第11話 ハッタリ

 このゲームは本当によくできている。

 喜怒哀楽を表現する表情は、限りなく正確に相手に伝わる。特に目が訴える感情は、リアル以上に上手く表現できているなと感心した。


 キツネ男ことAUOは、怒りをはらんだ目を俺たちに向けた。

 その視線を無視し、「さて、そろそろ煙幕を発動させようか」と考えていると、サユが俺の服をグッグッと引っ張った。


「お姉ちゃんを呼んでくる!」

 

 これから俺のターンなんだから、慌てて呼ぶ必要なんてないぞ。

 そう伝えようとしたが、サユはもう駆け出していた。


「うひゃひゃひゃ! 強いお姉ちゃんに守ってもらうのかぁ?」

「わざわざリリアを呼ぶ必要なんてないんだけどな。俺一人でじゅうぶんだし」


 聖闘赤斗セイントレッドは愉快そうに笑っていたが、俺の生意気な返事に眉が吊り上がった。

 意外な反応を示したのがAUOだった。怪訝そうな表情で「リリア?」と小さく漏らしたのだ。雲龍も大仏のような太い腕で腕組みをして、何かを思い出そうとする仕草。聞いたことのある名前だったからだろう。


 聖闘赤斗セイントレッドは日本刀の切れ味を俺に教えたいようだ。鞘から抜いて、何度も横へ払うように素振りをした。


「マスター。コイツ、五人で泣くまでボコりましょう。ああ、殺すんでしたっけ? 惨たらしく殺してやりましょうよ」

「……ああ? いや……俺はアイテムを集めにいく。時間が惜しいからな。コイツと遊ぶ暇なんかない。お前たちは好きにしろ」

「えっ? マスター行っちゃうんですか?」


 AUOはくるりと背を向けると、歩き出してしまう。

 残った四人は、雲龍以外整った顔立ちをしているが、どこか性格の悪さが顔つきから滲み出ている。


「マスター行っちゃいましたよ。雲龍さん、どうします?」


 雲龍はしばらく路面を見つめて「リリアって誰だったかな……」と考え込んでいたが、思い出すことを諦めたようだ。「まあ、いいか」と一言呟いてから顔をあげた。俺の視線とぶつかる。


「おい、お前。俺たちは塔の第十階層のBOSSモンスターを唯一倒したクランだ。最強クランと全面戦争をしたいというなら、いつでも相手になってやるぞ? 一方的に踏み潰ぶすだけだがな。がっはっはっ!」


 大仏男が豪快に笑っている。悪役らしい笑い方が妙に合っているな。


 それよりも彼らの話から、このゲームには塔があること。そしてその第十階層にBOSSモンスターがいることを知った。リリアに教えたら喜びそうだ。

 それに、スライムしかいないゲームじゃなくて本当に良かった。


 BOSSを倒したことを自慢気に語っているところをみると、第十階層という場所は難易度が高いのだろう。まだこのクランしかクリアできていないとはね。


 俺は軽く手足の準備運動をしながら、余裕の態度を見せることに務める。


「……なーんだ。そんなもんか」


 彼らがこの言葉をどう捉えたかというと、


「う、雲龍さん。コイツ、ハッタリに決まってますよ!」


 微妙に声が震えているところをみると、半信半疑といったところか。雲龍も自分を強く見せようと声を荒らげる。


「ハ……ハッタリだけで生きていけると思ってんのか!? このゲームは遊びじゃねえんだぞ!」


 ゲーム内で言われたら、爆笑するセリフだ。


「ハッタリかどうか、すぐに分かるようにしてやるさ」

「こっちは四人でお前は一人だ。俺たちにボコられる前に逃げ出すことだな」

「俺がか? 逃げるのはお前らのほうだろ」


 あくまで上から目線を貫く。ハッタリとはそういうもの。

 雲龍は一歩近寄ってきた。だがそれ以上は足が前へ出ない。俺を警戒している。


「レベル19の俺に向かって、よくまあそんなデカイ態度できたな。お、お前いくつなんだよ?」


 大仏さん、レベル19かよ。ずいぶんと高いじゃないですかっ!


