


 ロックの目の前で、アンティパスは一呼吸を置く。


「しかし、ロック……は、正直だ。守るための者の為に、躊躇いなく剣を振り、縛られることを嫌う。その目は、常に前を……未来を向いている」


「……自分を通したい気持ちがあるのは否定しないが、『』って面と言われるのは、良い気がしない」


 ロックが、アンティパスの賛辞に呆れて笑うと、嘲笑が響いた。


「よくわかっているじゃないか……人殺しの化け物」


 その声――仰向けのカイル=ウィリアムスに、アンティパスが迫る。


 しかし、ロックは灰褐色の武人を制して、


「人殺しは否定しない。現に、俺はお前の仲間を殺したんだからな」


 言葉を紡ぎながら、


「しかし、だからこそ、俺の持つ力である“UNTOLD”の全てが狂っていると言える。その全てを終わらせる為に戦う。に、な」


「人間である為に、命を奪っていく……正に、人間だな」

 

ロックの考えに反応したのは、カイルでは無い。


青白い光と共に紡がれた言葉は、”ワールド・シェパード社”の傭兵がを雨天の下に立てた。

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