第27話 そっくり

 「いいこともそうでないこともあったんだけれど。少し前になるけど、配膳係が変わって」

 「前に話していた婆さん辞めたのか?」

 「ええ、だいぶ前から体調がよくなかったの。それで、新しい奉公人が入ったのよ。十一歳の女の子が来て」

 「十一歳……」

 魍魎もうりょうである清流には人間の年齢はよく分からない。子供か大人か、もしくはその中間という大雑把な分け方しか出来ないのだ。

 そもそも紅蓮の年齢すら彼は知らない。

 「寿ひさって言うん子なんだけど、その子が清流に似ているの。

 「そっくりと言うのは、一体どの辺りが……」

 まさか自分と同じ赤ら顔に真っ赤な瞳を持っているわけではないだろう。呆気に取られている清流を気に留めることなく、紅蓮は嬉しそうに笑みを浮かべてそのまま続けた。

 「普段は穏やかなのに、突然何かの弾みで感情が溢れるところ。思っていることを一気に話すのよ。とても正直に」

 そう話す紅蓮の顔は穏やかだ。

 けれど、彼女とは反対に清流はますます困惑した表情になる。

 説明が抽象的すぎてよく分からない。

 「その、感情が溢れて一気に話すっていうのは……」

 「清流が初めてここに来た時、母が死んだのも私が火傷を負ったのも自分のせいだ、と言っていたでしょう?

 寿が初めてここに朝餉あさげを持って来てくれた時、私は自分のことをみすぼらしい女だと言ったの。そうしたらね」

 紅蓮の脳裏に必死に訴える寿と彼女の声が蘇る。

 清流と同じく格子を握りしめながら話す姿。

 「自分の兄は火事で火傷を負って、他にもそういった人を見たことがあるからって。だから、全然そんなことないって、そう言ってくれたのよ」

 「紅蓮……」

 彼女の話す様子から嬉しさが伝わって来るのが分かる。清流も思わず胸が熱くなった。

 「あの子が来てから、楽しみが増えたのよ。あんまり長くは話せないけど、仕事の話とか小さい頃に流行った遊びなんかも教えてくれて」

 彼女の話を聞いていた清流は背後から何かが近付いて来るのを感じた。

 「紅蓮、何かがこっちに来る!」

 「え?」

 「話の続きは今度聞かせてくれ。それじゃあ」

 清流は手短にそれだけ告げると、一目散に蔵を後にした。

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