巻45&巻100 長安の腐臭 王鎮悪&沈氏兄弟

王鎮悪1 王猛の孫    

壮侯 王鎮悪おうちんあく 全15編

 既出:劉裕49、劉裕58、劉裕59

    劉裕60、劉裕75、劉裕77

    劉裕79



王鎮悪は、北海ほっかいげき県の人。

祖父はあの王猛おうもう、字は景略けいりゃく

苻堅ふけんの下で文武の才を発揮した、

いわゆる中原の重鎮であった。

そして、父は王休おうきゅう河東かとう太守になった。


王鎮悪の生まれは五月五日。

これは最悪の厄日であったらしい。

なので家族は王鎮悪を忌み、

遠い血縁に養子に出そうとした。


ここに出てくるのが、王猛さんである。

孫の顔を見て、おっやべえぞこいつ、と。

そして言う。


「この子はヤバい。

 考えてもみろ、孟嘗君もうしょうくんだって

 悪い月に生まれたにもかかわらず

 せいの国の宰相になっただろう!


 この子もまた、我が家門を

 大いに隆盛させるぞ!」


そこで、鎮悪、と名がつけられた。


そんな王鎮悪が十三のとき、

苻氏は敗れ去り、長安ちょうあんはグダグダに。

王鎮悪の家族は長安と洛陽らくよう

中間地点あたりをさまようことになった。


そんななか、地元人の李方りほうが、

王鎮悪らを招き、ねんごろに待遇。

これに恩義を感じた王鎮悪は言う。


「今後英邁なる主のもとで

 宰相に取り立てられたら、

 この恩に厚く報いたい」


李方は答える。


「あなた様は王猛様の孫にして、

 その才能もよく引き継いでおられる。

 そのお言葉を疑う余地はございません。


 ただ、私に大願はございません。

 もしその時が来ましたら、

 この県の長官にさえしていただければ

 満足でございます」


その後王鎮悪は、

叔父の王曜おうように引き連れられ東晋入り。

荊州で客人として逗留した。


諸子百家、兵書のたぐいを精読し、

国家運営、軍事について活発に論じた。


騎馬は下手くそ、弓はろくに引けない。

そんな有様だったが、

その発想力は無尽蔵、

そして何より、決断力に優れていた。




王鎮惡,北海劇人也。祖猛,字景略,苻堅僭號關中,猛為將相,有文武才,北土重之。父休,為河東太守。鎮惡以五月五日生,家人以俗忌,欲令出繼疏宗。猛見奇之,曰:「此非常兒,昔孟嘗君惡月生而相齊,是兒亦將興吾門矣!」故名之為鎮惡。年十三而苻氏敗亡,關中擾亂,流寓崤、澠之間。嘗寄食澠池人李方家,方善遇之。謂方曰:「若遭遇英雄主,要取萬戶侯,當厚相報。」方答曰:「君丞相孫,人才如此,何患不富貴。至時願見用為本縣令,足矣。」後隨叔父曜歸晉,客居荊州。頗讀諸子兵書,論軍國大事,騎乘非所長,關弓亦甚弱,而意略縱橫,果決能斷。


王鎮惡は北海の劇の人なり。祖は猛、字は景略、苻堅の關中にて僭號せるに、猛を將相と為し、文武の才有さば、北土は之を重んず。父は休、河東太守と為る。鎮惡は五月五日を以て生まれ、家人は俗を以て忌み、出だし疏宗を繼がしめんと欲す。猛は見て之を奇しみ、曰く:「此れ非常の兒なり。昔、孟嘗君は惡月に生まれど齊を相したり。是の兒も亦た將に吾が門を興さん!」と。故に之に名し鎮惡と為す。年十三にして苻氏は敗亡し、關中は擾亂せば、崤、澠の間を流寓す。嘗て澠池人の李方が家に寄食せば、方は善く之を遇す。方に謂いて曰く:「若し英雄なる主に遭遇し、萬戶侯と要取さらば、當に厚く相い報いたらん」と。方は答えて曰く:「君は丞相が孫にして、人才は此くの如し、何ぞ富貴ならざるを患わんか。時の至りたるに、願わくば用いられ本縣令と為さらば、足りたり」と。後に叔父の曜に隨いて歸晉し、荊州に客居す。頗る諸子兵書を讀み、軍國の大事を論じ、騎乘に長ずる所非ざり、關弓も亦た甚だ弱かれど、意略縱橫にして、果決能斷なり。


(南史19-4_為人)




王鎮悪

劉裕配下将としては実績、名前の特異性もあり、下手すれば檀道済だんどうさいすら食いかねない知名度の将軍。残っている記録が杜預どよっぽいのは、明らかに将来洛陽長安を取る将軍になりますよという伏線である。大活躍の末長安守備将として赴任し、そこで同士討ちの末殺される(その後長安は赫連勃勃かくれんぼつぼつにかっさらわれる)のだが、この辺もいろいろきな臭くて楽しい。追って紹介します。


王猛

五胡十六国時代最大のビッグネームと言っても過言ではない。その孫ですから、ネームバリューがやばいわけなのです(伏線)。


孟嘗君

戦国時代の人で、いわゆる戦国四君。斉の王族として生まれたが王族には煙たがられ秦に出た。そこで大活躍した結果危険視されたため脱出、斉に戻って宰相になった。けど結局斉でも危険視されたので魏に脱出。忙しい。

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