第20話 人質奪還作戦?

「えっ、マリーゴールド号の子息達が、生きていたのですか?」 


 グレゴリウス国王から依頼を受けていたが、ショウはあまり期待していなかった。


「金持ちの子息達は、身なりも良かったのでしょうね。今はイルバニア王国の家族に、身の代金を要求する手紙を書くタイミングを待っているみたいですよ」


 ショウは、それならイルバニア王国にそう報告すれば良いんだと、ホッとする。


「家族達が身の代金を支払えば、彼等は解放されるんだね。良かった、これでイルバニア王国の海戦を求める声も抑えられる」


 バッカス大使は、楽観的なショウの言葉に溜め息をつく。


「そうはならないと思いますね。家族達は息子が生きていたのを知って喜ぶでしょうが、身の代金の額を聞いて激怒するでしょうよ。財産の半分を要求されては、嬉しくないでしょうからね」


 ショウは、そんなに高額なの? と驚く。


「まぁ、場所代をジャリース公が上乗せするのもありますが、わざわざ生かしておく手間代をキッチリ海賊は回収しますよ」


 ヤング艦長とショウは、海賊とジャリース公に毒づく。


「だから、子息達を救出する必要があるのです。今、イルバニア王国に海軍を増強されるのは拙いのよねぇ。海戦になってぼろ負けしたら、グレゴリウス国王は海軍に金と人員をつぎ込むでしょう。長年の宿敵のローラン王国には王女を嫁がせていますし、バロアの長城を築いて国境線の守りを固めていますから、ショボイ海軍を増強するチャンスなのですもの」


 それはショウにも理解できたが、海賊がアジトに隠している人質を救出するのは難しいと思う。


「それに、アジトはわかっているのですか?」


 ホホホと笑ったバッカス大使に、嫌な予感がしたショウだ。


「そこは抜かりはありませんわ。元々、2、3箇所に目を付けていたのですよ。マリーゴールド号の子息達が閉じ込められているアジトは確認していますわ」


 ショウは変わったバッカス大使が、危険なマルタ公国の駐在大使に任命されたのは、能力が高いからなんだと改めて感心する。これで服装と話し方を普通にしてくれたら、問題は無いんだけどと、内心で愚痴る。


 ヤング艦長はアジトの位置を聞いて、何故マスカレード号の協力が必要なのか理解する。


「この洞窟の入り口は、干潮の時だけ通れるの。マスカレード号は沖合いで待機して、ボート何叟かに分乗してアジトへの襲撃をかける計画よ」


 ショウはバッカス大使の計画を聞いて、そんなに狭い洞窟の入り口から襲撃していたら、人質が殺されるのではと質問した。


「そうなのよねぇ。だから、潜入して人質達の命を助ける人が必要になるの……」


「潜入?」


 ショウとヤング艦長は、顔を見合わせる。バッカス大使はニッコリと笑い、ショウは背中に風邪では無い悪寒が走る。


「実は、あのアジトの洞窟には、宮殿から秘密の通路が通じているのよ。その通路を使って人質を交換する時は、宮殿の離れに連れて来られているの」


「それはジャリース公が海賊の元締めだという、証拠ではないですか! そんな通路があるってことは、海賊と共謀しているのですよね」


「わかった! 海からボートでアジトに襲撃をかけ、宮殿からも通路を使って襲撃をかけて挟み撃ちにするんだな」


 バッカス大使は、怒るショウと、血の気の早いヤング艦長に、ヤレヤレと溜め息をつく。


「ショウ王子、あの通路は前からある物なのです。本来は危機に陥った時に、海へと逃れる為の通路だったのでしょうね。海賊のアジトと繋がっていると、ジャリース公を責めたてても、そんなことは知らないとシラをきられるだけですよ。父上から通路について聞いてはいたが、幸いにして使うような危機には遭遇しなかった。海賊がアジトにしていただなんて、ああ恐ろしいと、言われたら、どうしようも無いでしょ」


