第35話 ショウの悩み
なし崩し的に許嫁が決まり、ショウはカジムから息子扱いで、もてなされた。
「ララは好きだけど、これで良いのかな……」
夜中まで続いた長い宴会を終えて、ショウはグッタリとして離宮に帰る。
自分の部屋に入って、ぼんやりと唇に指を当てたショウは、ララの柔らかな唇の感触を思い出して、ボッと赤くなる。
「ララに、キスでもされたのか?」
突然、クッションに寄っかかっている父上に声を掛けられて、ショウはびっくりして飛び上がった。
「父上! 何でそんな……いや、突然に許嫁を決められても困ります。僕は、未だ妻を養っていける自信がありません」
手近な小さなクッションをショウに投げつけて、アスランは笑った。
「お前は馬鹿か! 今すぐ結婚するわけでもあるまいし。十五歳になれば、ミヤが独立して生活出来るように考えてくれているとは思わなかったのか。そうでなければ、可愛い孫娘をお前の許嫁にするものか。少しは頭を働かせろ!」
クッションを持ったまま呆然と立ち尽くすショウに、アスランは、此奴はどうも理解できないと苦笑した。
アスランも、ショウは馬鹿では無いとは思うのだが、抜けている所が多いと肩を竦める。ショウをララが鍛えてくれるだろうと笑った。ララは、ミヤの孫娘だし、王族の女は肉食系だからだ。
東南諸島の王族には多数の夫人がいて、その後宮で育つ姫君達は幼い時から母上達の恋愛バトルを見て育つので、そんじょそこらの男など手のひらで転がすテクニックを身につけていた。
「それより、何か話があって王宮に来たのでは無かったのか?」
許嫁が決まったり、ファーストキスの衝撃で、すっかり最初の用事を忘れていたショウは、上着の下からペンダントを引っ張り出して父上に渡した。
「何だ? ペンダントなどいらないぞ……」
ショウからペンダントを受け取ったアスランは驚いて、座り直すと、真剣に見つめる。
「これを、どこで手に入れたのだ?」
「メーリングのバザールの屋台で、一マークで買いました。石の色が母上の故郷のマリオ島の海に似ていたから、お土産に良いかなと思って。でも、母上は私が持っていた方が良いと返されたのです。ミヤに聞いたら、竜心石という貴重な石だと説明されましたが、これを母上から首に掛けられた時にチリチリとした変な感じがしたので、父上に聞きに行ったのです」
アスランは自分の竜心石を首から外して、ショウの竜心石と比べてみた。アスランの竜心石は薄い水色で中に青い炎が燃えていたが、ショウの竜心石はエメラルドグリーンで中から黄金の太陽に反射する海のように青い光がキラキラしている。
「これを、一マークで買ったのか? メーリングのバザールの屋台で!」
アスランは、ショウの運の強さに驚いてしまった。
「屋台ではこんなにキラキラしてませんでしたが、色が気に入ったのです。ねぇ、父上、竜心石って高価なのですか? 屋台の親父さんには、気の毒なことをしたなぁ」
アスランは我が子ながら、何本かネジを落として産まれてきたのではないかと、溜め息をつく。
「屋台の親父さんの心配より、自分の心配をするんだな。竜心石を手に入れるなんて、めったやたらにある事ではない。強すぎる幸運は、それが必要な運命が待ちうけている予兆かもしれないぞ」
アスランは、竜心石を誕生祝いに貰った女の子の波瀾万丈な人生を思い出して、苦笑する。
「でも、父上も竜心石を持っているでしょ」
「馬鹿か、これが最悪の運命をもたらした竜心石じゃないか。あの糞親父から、王位と共に押し付けられたんだ」
先王の祖父の事はショウには記憶が無かったが、評判の良い王様だと聞いていたので、糞親父呼ばわりに驚いてしまった。アスランもショウに父王と同じように、王位を押しつけようとしている自分に気付いて苦笑する。
「まぁ、竜心石には便利な使い方もあるがな。魔力の増幅が出来るみたいだぞ。でも、気を付けろよ。ローラン王国のゲオルク王のように、魔力に取り付かれた変態になったら、お前を殺さなければいけなくなるからな。そんな事をしたらミヤに離婚されるから、魔法の濫用には気をつけろ」
珍しく真面目に注意する父上に、ショウも真剣な顔で頷いた。
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