第12話 落日の王国 2

「それで、話はもどるのですが『勇者返還の儀』をするのにいくつかの条件が条約会議でつけられました」


エドワードは話を続ける。


「と、いいますと?」


オズワルドは真剣な表情で聞き返す。


「まず一つは、早急なショカンシタ王国の安定、これは政情が不安定な場所で儀式を行うわけにはいかないからですね、二つ目は第一級条約違反によるショカンシタ王グサーク及びその関係者の処断、これは勇者ゴトーから全面委任された我がフィルド王国が担うことになりました、なので今後はあなた方を我がフィルドが全面支援いたします」


とエドワードがニコリと微笑んだ、その言葉を聞いたオズワルドは孤立無援状態だった自分たちがやっと救援を受けられることに安堵の息をつく、やっと希望の光が見えたと。


「なのでまずは、ショカンシタ新政府を立ち上げオズワルド殿、貴方に新王になっていただきます」


まるで何でもない事のようにエドワードが言う、驚いたオズワルドが


「なっ!? 私が王などと一体どうして……」


その言葉にエドワードが可笑しそうに


「何をおっしゃっているのですか、貴方は王を倒す地下組織を率いていらしたんでしょう? それにあの愚王以外の王族は皆消えてしまったと報告が上がっています、貴方は王を倒した後どうされるおつもりだったのですか?」


「そ……それは……」


王を倒そうという思いばかりで、先の事など考えてもいなかった事実にオズワルドは自分自身で衝撃を受ける。


「あの愚王が倒れたからといって、それで終わりではありませんよ? いまだにこの国に残っている民の為にも貴方は最後の王族の血を引くものとしてこの国を立て直す義務があります」


考えてもいなかった事態にオズワルドは困惑を隠せない。


「私に王など務まるでしょうか……」


「少なくとも、そこの男よりは王らしい王になる事は保証いたしますよ?」


とエドワードは微笑む、それを見ながらオズワルドが唸る。


「テメェ……言いたい放題いってくれんじゃねぇか……まぁいい。オズワルド、お前は王になりたくねぇのか?」


とオズワルドヘ問いかける。


「考えたこともありませんでしたので……ですがなりたくないと言えばならなくて済むものなのですか?」

と問いかける言葉にアドルファスが答えた。


「まぁなりたくねぇって言うなら仕方ねぇなぁ……これが一番穏便にすむ方法なんだが、イヤなら神輿に乗せる人間がいなくなるから、フィルドがかわりに統治するしかねぇ。 併合するためにまず軍をだして首都を包囲する、そのあと城攻めに入るだろうがそれで市民が抵抗するようなら無用な血が流れるだろうよ」


「そっ……それは……」


オズワルドの顔色が一気に悪くなる。


「そのあとは、あのクソ王を王位から引きずり降ろしてフィルドに併合したらまぁ、俺がしばらく国の面倒は見てやるよ、これでも王様やってた経験者だからなぁ」


とニヤニヤと笑うアドルファス


「だから選ばせてやるよオズワルド、覚悟をもって王様やるか尻尾まいて怯えて逃げだすのかをよ」


真っ青な顔色のオズワルドが


「わ……分かりました……お二人のおっしゃることに従いますからどうか民に無体なことはしないでください……」


と震える。


 それを黙ってずっと見ていたエドワードが


「……アンタ無駄に若者いじめるのやめろっていってるでしょう! まるで私たちが武力を盾に脅してるみたいじゃないですか」


「実際そうなんだからしょうがねぇじゃねぇか」


「バカなこと言わないでくださいよ……まったくこの男に任せてると碌なことになりませんからキチンとお話しますね、まず貴方は王位といっても暫定的なものとなるのでそこまでプレッシャーを感じずとも大丈夫ですよ」


オズワルドは困惑してエドワードを見る


「それは……どういうことですか……やはりグサークを倒したらフィルドに併合するということでしょうか?」


「いえいえそうではなく、新政府は立憲君主制を採用していただきたいのです」


「そ、それは……」


「この国は愚王によって踏みにじられた国です、新しい王となったものを信用できる民は少ないでしょう。 幸いなことに貴方はすでに地下組織という名の民と共に活動する場を作り活躍されてきました、そんな貴方だからこそ『君臨すれども統治せず』をやって下さるのではないかと思っているのですよ」


 オズワルドは考える、本当にそんな事が可能なのだろうか……君主が法に縛られる事になるからグサークのように好き勝手なことはできなくなり、その点だけでも民は安心するだろう……だが民に政治がおこなえるのだろうか……。


「最初は色々な問題が噴出するでしょう、ですが長い目で見ればこの国が生まれ変わるチャンスなのですよ、言葉は悪いのですが現在この国には民がとても少なくなってしまっています、逆に言えば政治についてきちんと教育を行きわたらせやすい状況でもあるのです。 その為の下地作りくらいは私達がいくらでもお手伝いいたしますから一緒に頑張ってはいただけませんか?」


 そこまでこの国の将来を考えてくださるのか……とエドワードの言葉にオズワルドは感謝で胸が詰まる思いだった。

対して縁のない国の為に、これだけお膳立てしてもらっているのだからとオズワルドは覚悟を決めた。


「分かりました。 どうかお二人のお力を私にお貸しください!」


とオズワルドは立ち上がり深々と礼を取った。


そしてこの日ショカンシタ王国は新しい国へと生まれ変わる第一歩を踏み出したのだった。


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