第37話 山にて ②(水羽、壬湧、牡丹の会話)

 「なあ、水羽すいは

 「何だよ、壬湧みわく

 水羽はさきほど採ったばかりのシイタケにかじりついたまま、壬湧の次の言葉を待っていた。

 「ここ最近の清流、どう思う?」

 「どう思うって……」

 水羽は口に入れたシイタケを飲み込むと、

 「俺も前から様子が変だなとは思ってたよ。名前呼んでも上の空だし、いきなり牡丹さまの髪が綺麗だって言ったりさ。今だって、そうだろ? あいつ何か悪いもんでも食ったのか?」

 「悪いものを食ったかどうかは置いておくとして。清流のやつ、洞窟にいないと思ったら、さっきみたいに洞窟なかにいるしなぁ」

 実はシイタケを採りに行く際、いつものように清流も誘ったのだが、眠いからお前らだけで行ってくれ、と断られてしまったのだ。

 「あいつ本当変わったよなぁ。寝てるか、火事が起きればそれを見に行くかのどっちかじゃん」

 水羽が二本目のシイタケに食らいつく。それに頷いて、壬湧も、

 「あとは、あの妖狐のガキか。よく一緒に遊んでやってるし。前に見た時は一緒に川で水浴びしてたよな?」

 以前、天と近くの川で水浴びをしていた清流を呼びに行った時、天が二人に怯えてしまい、清流の背後に隠れてしまったのだ。最初は持っていたツクシで天を誘おうとしたのだが、結局最後まで清流の背後に隠れたまま出て来なかった。

 「あれには本当に参ったな。なあ、俺の顔そんなに怖かったかな?」

 「そんなことはないだろ。あの妖狐はただ臆病なだけだと思うぞ。

他に思い当たるのは、烏天狗か?」

 「それだ! あいつが一番怪しいだろ。何考えてんのか、全然分かんねぇしさ。あいつが清流になんか変なこと吹き込んでんじゃないのか?」

 「その烏天狗って、おぼろさまのことですか?」

 いきなり背後から声が聞こえて、横倒しになった横木に腰を下ろしていた水羽は驚いてひっくり返ってしまつた。

 したたかに地面に背中を打ち付ける。

 悶絶しながら目を開くと、心配した牡丹がこちらを覗き込んでいるのが見えた。

 恥ずかしさを覚えて、水羽は慌てて起き上がる。

 「大丈夫ですか、水羽?」

 「ええ、大丈夫です。すみません、驚いてしまってつい」

 「ところで、牡丹さま。どうしてここに?」

 今度は壬湧が牡丹に尋ねる。

 「話し声が聞こえてきたものですから、気になって。あの、朧さまと何かあったのですか?」

 「あいつとは何もありません。実は今、水羽と清流について話していたんです」

 「清流について、ですか」

 それを聞いた牡丹はぐいっと顔を一層こちらに近付ける。その様子から強い興味を持っていることが伺える。

 真剣な表情で次の言葉を待っている彼女に驚きつつも壬湧は頷いて続ける。

 「はい。どうもここ最近清流の様子がおかしいでしょう?」

 「けど、はっきりとした理由は分からないんですよ。牡丹さまは何かご存知ですか?」

 壬湧の言葉に続けて水羽が問う。牡丹は少し考える素振りを見せた後、思い当たることを口にした。

 「そうですね、最近物思いにふけっていることが多いような気がします。何か悩んでいるのではとも思ったのですが……」

 彼女が心配そうに顔を伏せると、水羽と壬湧は二人揃って両の目を丸くした。

 水羽は片手をひらひらと振りながら、

 「牡丹さま、あいつに悩み事なんてないですよ」

 「そうですよ。あったとしても自分だけ宴の席で酒が飲めないとか、そんなことだと思いますけど」

 壬湧もそう言うと、持っていたシイタケを牡丹に差し出す。

 それを見ていた水羽も負けじと、彼女にシイタケ(真新しいもの)を渡した。

 牡丹はそれを受け取ってから礼を言うと、

 (今度、朧さまに直接聞いてみよう)

 そう決心してから、シイタケを口に運んだ。

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