第23話 初めてのクエスト

 闇に覆われた世界が、真昼の明るさへと変わった。

 それは一瞬のことだった。まるで電気のスイッチをパチンと入れたかのように。


「もうちょっとスムーズにできないもんか?」


 一睡もしていないけど、だるくない。ただ寝転がっているだけで、気力も生命力も回復している。

 昨晩、俺は洋風の邸宅の庭で野宿をした。建物の中へ入れないので仕方がない。




「お兄ちゃん、おはよう」


 リリアとサユが楽しそうに話しながら歩いてくる。二人は隣の中華風の建物の庭で、一晩中お喋りをしていたそうだ。


「おはよう。二人ともぐっすり眠れた?」

「まったく! でもこの島はいいね。私たちが安全に休めるように作ってくれたんだよ。ほら、街だとスライムがいるから。ボーっとしてると後ろから噛まれるんだよね。この一カ月ずっと街中で過ごしてたけど、ここのほうがいいよ」




 リリアたちに軽く朝の挨拶を済ませると、俺たちは塔がある街の中心地へと向かう。


 プレイヤーたちがどこからともなく姿を現す。

 南北を貫く広いこの道は、すぐにプレイヤーたちの喧騒に包まれる。さまざまな衣装に身を包んだ者たちが、街を派手な色に染めていた。




 塔の前には、今日もアイが立っていた。

 白い肌を露出させ、派手な蛍光グリーンの長い髪を揺らしている。彼女は一日中ここに立っているのかな。


「アイ、おはよう」

「おはようございます。人族さん」

「塔について教えてくれるかな?」


 そう訊ねると、アイは無表情のまま淡々と説明を始める。


「塔へ入る方法は二つあります。クエストを受注して頂くか、塔への入場アイテムを渡して頂くかです」

「クエストって、どんなものがあるんだ?」

「塔の壁に手を当ててみてください。皆さんが受注可能なクエストが表示されます」


 コンクリートの塔の壁に手を伸ばす。すると壁面が大画面のディスプレイへと変化。そこに、俺が受注可能なクエストの一覧が表示された。




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  :   :    :

  :   :    :

  :   :    :

 第二階層 :小さなスライム100匹討伐【報酬 初級武器】

 第一階層 :ピーゼリー集め3個【報酬 木の実10個】

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 第一、第二階層だけ濃いブルーで描かれているが、それ以上は灰色の表示になっている。受注不可のクエストということになる。


「クエストはみなさんのレベルより高い階層へは行けません。お二人はレベル2ですので、第一階層と第二階層のみです。三人一緒に塔へ入るのでしたら、第一階層から順に受けるのがいいと思います」


 アイには俺たちのレベルが分かるようだ。

 NPCだから当たり前か。

 的確なアドバイスをしたアイに、リリアも納得の表情をしている。


「私は君たちに合わせるよ」




 画面右下にページ送りのマーク「⇒」がある。

 指で押してみると、第十一階層から第二十階層までのクエストが表示された。当然すべて灰色だ。

 次々と「⇒」マークを押してゆく。


 第四十一階層から第五十階層までの――クエスト一覧ページが表示された。


「ここが一番てっぺんのクエストか……あれ?」


 現在、第五十階層が最上階。当然このページには「⇒」マークはないはず…………なのだけれども、微かに薄い矢印が見える気がする。


「押してみるか」


 それを押下すると次頁へ遷移。




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 カノンの探し物【報酬 ?】

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「なんかあるぞ」


 文字色はブルー。つまり、受注可能なクエストである。


「アイさん、これは何ですか?」

「ええと……。私にも分かりません。そういえば確か、最高難易度のクエストがどうとかこうとか言っていたような……」


 ずいぶん中途半端な返答をするもんだ。まあ、人間味があるといえばある。ああ、エルフだっけ。

 どちらにせよ、レベル2の俺が受けるようなクエストじゃない。


「俺たちはまず、第一階層のクエストから順に潰していこう。そうすれば俺たちの今の実力が分かる」

「最高難易度のクエストを、私たちでも受けられるんだ!」


 リリアの大きな瞳が楽しそうに揺れた。ああ、これは確実にまずい方向へ話が進んでいきそうだ。

 俺は彼女をなだめようと、慌てて口を動かす。


「最高難易度ということは相当難しいんだろ。俺たちはまずは、身の丈に合ったレベル1のクエストをだな……」


 講釈を垂れる俺の横で、リリアが「うんうん、そうだね。それは危険だね」と相槌を打ちながら手を伸ばし、最高難易度のクエストをポチリと押した。







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