沈林子3 復讐      

京口けいこうで、祖父は学問に励まれました。

そして劉裕りゅうゆう様が桓脩かんしゅうより京口を、

桓玄かんげんより建康けんこうを奪還されると、

それに従います。

時に18歳、身長は180cmでした。


沈穆夫しんぼくふ様の子どもたちが生きている、

しかも劉裕様の庇護を受けている、

と知った沈預しんよ

かの者は常に復讐に怯え、

常時武装しておりました。


その思いは、叶えてやらねばなりません。

そうして祖父は兄の沈田子しんでんし様とともに

呉興ごこう郡にいる、沈預めのもとに出発。


そして5月、夏節の祭の日。

沈預めは一族郎党を大ホールに集め、

宴会を開きました。


祖父と沈田子様は、

この会場に乗り込みます。

沈預めの首を挙げ、

あわせて居合わせた郎党を、

老若男女の別なく、殺しました。


そうして沈預めの首を、父祖の墓前に

捧げたそうでございます。


二十一世紀的観点で申し上げれば、

虐殺、と呼ぶべきふるまいでありましょう。

この当時においては、壮挙なのです。

己がルーツを損ねた者に対し、

より激しく、苛烈に報いる。


見方を変えれば、主君に対し、

それだけ壮絶なる決意をもって

仕える人物である、とも認識される。


故に祖父らは呉興郡から招聘を受けたり、

また当時、劉裕様と声望を二分していた

劉毅りゅうきからも招かれました。

が、いずれも辞退。


劉裕様からも招聘を頂いておりましたが、

家門がズタボロとなっていたことから、

また、誰かに仕えることが許されるような

身の上ではない、ともお考えになり、

やはり、何年もの間、辞退。


しかしながら、劉裕様は

お諦めになりませんでした。

揚州ようしゅう刺史となられた頃に、

またも祖父を招聘なさるのです。


「お前ほどのものが、どうしてそうも

 出仕を拒むのだ?


 俺がこうしてお前を呼ぶのはな、

 世の中広くに、

 お前のその激しき孝の志を

 知らしめてやりたいからなのだ」


ここでも祖父は辞退なさいましたが、

いつまでもおとなしく引き下がる

劉裕様ではございません。


ついに祖父は、劉裕様の招聘に

応じられました。


21歳のときのことです。




博覽衆書,留心文義,從高祖克京城,進平都邑。時年十八,身長七尺五寸。沈預慮林子爲害,常被甲持戈。至是林子與兄田子還東報讎。五月夏節日至,預正大集會,子弟盈堂,林子兄弟挺身直入,斬預首,男女無長幼悉屠之,以預首祭父、祖墓。仍爲本郡所命,劉毅又板爲冠軍參軍,竝不就。林子以家門荼蓼,無復仕心,高祖敦逼,至彌年不起。及高祖爲揚州,辟爲從事,謂曰:「卿何由遂得不仕。頃年相申,欲令萬物見卿此心爾。」固辭不得已,然後就職,領建熙令,封資中縣五等侯,時年二十一。


衆きの書を博く覽じ、心に文義を留め、高祖の京城を克せるに從い、進みて都邑を平らぎたるは、時に年十八、身長は七尺五寸なり。沈預は林子の害を爲したるを慮れ、常に甲を被り戈を持つ。是に至りて林子と兄の田子は東に還じ報讎す。五月の夏節の日に至り、預は正に大いに集會し、子弟は堂に盈つれば、林子兄弟は挺身直入し、預が首を斬り、男女長幼無く悉く之を屠り、預が首を以て父、祖が墓に祭す。仍ち本郡の命ずる所と爲り、劉毅は又た板じ冠軍參軍に爲さんとせど、竝べて就かず。林子は家門の荼蓼なるを以ち、復た仕うる心無からば、高祖の敦逼にても、彌年至れど起たず。高祖の揚州に爲りたるに及び、辟し從事と爲さんとせば、謂いて曰く:「卿は何ぞの由にてか遂に仕えざりたるを得んか? 年の頃にして相申したるは、萬物をして卿の此の心の爾りたるを見さしめんと欲さばなり」と。固辭せど已にして得ず、然る後に職に就かば、建熙令を領し、資中縣五等侯に封ぜらる、時にして年二十一なり。

(宋書100-10_仇隟)




このあたりの激烈な敵討ちエピソードは、桓温かんおんにも見えていたりします。初めて見たときは「虐殺魔じゃねーかwww」って爆笑しましたよね。


けど、これが讃えられる。そして沈約しんやくの筆も、そこに何ら疑義を挟んでいない。つまりは、「そういうもの」なのです。


どんだけこう言った「そういうもの」を、一旦余計なこと考えずに飲み込めるか。そいつができるかできないかで、あらゆる記述の意味合いが変わってきそうです。

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