第33話 許婚!?

 ショウは、ミヤに言われて王宮へと向かった。回廊をとぼとぼ歩きながら、屋台で掘り出し物を手に入れたけど、何か竜心石には貴重な石という以外にも、値打ちというか変な力があるのかなとショウは首を傾げる。


「父上、少し時間を頂いて良いですか? お忙しいなら、また出直しますけど」


 珍しく執務室にいたアスランだったが、生憎予定はビッシリと組まれている。


「ああ、ショウ、大丈夫だ! どこか静かな所で悩みでも聞いてやろう」


 宰相のフラナガンは、逃げ出す気だと察した。


「アスラン王、もうすぐ兄上のカジム様がいらっしゃいます。ショウ王子、今日は忙しいのでお話は夜にでもお願いします」


 逃げ出す良いチャンスを駄目にされたアスランは、宰相のフラナガンの首でも刎ねてやろうかと内心で毒づいたが、此奴がいないと留守にも出来ないと思い返す。


 一日中王宮の執務室に閉じ込められているだけでもウンザリなのに、苦手なカジムの訪問を許可するだなんてと、フラナガンの笑顔に苛ついたが、ふと微笑みを浮かべた。


「ショウ、今からカジム伯父上が来られる。お前も挨拶しなさい」


 フラナガンは、王子が伯父上に挨拶するのは礼儀にかなっているが、アスラン王がそんな礼儀を守った事は無かったし、機嫌が良くなったのに不審を覚えた。


『ショウ様、逃げ出した方がよろしいですよ』と、長年、アスラン王に酷い目に遭わされ続けている宰相は、口には出せないが目でショウに合図する。


 嫌な予感がする。ショウも上機嫌な父上に背中がゾクゾクとして、伯父上への挨拶は今度にしますと言おうとしたが遅かった。


「カジム殿下がお越しです」


 侍従の言葉と共に、少し腹が出てきたカジムが執務室に入ってきた。


「アスラン王、ご機嫌麗しく存じます。フラナガンも、変わりは無さそうだな。おお、ショウ王子、久し振りです」


「カジム兄上、此方にお掛け下さい。そうだ、ショウも伯父上に挨拶して、隣に座りなさい」


 ショウはカジムに目上の方への挨拶を済ませて、隣に座った。 


「丁度、カジム兄上には会いに行かなくてはいけないと考えていたのです。このショウを、兄上の息子にして頂きたいと思っているのです」


「え~、僕は養子に出されるの?」


 ショウは意味がわからなくて混乱したが、カジムは満面の笑みを浮かべた。


「おお! それは良い話です。ショウ王子を、私の娘の婿に頂けるとは、感謝いたします」


「娘の婿?!」


 ショウの百面相を見られただけで、フラナガン宰相に捕まった退屈な一日の憂さが晴れたと、アスランは笑った。


「そうだ、兄上。近頃の風潮では、許嫁と結婚前に何度か顔合わせをするとか。ショウを兄上の娘に、紹介して頂けますか?」 


 カジムは他の王族達から王宮に居着かないアスラン王への苦情を言付かって来たのだが、王子との縁談を王自ら申し込まれて舞い上がった。


「さぁ、ショウ、カジム伯父上について、屋敷に連れて行って貰いなさい。お前の許嫁のララは可愛いが、結婚までは手を出してはいけないぞ」


 ショウは勝手に許嫁を決められて目を白黒していたが、抗議しようとした瞬間にカジムに抱きしめられて、ふくよかな腹に顔がうずまり窒息しそうになる。


「ショウ王子、いや息子よ!」


 カジムは娘ばかり十五人も持ったが、息子がいなかったので甥のショウを娘の婿にできると感激した。上の王子達は母親の姉妹や従姉妹がカジムの夫人になっていたので、血縁や婚縁がややこしかったが、ショウの母親は離島の出なのでカジムの夫人とは何も関係ないので縁が結びやすい。


「父上、僕は未だ九歳ですよ、許嫁など持つのは早すぎます」


 抱きしめられて窒息寸前だったショウは、はぁはぁと荒い息でアスランに抗議する。


「おお、ショウ王子はもうすぐ十歳になられるのですか。それなら、ララと一緒にミミもお嫁に貰って頂こうかな」


 ショウは、姉妹丼なんて、絶対に嫌だ! と内心で叫ぶ。


「ミミは確か八歳でしたね。姉妹で夫人とは良い考えです。流石は兄上、太っ腹だ」


 アスランは、ショウが嫌がれば嫌がるほど上機嫌になり、見ていた宰相のフラナガンは気の毒になってきた。


「急いては、事をし損じます。先ずはララ様との縁談を纏めてからにされたら、如何でしょう」


 ショウが上機嫌なカジムに引きずられるように屋敷に連れて行かれるのを笑いながら見ていたアスランは、フラナガンに叱られてしまった。


「アスラン王、ショウ王子を生け贄にするおつもりですか。カジム殿下の娘との縁談を聞きつけた、他の王族達も黙っていませんよ。ショウ王子の母上は、どなたとも血縁も婚縁も有りませんから、断る理由がありせん」


 叱られていたアスランは、これで昼からの予定はあいた筈だと立ち上がり、フラナガンに衝撃的な言葉を囁いて出て行ってしまった。


「ハッ、アスラン王、お待ち下さい! 本気なのですか!」 


 驚いて固まっていたフラナガンは、ミヤと違い長衣の裾をつかんで転ばすわけにもいかず、後継者問題を大声で聞くことも出来ずに、竜で飛び立ったアスランに内心で毒づきながら地団駄を踏む。


「ミヤ様に、尋ねに行かなくては」


 前から後継者を早く決めて下さいとせっついていたフラナガン宰相は、まさか気紛れではと、ミヤの部屋に急ぐ。



「さぁ、ショウ王子、いや息子なのだからショウ! 一緒に輿に乗りましょう」


 少し太めのカジムと、軽いとはいえ自分が輿に乗ったら、担いでいる男達に気の毒だとショウは断ろうとした。


「娘とは同じ輿に乗れないから、息子が出来て嬉しいなぁ」


 躊躇うショウの手を引っ張って、強引に輿に乗せてカジムは屋敷へと向かわせる。


 温厚で王族の纏め役をしているカジムだが、人の話を聞かないのは、父上に似ているかもしれないと、ショウは溜息を押し殺した。

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