第30話 ウォルセアでの邂逅

 神聖国ウォルセア。 その名に恥じない白と浅葱色あさぎいろを基調とした美しい街並みは、聖地にふさわしい荘厳さと静けさを持って朝靄の中静かに移動する馬車の主、前日にキャサリン達と合流を果たしていたフィルド一行を迎えた。


 馬車は完璧に舗装された道を揺れもなく走ってゆく中、キャサリンは美しい街並みに目を奪われ思わず身を乗り出すほどであった。


「お嬢様、はしたないですよ」


 そう言いながらもキャサリンの様子が微笑ましくつい笑顔がこぼれてしまうウォルター。


「ごめんなさい、フィルドと全然違うのだもの……つい見とれてしまって」


と、恥ずかしそうに座りなおすキャサリン。


「帰りはもう少しゆっくりできると思いますから、よろしければその時にでも街を見学されますか?」


とウォルターはキャサリンを見ながらいたずらっぽく尋ねた。


「えっ!? よろしいんですの?」


と満面の笑みで立ち上がる。


「ええ、大丈夫ですからお座りください。天井に頭をぶつけても知りませんよ?」


とちょっと呆れたように諫めた。


「ご……こめんなさい」


と顔を真っ赤にして座りなおすのであった。



* * *


 ウォルセア本神殿へと到着した一行はそれぞれ案内された部屋へ入り、手持無沙汰となったキャサリンは手配に忙しいウォルターに座っていろとお茶を出され、チビチビと飲んでいた。


そこへウォルターが


「お嬢様、エドワード様がお見えでございます」


と声をかけてきた。


「お通しして下さい」


と返事を返し待っていればすぐエドワードが入ってきた。


「キャサリン嬢、着いて早々で申し訳ありませんが早速お話をさせていただいてもよろしいですか?」


「えぇ、勿論! 聖女選抜の儀についてのお話なのでしょう?」


「はい、聖女選抜の日程についてですがまだアメフットの一行が到着していない為に詳しくは到着後という話ですから、それまでは待機となります」


「まぁそうなのですか、はい分かりました」


キャサリンは素直にコクリと頷く。


「それでですね……」


と、話を続けようとした時、ウォルターが申し訳なさそうに


「ご歓談中申し訳ありません、ただいま部屋の方へスモウーブ第三公女ハリーテ殿下がお見えになっているようなのですが……」


と困惑したようにエドワードへ報告する。


「あぁ、ハリーテ殿下が……そうですか、それはお待たせするわけにもいきませんからお通ししてください」


と本来の部屋の主であるキャサリンに無断で指示を出すが、キャサリンはそれを当然のように受け止めている。


「かしこまりました」


と即ハリーテを迎え入れた。


「突然すまぬな」


と足音を立てることもなく颯爽と入ってきたハリーテの姿をみて驚くキャサリン。

だが、エドワードの視線に気づき、慌てて深く礼を取る。


「ハリーテ殿下、お久しぶりでざいます。 益々御健勝のことと……」


「あぁ、わたくし相手に堅苦しいのはいらぬ。 知らぬ者ではないのだからもう少し気楽に話せエドワード、勿論其方にも無礼は問わんぞキャサリン嬢!」


とにこやかにキャサリンを見るハリーテ。


「お初にお目にかかります公女殿下、わたくしフィルド王国ブサイーク侯爵が娘キャサリンと申します。 お会いできて大変光栄ですハリーテ殿下」


緊張しながらもキャサリンはハリーテへ挨拶をする。 それをニコニコと機嫌良さそうにながめつつ


「話は聞いておる。 自分を変える為よく努力していると、この先も精進し励むがいいぞ」


と声をかけるハリーテ、その堂々たる振る舞いに尊敬の念を禁じ得ないキャサリンであった。


「キャサリン嬢、ハリーテ様は頼りになる素晴らしいお方ですよ。 選抜の最中に不測の事態があった時は私たちは手出しできませんので、危険が及ぶ前にどんな事でもすぐハリーテ様に相談なさってくださいね」


とにこやかに言うエドワードであった。


「なんだ、まるでわたくしなら何も問題がないような言い方ではないか?」


とからかうようにハリーテはエドワードに尋ねる。


「事実ですからね。 ハリーテ様に関しては一切心配していませんよ、なにせの妹弟子なのですから」


とさらっととんでもない発言をするエドワード。


「えっ、あの……どなたにご師事されていらっしゃったのですか?」


と、おずおずとキャサリンは尋ねた。


「ここだけの話だぞ?」


と口の前に人差し指を立てるハリーテ。 それに、はしたないがコクコクと頷くキャサリン。


「実はな、私たちは『先代勇者マサタカとその伴侶たる大魔導士』の直弟子なんだ」


といたずらっぽく暴露したハリーテ。


「えっ……あの勇者物語の……」


茫然とするキャサリン。


エドワードは遠い目で


「あの時は本当に驚きましたよ……泥と土埃だらけの小汚い子供が、マサタカ師匠を突然訪ねてきて『弟子にしてください!』と地面にへばりつく勢いで懇願し出すんですから……」


と思い出している、それを見ながらハリーテは笑い


「いやぁ、わたくしもあの頃は若かったゆえにな! 勇者マサタカの物語を読んで感動してなぁ……いまだ存命だと知って、いてもたってもいられず気が付いたら一人、大公城を飛び出しておった!」


その話を聞いて唖然としているキャサリンと傍に控えていたウォルター。


「普通の公女様は家出なんてしませんからね! あのあと公国から極秘で捜索願をされたときにはひっくり返りそうでしたよ」


「わたくしも修行に区切りをつけて公国へ戻った時は死ぬほど叱られたぞ? だが、そのあと滅茶苦茶褒められたのだ」


と得意げに話すハリーテ。


「まぁ確かにあのあと大公陛下から、直々に師匠たちはお詫びとお礼をいただいてましたからね。 そんな殿下ですから何も心配いりませんし、いざというときはキャサリン嬢の身の安全を兄弟子としてお願いいたします」


と、ハリーテに深く頭を下げる。 その様子に慌てたハリーテは


「よしてください! 戦えぬ者を守るのは戦えるものの当然の役目、兄弟子に頭など下げられずとも役目は果たします」


と真剣にエドワードヘ答える。


「そう言っていただけると信じておりましたよ?」


とニコリと微笑むエドワード。


「まったく……相変わらずお人が悪いことだ……そんな真似せずとも一言頼むと言えばいいではないか」


無意識にかつての口調になった己が恥ずかしくなり、顔を赤くしながらハリーテは横を向く。


「殿下ならそう言ってくださるとは思っておりますが、つい……お許しください」


と、にこやかに話すエドワード。


 そこに兄妹弟子の気安さと繋がれている絆を見てキャサリンは微笑ましいと思いながらも、少しだけうらやましく思うのであった……。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


※ある日のマサタカ家


ハリ「弟子にしてください!」

爺「お前さん名前は?」

ハリ「ハリーテ・ドルジェ・スモウーブです!」

その時、爺に電流走る!

爺「そうか……よし分かった! 俺に任せとけ! さっそく今日はちゃんこ鍋だ!」

弟子共「ちゃんこ?」


こうして爺の異世界初の横綱を育成する日々がはじまったのであった……。(爺がこんなやつでスイマセン)

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