第8話 ブロック師

 ブロック師というのは、どうやら生産系のようだ。

 ジョブ選択画面には、『想像力とレベル次第で、さまざまなモノを生産できる』と書いてあったらしい。


「アイテムや武器も作れるよ。作り方は簡単。たったの3ステップ♪」

「ほおほお」

「1! スキル【ブロック変換】で、ドロップアイテムをゴロゴロブロックへ変換」


 スライムはよくアイテムを落とす。

 赤い林檎、木の実、木片、葉、土、金属片、綿、瓶など。

 サユはいつもそれらを拾って、スカートのポケットにしまっていた。


「2! ゴロゴロブロックを組み合わせて、形をつくる」


 ゴロゴロブロックとは、ブロックを組み合わせて遊ぶ子供用玩具と同じもの。さまざまな色と形状がある。


 今、サユは剣の形に成型している。

 先端を尖らせ、つばを作り、徐々に剣らしくなってきた。だけどよく見れば、ブロックを組み合わせただけのオモチャそのもの。

 これが本当に剣になるのか?


「3! スキル【クリエイト】を唱えれば完成!」


 瞬く間にブロックの凸凹は消え、厚みのある両刃のロングソードへと生まれ変わった。柄には細工と装飾も施されている。こういう細かな部分は、サユの想像力が影響するそうだ。


「お姉ちゃん、これ」


 リリアはそれを受け取ると、片手でブンと振り回す。風を斬る音で剣の破壊力を想像できる。


「ありがとう。じゃあ、これは君にあげるよ」


 リリアの日本刀は俺の右手へと収まった。刀身の反りは美しく、握った感触もしっくりくる。

 俺はそれを高く掲げる。

 念願の剣が手に入った。侍のような格好の俺に似合っているだろ?




 レベル上げを手伝ってくれるリリア。リリアのために剣を作ってあげたサユ。仲間同士で助け合うこの感じ。


「MMORPGっぽくなってきたな」


 俺はいろいろなMMOをやったけど、常にボッチだったからこんな感覚は初めてだ。これがMMOの楽しさなんだと、今頃になって理解してしまった。




 俺は手裏剣を作ってもらった。

 ズシリと重い。刃先は鋭く殺傷力がありそうだ。小さなブロックを組み合わせて作ったとは思えない出来栄えだ。


「目を凝らしても、ブロック同士の接合部分が見つからないぞ。すごいな、これは」


 俺とリリアが喜んでいる姿を見て、サユの口元が弧を描いた。

 攻撃力や治癒力で物語を進めるジョブとはまた違う、想像力を生かせるサユに向いた職業かもしれない。


「面白いジョブだな」

「だから選んだの! ブロック師としての経験が浅い今は、単純な物しか作れないけどね」

「経験を積み重ねていくことで成功率が上がって、より複雑で高度なアイテムや武器が作れるようになる。ということか」

「うん」








 サユのブロック遊びは止まらない。


 今度は綿毛のようなふわふわしたドロップアイテムをブロック化。ブロックもやけにフニャフニャしたものができあがる。

 それらを組み合わせて完成したものは、白い猫のぬいぐるみだった。


「何の役に立つのか分からないけど、女の子のロールプレイには欠かせないんだろうな」

「咲雪、ぬいぐるみ好きなの」


 おっさんの姿のまま、ぬいぐるみを愛でる訳にもいかないからな。


「この世界はサユの自由だ。思う存分楽しんでくれ」

「お兄ちゃんにも作ったんだけど、ちょっと失敗しちゃって……」

「俺は男のままだから、ぬいぐるみは必要ないぞ?」

「せっかく君のために作ってくれたんだから、貰っておきなよ」

「それもそうか。……サユ、ありがとう。失敗作でもありがたく頂いておくよ」


 本当に? と照れながら手渡されたものは、腹に釘が刺さったわら人形だった。

 結構大きい。頭部はあるが、目も鼻も口もない。腹部には銀色の五寸釘。感触は藁そのもの。


「あのぅ……サユさん。これは何ですか?」

「人間の友達がいなさそうだから、人型のぬいぐるみをプレゼントしようと思ったんだけど、お兄ちゃんをイメージしながら作ったら、こんな形になっちゃった!」

「腹に釘が刺さってるぞ。これ、あとは木に打ちつけるだけで完成だろ?」


 サユが腹の釘をググっと指で押し込む。


「ギュグェグェグェ……」


 藁人形は低音の奇妙な声を出した。

 目の奥が赤く点滅する様を見て、思わず毛が逆立つ。


「これ鳴くんだな……ああ、おぞましいぞ」

「そう! このぬいぐるみは目も光るし、声も出すところがすごいでしょ?」

「これはぬいぐるみじゃないだろ」

「咲雪がレベルアップしたら、もっと凄いのを作ってみせるんだあ。二足歩行で駆けずり回るクマのぬいぐるみを――!」

「ああいや、そういうのはいいから……」


 サユのイメージ次第で、咆哮する藁人形が作れる。

 本人はこの人形に“吠える機能”を授けるつもりはなかったのかもしれないが、心の奥でそう願ったのかもしれない。想像で脳裏に描いたものを具現化できるスキルらしいからな。

 このスキルは自由度が高そうだ。


 それならば、便利なアイテムを作れるブロック師になってもらえるよう、俺も協力しよう。

 そうすれば、さらに強力な武器も製造してくれるかもしれない。武器が作れるなら防具もいけるだろう。

 ぬいぐるみが作れるなら、クッションとか毛布なんかもできるはずだ。この世界から抜け出せないのなら、リラックスするためのアイテムは必要になる。

 今後どんなものを作ってくれるのか、楽しみになってきた。




 それにしても。


「この藁人形は何に使えばいいんだ……」

「それはもちろん、愛でればいいんだよ。ぬいぐるみなんだから」


 リリアが即答した。サユも「うんうん」と頷いている。


「お兄ちゃん。抱きしめながら寝ると落ち着くよ? 咲雪はいつもクマのぬいぐるみと一緒に寝てるから」

「そりゃ、クマだからだろ? これは絶対落ち着かないわ。コイツはどう見ても一緒に寝るタイプじゃない。用途違うわ。間違いなく夜中にうなされるやつだよ」

「まあ、とりあえずしまっておきなよ。このポケット便利だね」


 そう言ってリリアは、ロングソードを剣先からブレザーのポケットへ押し込んだ。まるで切腹しているように見え、一瞬焦る。サユも白猫のぬいぐるみをスカートのポケットへ。

 ポケットにはアイテムのサイズに関係なく、何でも入る。


「仮想現実の世界だからな。武器もアイテムも全部、ただのデータに過ぎないってことさ」

「実体が無いってことだね?」


 そう。ここにあるものはすべて“データ”という幻なのだ。


「ぬいぐるみをポケットに入れたら、持ち物リストへぬいぐるみを追加して、手に持っているぬいぐるみの描画を消すだけさ」

「よく分からないけど、猫型ロボットのポケットみたいですごい~!」


 俺の羽織は、たもとの部分が収納スペース。アイテムをしまいたいときは、袖に腕を突っ込むスタイル。江戸時代の男を思わせる。


 俺は藁人形と目が合わないように、袴の内側のポケットへねじ込んだ。

 この藁人形が後々役立つことになるとは、このときの俺はまだ知らなかった。







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