第29話 公女の憂い

 スモウーブ公国より神聖国ウォルセアへと、他国に先んじて到着していたスモウーブ第三公女ハリーテは用意されていた部屋でしばらくお茶を楽しみながら一人寛いでいたが、ふいにトントンとドアと叩く音がした。


「入れ」


簡潔にハリーテが許可をだすと


「失礼いたします」


と、ハリーテが最も信頼する侍従でもあり護衛でもあるカマスが入ってきた。


の様子はどうだ?」


「はい。現在は寝室の方の準備を手伝わせておりますが、早速殿下のアクセサリーに手をかけたようです」


侮蔑の表情で吐き捨てるカマス。


「殿下のご命令さえあれば、たかが侍女ごときいつでも切り捨てて御覧に入れますものを……」


と、男らしく逞しい体を怒りに振るわせて言い放つ。それを聞いたハリーテは


「ふふ……まぁ焦らずともよい。 たかが侍女とは言え次期大公である兄上が入れあげている女だ、下手に害しては面倒になるのだから仕方あるまい。 だからこそすべて事前の打ち合わせどおりで始末をつけた方が早いのだ」


と不敵に笑って見せる。


「ウォルセアの大司教ごときにこれ以上公国を良いようにひっかき回されてはたまらぬし、フィルドへの貸しも作れる。まさに良い事ずくめであるからな」


 そう逞しい胸を張って答えるハリーテを、眩しい物でも見るような顔で暖かく見守るカマス。


 事実、ハリーテはスモウーブ公国の基準ではとても美しい令嬢である、顔は勿論だがウォルセアと違いスモウーブはそこまで主神信仰を重んじているわけではなく、むしろ『固太り』と呼ばれる体型が美しい女性の理想とされる国である。


 ハリーテは背が高く巨漢といわれる部類ではあるが、その逞しい体つきに無駄な脂肪など存在しない、筋肉質な太ましい二の腕など惚れ惚れするような肉体美を誇っている。


 その人柄は豪放磊落ごうほうらいらくにして武人のような高潔さも併せ持つまさにカマスにとって理想の女神のような存在であった。


「ハリーテ様、それでの素性などはもう明らかに?」


「あぁ、フィルドから『間違いない』と確認の連絡が来ている。 どうやらフィルドの前王が廃太子にした男をたぶらかした平民の女と同一人物だそうだ」


「まさかあの女がフィルドの……しかも平民の者であったとは……いったいどこから公子様はあの女をお連れになられたのですか?」


驚いたカマスがハリーテに尋ねる。


「去年アメフットに留学へ赴いていたであろう? その時に出会ったとかで帰国するときにくっつけて帰ってきたのだ」


とまるで埃の話でもするかのように淡々とハリーテは答える。


  スモウーブ大公家では大公妃にそっくりな豪放磊落ごうほうらいらくな性格の3姉妹が跋扈しているせいで幼いころから、庇護欲をそそるような儚い細身の女性を好むようになった公子は、アメフットに留学した折にまさに理想ともいえる女性と運命の出会いをしたのだ。



「その後にそれなりの寵愛を与えながらも、兄上は未だ未婚であられるゆえに、愛妾を置くにはまだ外聞が悪い為、『専属侍女』とかいう名前で公子宮に入れて、ずっと傍に置いていたらしいぞ?」


と、にこやかにカマスへ答えてやる。


その言葉にカマスは


「そのような者をあの大司教めは手駒にしていたのですか……しかしそれならなぜ公子殿下はハリーテ殿下に同行するのを許可されたのでしょう?」


と唖然としている。


「最初は計画を遂行するために、大公陛下にお願いして根回ししようと思ったのだが、本人たっての願いを兄上が叶えた結果らしいぞ。 なんでも『私が聖女に選ばれて見せる』とか世迷言をほざいていたそうだ」


と、ハリーテはこらえきれずに声を上げて笑った。


それを見たカマスもつられて噴き出しそうになりつつも


「随分と大胆な発言をしたものですな、ただの随行員の侍女ごときがどうやって選ばれるつもりなんでしょう?」


「その件だが、ウォルセアのが先ほど報告書をもってきたぞ、どうやら最初はを呼び戻して聖女候補に選出させるつもりだったらしい。 だが次期法王殿下のお好みにあわなそうなひょろい娘では今回の目的に合わないから放置してたようだな」


少し考えてからカマスは


「では、あの女は大司教に無断で帰ってきたということですか?」


と尋ねた、それに対して優雅な仕草でお茶を飲みながらハリーテは


「そういうことだ、『そうなるかもしれない』程度の話を事前に聞かされていたようだが、大司教がそのまま放置していたせいで焦れたのであろう。 なぁカマス、これも中々面白い状況でであろう?」


とニコニコしている。


「兄上としては、が聖女に列聖されれば正妃にすることも夢ではないからと上手く丸め込まれたのであろうが……我が兄上ともあろうものが情けないものよな」


まったく……とハリーテは呟きながら、傍らに置いていた手紙をカマスへ渡し


「そろそろフィルドも到着する頃合いであろうが、先に事情を知らせておく方がよかろう。 これをフィルドのへ渡すように」


と命じた、その言葉に恭しく礼をとりながら


「御意に」


と一言答え、部屋を出ていくのであった。


「さて……フィルドのお二人はどう始末をつけるのか楽しみだ」


と一人部屋に残ったハリーテは楽しそうに呟くのであった……。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


時系列がちょっと分かりにくそうなのでここで


・大司教、司教時代にフィルドで王妃に加担してフール君誕生。

 …そのままフィルドで暗躍してたらフール君がやらかして、前日譚の断罪が始まりヤバそうなのでウォルセアに逃げ帰る。(大司教は断罪の時まで平民ちゃんの事知らなかった)


・その時に、隙を見てフール君(まぁ一応息子だしなんかに使えるかも)と平民ちゃん(こいつハニトラに使えそう)の回収指示をだし隙を見て成功。


・そのままウォルセアで大司教にのし上がり、法王一族に影響力を伸ばそうとゴソゴソ(現在継続中)


・ついでに公国へも影響力を伸ばす為ハニトラ要員に使えそうだと囲ってた平民ちゃんを送り込む。


・法王が聖女選抜するって発令を出したので、ハニトラ要員を回収してこっちにあてがおうとしたら

 デ〇専だと判明して、平民ちゃんはそのまま続行でいいやと放置(これも現在継続中)


・代わりのハニトラ要員に最適だとアメフットの令嬢を推す計画を遂行中。


こんな感じです。

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