第43話 セオドアとエドワード 2

 セオドアは非常に困った表情でエドワードヘ訴えかける。


「本当にこのような事態にまで発展させるつもりはなかったのですよ……貴方にここまで面倒を押し付けるつもりも勿論無かったのです……私はただ、アドルファスあの男が王を辞したのと同時に、エドワードもフィルドの宰相を辞めたと聞いて、それならば心置きなく今度は私の傍で働いてもらえるのではないかと思っただけなのです……」


じっとセオドアの話を聞いていたエドワードが思い出したように


「……そうでした、先ほど後回しにした我がフィルドへのの件ですが貴方が、あの大司教を使ってまでフィルドへ介入し、無理やり当時のフィルド王であったアドルファスを玉座から引きずり下ろす計画を実行する必要はまったくなかったのですよ? こちらは最初から引退するために色々やっていたのですから……まぁそれに便乗したおかげで引退がすんなりといった事自体にはお礼申し上げますがね」


とエドワードは少しいじわるそうな顔で微笑む。 その言葉にセオドアは、ばつが悪そうに


「やはり私の意図に気が付いてしまったのですね……エドワード……あなたは非常に優秀だ、だからこそ何度でもお願いします。貴方のその素晴らしい頭脳を是非とも私の元で使ってはくれませんか?」


セオドアは真剣な顔でエドワードへと訴えかけるが、エドワードは困ったように


「そのお話は前にお断り申し上げたはずですが」


と答える。


「あの当時はアドルファスあの男を王として支える宰相としての義務から断られたのだと思っておりましたが……もしや違うのですか?」


そう問いかけられ、エドワードは困ったように


「なにか勘違いされているようですから、きちんと説明させていただくとですね、 私はフィルドから移住するつもりは一切ありませんよ。 あそこには私が敬愛する師匠である『大魔導士』がいますからね。 本当は職を辞したときに師匠のお世話をしながら日々魔法の研究に明け暮れる生活をしたかったのですが、師匠に頼まれたのですよ『私の面倒はいいからアドルファスバカの面倒をみてやってくれ』と……そういわれては私に否は唱えられませんので、申し訳ありませんがこの話は聞くことはできません」


その話を聞いて、何とも言えない顔になるセオドア。


「……そうですか。 大魔導士様のお言いつけでは確かに逆らえませんね……分かりました、今回諦めます。 ですが気が変わったらいつでもウォルセアへお越しくださいね、いつでも歓迎しますから!」


とニコニコとエドワードへ笑いかける。 その様子に困惑しながら


「昔お会いした時から思っておりましたが、貴方様は私を過大評価しすぎではないですか……?」


その言葉にセオドアは目を見開いて


「そんなことはありませんとも! 貴方が共にいてくださればこのウォルセアは大陸一の国になることも夢ではないでしょう。 それに私がこの世でもっとも尊敬するのはエドワード、貴方なのですから!」


と目をキラキラさせているセオドアに渋い顔でエドワードは


「貴方様にそんなに好かれるような事をした記憶はないのですが……」


と呟く、だがセオドアは真っすぐエドワードを見ながら


「そんなことはありませんよ……私は子供の頃から、この国にいる時は常に『神の代弁者たる次期法王としてふさわしい者か』といつも判定されつづけ、外遊へ出れば『この子供は利用できそうか』や『法王への要求の橋渡しをさせられないか』などどこへ行ってもいつも子供どころか、一人の感情を持った人間としてすら見てもらえない状況に置かれてきました……そんな時に外交の練習も兼ねた外遊でフィルドへ赴いた時に、初めて会ったエドワードは私に本当に良くしてくれたではありませんか……私を手駒や物として見ることもなく、外交のイロハやちょっとした物語を聞かせてくれたり、一人のただの子供として接して下さったのは貴方だけでした……その頃からずっと貴方に憧れて尊敬してきました。 いつか貴方のような素晴らしい才能と人柄をもった法王になりたいと……」


そんな大変熱のこもった誉め言葉を聞かされ、ますます何とも言えない顔になるエドワード。


「子供が頑張っているのなら、それを応援してやるのは大人として当然では?」


その言葉にセオドアはニッコリ笑いながら。


「それを何の打算もなしに次期法王である私に、実践できるのはきっと貴方くらいだと思いますよ?」

と答えるのであった……。



* * *


 セオドアの部屋を辞し、用事をすませて疲れた表情で戻ってきたエドワードは、部屋のソファーへ転がっているアドルファスへ


「寝るならよそをあたってくださいよ……」


と一言呟く、それに答えずアドルファスは


「なんだ? また坊ちゃん殿下に懐かれてきたのかよ」


とニヤニヤ笑っている。 そんな様子に面倒くさそうな顔をしながらもエドワードは構わずソファーへ腰かけゆっくりと今回の真相について話し出した。


「今回の発端は、セオドア殿下が大司教を焚きつけて上手く転がしフィルドへとを仕掛けたのが始まりです。 その後、大司教はウォルセアへ舞い戻り、今後も手駒として使おうと思ったセオドア殿下のおかげで大司教にのし上りましたが、段々調子づいて暴走しスモウーブとアメフットへ手を伸ばし始めました。 うまく手綱を握れなくなった殿下は処分するついでに掃除もしようと企んでいたみたいでしたが、結果として途中で賢老会にバレてしまい、脅しをかけられた殿下は老人たちに上手く使われるようになり、ついでに『お仕置き』として太ましい女性が好みだとかとんでもない話を三国の上層部にばらまかれ、そんな相手と結婚させられそうになっているわけです。 まぁ恐らくですが、この話自体は賢老会側からの『落としどころ』の提案でもあったようですがね」


