第15話 帰還と新たなる旅 1
新緑の匂いが開けられた窓から薫る温かな春の昼下がりに、オズワルドは執務の手を止めて窓の外を少し眺めた。
「あれからもう1年たったのか……」
毎日無我夢中で国の立て直しに全力を注いできた、まだ政府としての基盤がやっとできたばかりといった所ではあるがこれからは後ろ盾になってくれているフィルド王国の手も少しづつ離していかねばならないだろう。 いまだ幼子のような国ではあっても、徐々に独り立ちしていかねば他国の喰い物にされてしまうのだから。
つらつらとそんなことを考えていたが、ふいにコンコンと扉が叩かれる。
「入れ」
「失礼いたします」
と、入ってきたのはフィルド全権大使エドワード。
「陛下、かねてより計画されていた『勇者帰還の儀』の日取りが正式に決まりました」
「そうか……これでやっとショカンシタの悪夢を終わらせることができるな」
「そうですね……本来であればまだまだ時間がかかったかもしれませんが、皆で頑張ってきた甲斐があったというものです」
とにこやかに笑うエドワード、一体この無理を通すためにどんなことをやってきたのやら……とオズワルドは言葉には出さないが考えてしまう。
「では計画通り儀式がおわったらフィルド全権大使の駐在は終了ということでよいか?」
「ええ、私達の仕事もやっと終わりますのでこれで心置きなく旅に出られるというものです」
「旅?」
「はい、私たちは冒険者ですからね」
「なぜ冒険者など……」
「
と、遠い目でげんなりした表情で答えるエドワード、それを見て色々と察したオズワルドは
「そうか……」
と一言だけ答えた。
「陛下も立派に王様業が板についてこられたようですし、私も安心して旅立てるというものです」
その言葉にオズワルドは思わず本音をこぼしてしまう。
「私が本当にこのまま王を続けていって良いのでしょうか……」
不安そうなオズワルドをみてエドワードは真顔で答える。
「それを決めて良いのは貴方でも私でもありませんよオズワルド」
「えっ?」
「前にもお教えしたはずです、決めるのは民だと。 貴方は民に選ばれてその椅子に座っているにすぎません、もし相応しくないと民が判断したならその時は貴方は王でいられなくなるのですからゴチャゴチャ難しいことなど考えずに民の為に努力すれば良いのです」
それを聞いたオズワルドはつらそうに下を向く。
「それでも迷いが生まれることもつらいと感じる事も多々あるでしょう、そんな時はどうしようもなくなる前に自分を支えてくれる周りを頼りなさい、私も愚痴くらいならたまには聞いて差し上げますよ」
とエドワードは微笑む、それをみたオズワルドはこみ上げてくる涙を必死で我慢した。
「それと、頼る身内がみんないなくなってしまった貴方にはちゃんと貴方を見て叱ったり励ましたりしてくれる者も必要ですからね、できるだけ早くお嫁さんを貰うことをおすすめしますよ」
といたずらっぽくエドワードが言う。
「はっ!? い……一体なにを突然……」
と動揺しまくるオズワルド
「そこでですね、これはフィルド王からの申し入れなのですがフィルド王のご息女であられる第一王女エメラ様とのご婚約をお願いできないかと」
その言葉にオズワルドは仰天する
「エッ……エメラ嬢と……」
顔を真っ赤にした大変分かりやすいオズワルドを知らぬふりで眺めながらエドワードは続ける。
「ええ、陛下が度々フィルドにお越しになられていた時に
と、しれっと説明するエドワード。
「そ……それは大変ありがたい申し出ではあるがエメラ王女本人は承知しておるのか?」
「むしろ王女ご本人からの嘆願による申し出だそうですが」
それを聞いたオズワルドは昇天しそうな様子で
「ならば私に否など存在しない……議会で承認されるなら喜んで受けさせていただく」
とポソポソとした声で答えた。
「あぁ、議会は満場一致で賛成されたそうです、陛下のご意思は承りましたので明日正式な使者がまいりますから後はよろしくお願いいたします」
すでに埋まっていた外堀に戦慄しながらも緩む頬は抑えられないオズワルドであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
エルピス国の簡単なその後
・これで全権大使がいなくなっても支援がつづけられます、むしろ王は可愛い娘の為に『パパ張り切っちゃうぞー』とさらに力入れて支援してくれることでしょうね…w
そのおかげで「フィルドは乗っ取り企んでるんじゃ……」と疑われたりしますが、その問題がこじれて心労で倒れそうになるオズワルドを、エメラ様が全力で支えまくる姿をみた国民のおかげでエメラ様の株が爆上がりして国王夫妻は大人気で結果オーライになります。
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