第26話  2つ目の指輪

「本当に聞きたいですか?」


エドワードの言葉が何度も三姫の脳内に響く。ここ数か月は経験もしたことのない不幸に見舞われているのにまだ何かあるの?と三姫は思う。


それでも恋人が何を言っているのか気になるので、「はい」と答える。婚約までした仲なのだから気にならないわけがない。


「私は日本人みたいに回りくどい言い方は苦手ですので単刀直入に申し上げます......。ユージンは椿家次期当主として、新聞に醜聞として載った貴女と結婚できないと言ってました。」


まるで世界から音と色が無くなったかのように三姫は呆然とする。言葉も発しないというより発せられない。


「ユージンは酷い人です!可哀想な三姫さま...。まさかあのような人と友達だったのは一生の恥と思うくらいです。」


三姫は友達であるエドワードの発言を疑うことなく信じこんだ。


「先程の英国へ行く話...気分転換と思って行きませんか?」


三姫の手をぎゅっと握るが全く反応がなく瞳からも生気を感じられない。

それでもそんな絶望感の中を助けてくれるエドワードの提案を誰が断れるだろうか?

三姫はこくりと小さく頷き、英国行きを了承するのであった。


英国行きを決めてからは事が進むのは早かった。春の出航に向けて三姫の父母は英国へ行っても生活に苦労しないように、あれやこれやと買い込み、一緒に同行する事になった礼子は英語を必死で学んでいた。 秋本家を囲んでいた記者たちもいつの間にか居なくなり、三姫とエドワードの結婚を祝福する記事を書き、窮地に追いやられた令嬢を救った騎士として褒めたたえた。


だが肝心の三姫本人は自室で生気なく過ごしていた。朝が来たから起きる、ご飯の時間だから食べるそして暗くなったから寝るというまるで誰かの操作されている機械のようであった。食べる量も極端に減り、かなり痩せていた。 エドワードは元気づけようとあらゆる食事を取り寄せたりしたが功を成すことはなかった。

それでもエドワードは決してあきらめる事なく気に入りそうなものを購入していた。


「三姫さま、今日はおかげんいかがですか?」

「......。」

「今日は食べ物ではありませんよ。これを受け取っていただきたくて」

エドワードは懐から小さな正方形の箱を取り出すと三姫の前で開く。

箱の中に入っていたのは悠仁に貰ったのとは違い歴史を感じる重みのある指輪だった。

「これは三姫さまを守るためのものですよ。さすがに英国で東洋人の未婚女性が一人で出歩いていたら危ないので、一時的でも私と婚約しておいた方が安全なのです。魔除けとして気楽につけておいてくださいね」

エドワードはふふっとほほ笑みながら言い、三姫の右手薬指につけられた悠仁の指輪をすっと取ると、”魔除け”の指輪をはめた。


新しくはめられた指輪を見た三姫は完全に気力を失くし、出航する春まで機械人形生活をするのであった。


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