謝晦3  劉穆之との懸隔 

謝晦しゃかいはイケメンだった。

笑顔は輝き、目鼻立ちはくっきり、

頭髪はまるで墨のように真っ黒。


広く文籍に通じ、博識であったため、

劉裕りゅうゆうの謝晦を溺愛すること、

他の追随を許さなかった。


後秦こうしん討伐に際しても、

謝晦に多くの重大案件を任せた。


建康けんこう劉穆之りゅうぼくしが劉裕に諮りたいことを

書面で送ってきても、

その決済はほぼ謝晦が下す。


これに劉穆之、大激怒である。


「なんだこれは、

 劉裕様は建康に戻って来られる

 おつもりがあるのか?


 このまま長安ちょうあんで、謝晦と共に

 政府を開きかねん勢いではないか!」



時が少し戻る。

劉裕、建康にいた頃からも、

謝晦に要職を務めさせたい、と考えていた。

そのためには肩書きが必要だ。


その肩書とは、從事中郎。


劉裕、謝晦をこのポストにつけてやりたいと

何度か劉穆之におねだりしていたが、

劉穆之、頑として首を縦に振らなかった。

結局、死ぬまで。

そう、死ぬまで。



劉穆之の葬儀に立ち会い、

ギャン泣きする劉裕。

だがその裏で、謝晦はほくそ笑んでいた。


自らの足で宮廷に向かい、

劉穆之死後の人事に首を突っ込み、

そして、その日のうちには、

從事中郎をかっさらうのだった。




晦美風姿,善言笑,眉目分明,鬢髮如點漆。涉獵文義,朗贍多通,高祖深加愛賞,群僚莫及。從征關、洛,內外要任悉委之。劉穆之遣使陳事,晦往往措異同,穆之怒曰:「公復有還時否?」高祖欲以為從事中郎,以訪穆之,堅執不與。終穆之世,不遷。穆之喪問至,高祖哭之甚慟。晦時正直,喜甚,自入閣內參審穆之死問。其日教出,轉晦從事中郎。


晦が風姿は美にして、言笑を善くし、眉目は分明、鬢髮は點漆が如し。文義を涉獵し、朗贍にして通きに多じ、高祖は深く愛賞を加うらば、群僚に及びたる莫し。關、洛の征せるに從わば、內外の要任は悉く之に委ぬ。劉穆之の使を遣りて事を陳ぜしむらば、晦は往往にして異同を措き、穆之は怒りて曰く:「公は復た還じたる時有りや否や?」と。高祖は以て從事中郎に為さんと欲し、以て穆之を訪ねど、堅執し與えず。終には穆之が世にては遷らず。穆之が喪問に至らば、高祖は之に哭せること甚だ慟、晦が時の正直なるは、甚だ喜び、自ら閣內に入り穆之の死問を參審す。其の日に教出し、晦は從事中郎に轉ず。

(宋書44-3_仇隟)

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