 バッカス大使のジャリース公の声色が、スチュワート皇太子の結婚式の時にチラリと会った気取った口調にそっくりで笑ってしまう。


「では、武力で宮殿を占拠して、離れから……」


 シラ~とした目で眺められて、ヤング艦長は口を閉じる。


「ジャリース公は、男も女でも綺麗な人が大好きな変態なのよ。特に、口に出すのも穢らわしいけど、アスラン王のお顔が大好きなの。それはまぁ、綺麗だし、あの傲慢なところが堪らないのは、わかるけど、厚かましいわよねぇ。アスラン王に叱られたくて、こんな馬鹿なことをやっているのではと疑惑を持った時もあったわ」


 ショウはそれは無いだろうと、首を横に振る。


「あら、私ならアスラン王に叱って貰いたいけど、ジャリース公は根っからの馬鹿ね。で、ショウ王子も超好みの顔だと思うのよ」


 ヤング艦長は、駄目だ! と叫ぶ。


「ショウ王子を危険な目に遭わすのは駄目です」


「あら、ショウ王子を危険な目になんか遭わせないわよ。ジャリース公に、私の妹を紹介するだけですもの。ジャスミンっていう綺麗な妹なのよ」


 そう言うと、どこから出したんだと驚くショウの頭にスポッと鬘を被せる。


「きゃ! 何て綺麗なの!」


 男の服装のままなのに、ショウが綺麗なお姫様に見えて、ヤング艦長は目をパチクリする。


「冗談でしょう!」


 ショウは怒って、鬘を投げ捨てる。


「あら、とっても似合っていたわ。これでお化粧をして、女物のドレスを着たら、どこから見ても綺麗なお姫様よ。それに、今度の大潮の夜は満月だから、夜の庭でも灯り無しで動けるわ。ヤング艦長、私がショウ王子に腐れ外道の指など、触らせたりしないと約束するわ」


 変態のジャリース公の危険もだが、離れから秘密の通路を使ってのアジトへの襲撃に、ショウが加わるのをヤング艦長は心配する。


「何人かの腕利きを連れて行くから大丈夫よ。ショウ王子には後で見ていて貰うわ」


 ショウは自分だって剣の腕をあげていると抗議したが、女物のドレスを着て戦えるのですか? と呆れられる。


「だから、他の人を使えば良いじゃないか。侍従も綺麗な男ばかりだし」


 バッカス大使は指を一本立てて、チッチッと横に振りながら文句を言う。


「ジャリース公は普通の綺麗な男や、女には飽き飽きしてるわ。絶対に手に入らない月か星のように、アスラン王に恋い焦がれているのよ。そこに、そっくりな姫君がいたら……私でもグラリとしちゃう程の綺麗さですもの、絶対に離れに連れ込みたくなるわ」


 バッカス大使の変態様のお気に入りの讃辞が貰えて、トホホなショウだった。


「でも、ジャリース公も僕がビザンにいるのを知っているのでは?」


 バッカス大使はショウ王子だなんて知ったら、本当に帰してくれなくなるわと内心で呟く。


「勿論、そのくらいジャリース公も知っているでしょうけど、病気で療養中だと大袈裟に噂を流しているから大丈夫よ」


 何だか納得がいかないショウだったが、ボスっと鬘を被らされる。


「絶対、変だよ。僕はもう14歳だし、背だって高いんだよ。こんな背の高い女なんていないよ」


 そう抗議する顔が、とても可愛いとバッカス大使は頬を染めてしまい、ヤング艦長は趣味でこの作戦を立てたのかと詰問する。


「まぁ、失礼ねぇ。他に作戦が無かったから、仕方なくショウ王子を囮に使うことにしたのよ。私だって、こんなに綺麗なショウ王子を変態の目に曝したくないわ」


 本当かなぁと疑惑の目で眺められたが、バッカス大使の面の皮は厚い。

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