第13話 落日の王国 3

 その日もショカンシタ王グサークは不機嫌だった。

閑散とした王宮の中を歩き回るが彼の元へ誰一人として近寄ってくる気配すらない。

それもこれも、現在この城は完全に包囲されており、逃げ出すことも簡単にはいかない状況になっている為だ。


 事の始まりは些細な事だった、在位5年目になるグサークは目立った功績を出すこともできず焦りを感じていた、古参の家臣の助言を受けながら必要最低限の執務はこなしてはいたが、それだけでは諸外国への発言権はあまり高くもできず、条約会議に出席するたびに諸外国の王達に密かに舐められている事にガマンができなかった。


特にフィルド王であるアドルファスは顔を見るたびにバカにしたように声をかけてくるのだ。


あれは前回の条約会議の時だったろうか。


「おお!これはこれはショカンシタ王ではありませんか」


グサークは会議が終わり国へ戻る準備をしにいく途中でアドルファスに声をかけられた。


「これはフィルド王、お久しぶりでございますな」


「ええ、グサーク殿はお元気そうでなによりです」


と、暗に相変わらず無能だと嫌味をこめた物言いで挑発してくる、さすがに公共の場であることからグサークはこらえて笑みを作る。


「優秀なフィルド王にかかっては私のような青二才ではとてもかないませんのでお手柔らかにお願いいたします」


「何をおっしゃるのやら、貴殿が私共にどのように優秀な才能を見せつけて下さるのかと毎回楽しみにしているのですよ」


とアドルファスはニヤつきながらグサークを見る


「まさか今年は封印された召喚魔法陣をショカンシタで保管させて欲しいなどと、私には考えもつかない大それたことを発言なされると思いませんでしたから大変驚かせていただきましたよ?」


と真顔になったアドルファスが言う。


その発言にさすがに耐えかねたグサークは


「あれは各国が持ち回りで保管されているはず! ならば我がショカンシタが立候補していけない理由がおありだとでも言われるのか!?」


イラついたグサークがアドルファスに噛みつく。


「いけませんね」


とピシャリと返すアドルファス


「なんですって?」


「グサーク王はご存知なかったのですかな? あの魔法陣を一度保管した国は10年たたないと再度保管国に立候補できないのですよ? 貴方の国は6年前に保管国に選ばれておりますので無理ですな」

と、アドルファスは言う。


「そ……そんな」


「もう少しされたほうがよろしいですぞ? では失礼いたします。」


とバカにしたように去っていった。 


 怒りのあまり震える体を無理やり動かし、グサークは急ぎ国へ戻り家臣を集め怒鳴りつけた。


「なぜ10年経たないと立候補できないことを教えなかったのだ!」


青い顔で宰相が答える。


「陛下…………なぜ先に我らにご相談いただけなかったのです? まさかそのようなお話を会議へもっていかれるなど我らは聞いておりませんでしたぞ、そもそも今回の議題には……」


その言葉に、自分の国に戻ってまで馬鹿にされるのかとカッとした王は


「もうよい…………貴様は本日で宰相の任を解くこととする!」


と宣言した。


「それはっ…………陛下! どうかお考え直しくださいませ!」

一緒にいた大臣達が王へ必死に懇願する。


「貴様らはこの王たるこのグサークの指示よりも宰相を優先するというのか…………ならばそのほうらもまとめて任を解く!いますぐこの城から出てゆくがよいわ! 衛兵、全員連れて行け!」


と言い捨てて謁見の間を出て自室へと戻っていった。


* * *


 それから、坂道を転がるようにグサークは自分に都合のいい言葉を吐く者にのみ、耳を傾け古くから王家を支えてくれていた家臣を簡単に処断するようになっていった、決定的な出来事となったのはその身をもって王を諫めようとした宰相を邪魔に思い処刑したことだった。


 その時から王へ忠言ちゅうげんを行う者はいなくなった、グサークに取り入る者ばかりが傍に集まり心ある貴族達は城へ寄りつかず領地へ引きこもるようになっていった。

 

 そんな時にグサークにおもねる貴族達がある提案を持ち掛けてきた、王としての権威を強化するために隣国へ攻め入ってはどうかと。

確かに隣国とはそれほど仲がいいとは言えないが、同じくらいの国力の国へ戦争をしかけて万が一負けてしまっては本末転倒ではないか、そう考えて渋っていると貴族たちは更なる提案を持ってきた。


『密かに勇者を召喚し操り人形に変えて攻め入らせれば良い』と。 さすがにグサークは躊躇した、別に異世界の人間を呼び出すのは構わないが、事態が明るみに出ることなく召喚できるものかと。


 だが思案しているうちに、貴族たちは密かに手を回し今回新たに保管するために他国へと運ばれていた召喚魔法陣を道中で偽物にすり替えることに成功してしまった。 


もうこうなっては事態がバレる前に召喚するべきだという強烈な誘惑に負けてグサークは召喚を決断し『今度ばかりは』と反対する騎士団長を解任したあと密かに拘束して、召喚の生贄として使った時もなんの痛痒も覚えることがなかった。 代わりに召喚勇者を騎士団長にすればいいか……などと安易に考えていた程度だ。


……そしてショカンシタはその日から地獄に変わった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


・本人としては普通に釘を刺しに行った程度のつもりなんですが、アドルファスに喋らせるとろくな事にならないという…エドワードも、グサークがアホな事言い出すと分かってたらアドルファスを野放しに一人で会議に送り出したりしませんでしたよきっと…。

だからこそのルイスとの会話にあった「バカの考えることは予測が難しい」発言なんでしょうねぇ。

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