「そりゃどういう意味だよ?」


「そのままの意味ですよ、フィルド、スモウーブ、アメフットの三国は直接大司教……ひいては手駒として扱い切れなかったセオドア殿下の責任……ですが殿下を犯人としてつるし上げられてもウォルセアとしては困りますからね……賢老会としては極秘事項を匂わせた事で殿下個人の性癖を恥として三国に晒しながらも、正式に発表したわけではありませんから国としての対面は守られる。 殿下にはお好みでない令嬢をあてがうぞと脅しもかけられ反省を促すこともできる。 又その詫びもかねて聖女を三国のどこかから誕生させ、名誉を授けると同時に選ばれなかった国には聖女候補を出した国として箔をつけさせることができる。 その辺を落しどころとして今回の話は終わりにさせたいのでしょう」


じっとその話を聞いていたアドルファスは


「で、結局どうすんだ?」


と、問いかける。


「具体的にはまぁ、賢老会と話をつけなくてはならないでしょうね……今回はうちの諜報もかなり踊らされたせいで情報が錯綜しすぎて本当に面倒でした。 まさか相手が海千山千のご老人達のほうだったとは思いませんでしたから、もう少し慎重に行くべきだったと反省しておりますよ……」


とため息をつくエドワード。


「なんだ? 珍しいじゃねーか。 いつも自信満々なエドワード君はどうしたんだよ」


アドルファスのからかうような言葉に、エドワードは不機嫌そうに答える。


「私だって完璧な人間じゃありませんから失敗することも多々ありますよ……アンタみたいに後ろを振り返らないどころか、3歩 歩いたら忘れてるんじゃないかレベルの人間とは違いますからね」


「おう、調子出てきたじゃねぇか。 そうやって憎まれ口きいてるくらいじゃねぇとテメェはすぐ辛気臭くなってつまんねぇからな」


と笑うアドルファス。


「で、とりあえず大司教は処分するとして、坊ちゃん殿下はジジイ共のお仕置き受けてる最中だから後は本命のジジイ共か……そういえばマサタカのジジイもあいつらの事大嫌いだったよなぁ……」

なにやら思い出したようで、遠い目をしているアドルファス。


「召喚された直後から色々ちょっかいを掛けられてひどい迷惑をこうむったそうですね……まぁあれだけの力を持った方でしたから囲い込もうとするのは当然なのでしょうがやり方がまず過ぎましたよ……」


「まさか当時の聖女をジジイの下に送り込んでくるとはなぁ……しかも嫁にしないなら聖女破門して二度と世間に出られないようにするとか脅しやがったらしいじゃねぇか」


「あの方々は法家を繁栄させ、守る為なら手段は選びませんからね……まぁそれ以外には欠片も興味を抱かない極端な方々ばかりですが……それにしてもあの当時のご老人方のやり方は正気を疑いますけど」


「もうみんな死んじまってるし、大半はマサタカのジジイが鉄槌を下したって言ってたからそいつらのことはまぁいーんだけどよ、問題は今を生きてるジジイ達だよな」


「そうですね……もう最終的には法王猊下にすべてお話してご老人達を止めていただくしかないと思います」


「まぁさすがにお仕置きとは言っても、息子コケにされていいように使われたんじゃ法王も黙ってねぇんだろ?」


「ええ、『すべては適合の儀にて』と先ほど侍従殿とお話してまいりました。詳しくはまた後日ということで打ち合わせてます」


「じゃあ後は仕上げを残すばかりだな」


ニヤリと笑いながら、またソファに転がるアドルファスであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


エドワード「さっさと帰れ」


・セオドア殿下はエドワードに滅茶苦茶懐いております、どのくらいかと言えばウォルセアで一緒にお仕事して欲しいけど断られたので、ならばアドルファスを失脚させたら来てくれるんじゃないかと企むくらい懐いております。(全然意味なかった)


・本人はまったく自覚がないので、なんで好かれてるのかさっぱりなんですが、あの通りの世話焼きのオカン属性なものですからさみしいお子様だった殿下が、エドワードお母さんに懐かないわけがないという……。

で、本人がめざしている理想がエドワードなものですから、ハリーテ様のセオドア殿下にたいする印象

「エドワードをもっと柔和で人当たり良くしてその倍くらいうさん臭そうにした感じだ」

というのは大当たりなのです


尚、セオドア殿下は、無理やり何とかしようとしたり(フィルドの件はかなりギリギリ)、余りにも押しつけがましいと嫌われるのが分かっていますので決して強く押さない為、突き放すこともできずエドワードは割とどう対処していいか分からず困ってます(笑)


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