「俺は――」


 さあ、どう答えよう?

 雲龍のレベルが19だという情報を共有している。そのことが必ず有利に働くはずだ。

 わざわざ【煙幕】を使って、街を大混乱に陥れる必要もないかと考えた俺は、正真正銘のハッタリをかますことにした。


「――33だ」


 涼しい顔で言ってのけた。


 心配そうな顔で縮こまっていたミウが、大きく目を見開いて俺を見た。男たちも似たような表情になる。


「う、嘘つくんじゃねえ! そんな高レベルな奴がいるはずないだろ!」

「いるんだよ、それが。まだ19のひよっこには見抜けなかったか?」

「適当なことを言いやがって……。お前が33だという証拠を見せてみろ!」

「実戦で見せてやろうか?」


 明らかに狼狽えている。


「そ、そんな馬鹿な! おい! レベル20になると運営からある物が貰えるんだよ……。俺はマスターからそれを見せてもらった。お、お前が本当にレベル20以上なら知っているはずだ!」


 左手に視線を移す。

 今も付けている。リリアから借りたこの指輪。

 レベル20達成時に運営からプレゼントされたと言っていたな。


「ああ、当然答えられる。これだろ? 【力の指輪】」


 左手を空へ翳すように開いた。その小指にキラリと銀の指輪が光った。

 みるみる男たちの顔に焦りが生まれる。


「あ……あ、マスターがつけてる指輪と同じだ……ということはコイツ本当に……」

「じゃあ、レベル30になったら貰えるアイテムも見せてやるよ」

「さっ、30!?!?」


 その声は上ずり、明らかに震えていた。本当にそんな高レベルなプレイヤーが存在するのか? そんな表情で怯えている。




 勝った。

 俺は確信した。


 そして袴の袖に手を入れる。

 女の子を解放させ、この男たちの自信を打ち砕き、絶望させる強い力を秘めたアイテムを取り出すためだ。

 俺のこの仕草は、堂々と自信に満ち溢れた姿に、この男たちの双眸に映ったことだろう。


 レベル30で貰える疾風のブレスレットは、サユが手首につけたまま走っていってしまった。


 彼らのマスターはレベル27。どうせレベル30に到達した者なんて、リリアの他にはほとんどいないのだろう。

 適当なアイテムを見せてやればいい。見破られることなどないのだから。バレるとしても先の話になる。


 俺は勝ち誇ったように胸を反らし、余裕綽々のしたり顔線で、男たちを見下ろすように眺める。

 そして懐から偽のアイテムを取り出した。

 これは確実にこの世界で誰も持っていないアイテム。レベル30のアイテムとして見せつけるのに、最も適しているだろう。

 俺は大仏男の顔の前に突き出した。


 呪いの藁人形を!


「これに呪われた者は、手足をもがれるように痛み、毛が逆立ち恐怖でのたうち回る。今は普通の藁人形に見えるが、呪う相手が決まったら目が不気味に赤く光るんだよ」


 腹の釘をギュッと押す。

 双眼が赤みを帯びた。


「ギュグェグェグェ……」

「お前を睨んで赤く光り出したぞ! 呪うターゲットをお前に決めたんだ!」

「ひっ!」

「あとは木に打ち付けるだけで、お前は…………死ぬ!」

「ひいいいいっ!」


 雲龍は杖を落として後ずさりした。

 藁人形の不気味な声で信憑性が増す。何度見ても不気味だ。何でこんなもん作ったんだ、サユは。


 俺は人形を高く掲げ宣言する。


「この世界で弱い者イジメは許さない。誰もが笑顔で仲良く暮らせる――そんな世界に俺がしてみせよう!」






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