第24話 カノンのクエスト

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 カノンの探し物【報酬 ?】

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 リリアが軽やかに画面をタッチすると、何も表示されていない画面へと遷移した。


「どぅわあああ! 駄目だってえええええ!」

「お兄ちゃん。最高難易度のクエストっていうことは、報酬アイテムも最高級の綿毛とか、最上級の鉄屑かもしれないよ?」

「いっ、いらねえ……」

「それを変換したら、最高級のブロックが誕生するかもしれない!」

「ああ……。そのブロックでプログラムビューワーを作ってくれるのか」

「それよりも咲雪が欲しいのは、スキップしながら走り回るクマのぬいぐるみと――」

「アイ……。もしかして、このクエスト受注しちゃった!?」


 慌てふためく俺を、小バカにしたような顔で眺めていたアイだったが、ゆっくりと首を横へ振った。


「いいえ。本来ならこの画面に“クエストの詳細”と“受注ボタン”が表示されるのですが、何もありませんね」

「あぶねー。最高難易度のクエストを受けるところだったわ」

「このクエストの内容は私にも分かりませんので、直接クエスト依頼主に会って聞いてみてください」


 今度は少し申し訳なさそうな態度で言った。

 どこか違和感を覚えるアンドロイドの表情とは違い、アイは生身の人間らしい自然な表情筋の動きを見せる。

 本当にエルフなのかもしれないと思わせる反面、相変わらず感情は乏しい。そういう性格の子なのか?

 なにか“人とアンドロイドの中間的存在”のようにも思える。




「依頼主はクエストのタイトルになっている――カノンさんですか?」


 リリアはこのクエストをやりたくてしょうがない。そんな気持ちが顔に現れている。

 この子は俺と違って、いつもポジティブ。面倒なことを避けながら生きてきた俺とは、正反対な性格をしているなぁと、彼女と出会ってからずっと感じている。


「はい」

「その方はどこにいるんですか?」

「あまりここでお見掛けすることはありませんが、街の東門を出た先にある――花畑にいらっしゃるかもしれません。特徴は銀髪の美しい女性です」


 アイ以外にもNPCがいるようだ。

 リリアはアイにお礼を述べると、


「そのカノンという女性に会ってみるしかないね」


 と、まるで避けられない運命かのように言った。


 後先考えないというか、猪突猛進というか、彼女は常に前へ邁進するエネルギーを漲らせているよな。

 だけど最高難易度のクエストなんて、受けちゃって大丈夫なのか? 即死する未来しか浮かんでこない。


 まだこのクエストを受注したわけじゃないようなので、まずはカノンという女性と会って、どんな内容か訊くだけ訊いてみるか。











 * * *











 街を囲むように花畑が広がっている。そのため、街の東門の外にも色彩豊かな花畑がある。


 そこでその女性を見つけた。


 綺麗な花畑に銀髪の美女が佇む光景は、今まで俺が生きていた世界とはまるで異なる、幻想的な雰囲気を感じさせた。彼女は美しく背筋を伸ばして立っている。しなやかな腕を伸ばすその姿には、上品さが伺える。


 彼女は左手には、スライムがよく落とす――ゼリー状のアイテムが握られていた。その中から、何かを摘まみ出している。

 光の粒だ。

 光の粒を指先で摘まみ、腕を前に伸ばす。そして指を広げる。すると光の粒が水平方向へ飛翔して光の筋となった。

 この島へ来たときに見た光の筋の正体は、どうやらこれのようだ。




「カノンさんですか?」


 リリアが訊ねると、彼女はコクリと頷いた。

 スラリと背が高く、たおやか。二十歳前後の楚々とした印象の美人である。


 カノンはアイと似た服を身につけている。

 花を編んで作ったドーナツ状の衣装。その上から、半透明の羽衣を肩にかけている。頭にもカラフルな花の王冠を被っている。


「私はバタフライエルフのカノンです」

「ブホッ!?」


 やばい。思わず大きな声を出しちまった。

 慌てて口を抑える。


 俺が驚いたのはバタフライエルフという種族じゃない。カノンの透き通る美しい声のほうだった。




 ――俺はこの声を知っている。




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