第20話 7番と16番

『君はいったい何人いるんだ?』

『よく分かりません。私は増えますので』


 アイの返答に、俺は思わず面食らってしまった。

 確かに電脳世界ならば、同じ個体を増やすのは簡単だ。アイという人物インスタンスの生成を繰り返せばいいだけなのだから。

 見た目も中身もまったく同じ――アイを何人でも増やすことができるだろう。


 返答内容も想定外だったけど、驚いたことは他にもある。


「今のは“お答えできちゃう質問”だったのかよ!」

「はい。特に禁止事項にはなっておりません」


 アイは澄ました顔で言ってのけた。


「じゃあ、ついでに訊いちゃうけど、君はどういうときに増えるの?」

「……さあ? 分かりません。何か仕事があるときだと思います」

「君と16番以外のアイは、どこで何をしてるの?」

「私もよく知りませんが、それぞれ違う役割を持っているようです。もし見掛けたときは、声を掛けてあげてください」


 なにか頭の中で思い描いていたものとは違うな、という印象がある。

 アイが黒幕で、“彼女の野望によって、大勢の人間をこの電脳世界へ飛ばしている”ものだと考えていたが、これまでの彼女の言葉は、“誰かがアイを増やし、ここで人族の世話をするNPCとして活動をしている”程度にしか聞こえない。


 誰がアイを作っているのか? という質問には答えてくれなかった。

 アイの複製を作ることは簡単だけど、アイが自分の分身を作っている訳ではなく、別の誰かがアイを増やしている。


 この少女はまるで、このゲームの世界が円滑に回るように作られた“駒のひとつ”のように思える。

 アイの全体数を把握していないどころか、他のアイの役割すら知らない。他のアイが何をしているのか知らないということは、アイ同士で情報を共有していないことになる。


 アイに“テレポーテーション能力”と“プログラミング能力”があるのか聞き出したいところだけど、これも「お答えできない質問」だろうな。








「ああ、そうだ。アイ。忍者の服装、間違ってるよ? これは侍の格好だ」

「不具合のご報告ありがとうございます。改善の参考にさせて頂きます。他に何か不明点や改善点、クレームやご要望などございましたら、お気軽にお申し出ください」


 丁寧に頭を横に傾けるアイに、リリアは「要望はアイさんに言えばいいのか」と嬉しそうに微笑んだ。


「ついでに、忍者のスキルについて質問だけど、煙幕の威力がバグってて――」

「申し訳ありません。各ジョブのスキルに関しては、“お答えできない質問”になります」


 スキルについて答えられない?

 どうしてだ。スキルに関する質問は多いだろう。まさか答えられないとは思わなかった。


 ふと疑問が湧きおこる。

 ジョブのことすらよく知らないゲーム制作者が、どうやって各ジョブのスキルまで作ったんだろう?

 忍者の装備は理解していないが、ちゃんと煙幕をスキルとして用意した。ナイトに関していえば、ブレザーなど着せているが、挑発プロボーキングは作っている。知識の偏りなのだろうか。


「スキルに関するプログラムを確認しといてくれ。多分、何かおかしいから」

「分かりました。伝えておきます」

「伝える? アイが直すんじゃないんだ?」

「私の任務は、ここで人族の皆さまをご案内することです。それに、私にはそんな技能ありませんから」


 プログラミング能力なしか。

 嘘をついている可能性もあるけど、これといって嘘をつくメリットも思い浮かばない。

 お答えできる質問だったことにも驚いた。そういえばアイ自身のことについては、今まで全部答えてくれていたな。

 “アイ個人のことは禁止事項になっていない”のかもしれない。


 それならば。

 もうここはストレートに――


「アイ。君の能力で、俺たちを日本に飛ばしてよ」

「残念ですが」

「アイならくるりんぱと回って、両手をパッと広げるだけで飛ばせちゃうだろ? テレポーテーションってやつだ」

「そんな最上級の能力を、私ごときが持ってるはずないじゃないですか」

「16はできたよ? 君ならできるさ」

「できません」

「じゃあ、誰に頼めばいいの?」

「お答えできない質問です」


 アイ16とアイ7の持つ能力が違うということか?

 それは考えにくい。




 オブジェクト指向で作られているプログラムならば、アイという個体を増やしたら、まったく同じ能力のアイが新たに作られるはずだ。生命体インスタンス生成処理が同じだからだ。

 クローンを作るように同じ容姿、同じ性格の生命体が誕生する。それが必然である。


 クローンに差異を持たせるとするなら、“便宜上、名前を変える”とか、そんな程度だろう。

 俺が棺桶に入っていたとき、16番のアイは「多少の性格の変更はできる」ようなことを言っていた。


「もう少しでホモになるところだったけどな……」

「ん?」


 リリアの流し目の視線を感じたあと、サユが頷きながら納得顔。


「お兄ちゃんはそっちだったのか」

「違うから」


 俺たちの話を聞いていたアイも、会話に入り込んでくる。


「では、注入しますか?」

「なにをだよ! やっぱり、あっちのアイもこっちのアイも、中身は同じだ」


 彼女たちには“7番か16番かの違い”しかない。片方にだけテレポーテーションという特殊能力を持たせるほど、個々の性質を変えるのは無理なのだ。


 ということは、アイ16の能力で俺たちはここへ飛んだのではなく、別の要因――例えば、あの流線形の棺桶に秘密があるのかもしれない。

 と考えたほうが正しいような気がする。




 俺はそんなことに思慮を巡らせていたが、サユはまださっきの話の続きをしているようだ。


「咲雪はこれからの時代、恋愛に性別なんて関係なくなるし、相手が人間かどうかも、どうでもよくなると思うよ。恋愛対象なんて、バーチャルだって、二次元だって、ぬいぐるみだっていい!」

「エルフだってね」


 そう言ってリリアはウィンク。

 その様子を、アイは無感情な表情で見つめていた。


「俺はモンスターでいいや。殴られはするけど、彼らとなら精神的には安定する」

「君は本当にここでスローライフをしそうだね……」

「咲雪は理想の相手をブロックで作る!」


 この世界の時間の流れがどうなっているのか知らないけど、歳はとりそうもない。病気もなさそうだし、寿命もないかもしれない。

 この世界で可愛いスラちゃんたちに囲まれながら、長生きをしてやろう!


 ……となると、やはり問題は「アイたちに、俺たちの存在を消されたりしないか?」という一点に尽きる。


「なあ、アイ。俺たちにこの世界で何をして欲しいんだ?」

「ゲームですので皆さんの自由です。好きなように楽しんでください。赤い林檎などのアイテムを集めてもいいですし、【養人ヨウジンの塔】でまるまると肥えて頂く……強くなって頂くのも楽しいと思います」


 アイはニコッとエルフの微笑みを浮かべた。








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