最終話:メインプレイ:エンディング3

GMお次は警察バディのグランドエンディングですね。登場をどうぞ。


警察バディ:シーンイン!


 Rメモリを巡る事件の解決から数日後。ようやく後処理が終わり、騒がしかった署内も平常運転へと戻った。

 二人は休日を利用し、事件が解決したことを少年院の黒崎幸也へと伝え、自宅へと帰ってきた。


真白:「幸也、元気そうで良かったです。少し遅くなっちゃいましたね。すぐ夕飯の支度します」

守矢:「ま、そう急ぐことはない。また平和な日常に戻ったんだ。ゆっくりしていけばいい」

真白:平和な日常。その言葉に少し微笑み。

「そうですね。あれだけ忙しない日々でしたから」

守矢:「本来は我々の仕事がないのが理想なんだがネ。中々そうもいかないわけだが」


 守矢は表情を改め、真白に問いかける。


守矢:「……真白くんはどう思う。警察という仕事について」

真白:「警察について、ですか」

 二つしかないリビングの椅子に座りながら。

「……幸也とヴィランをやってた頃は、正直、良くは思っていませんでした。

 警察も、ヒーローも。ヴィランが起こす犯罪には対処しても、ヴィランそのものには対処してくれない。そう思っていました。でも――」


 街のお巡りさんヒーローに拾われてからの日々が、脳裏をぎる。


真白:「――今は。裕一さんに救われて、その考えに触れて。警察はヴィランを憎んでいるわけでも、まして滅ぼしたいわけでもないんだって思っています」

守矢:「……あれだけお転婆だった君が、そこまで成長してくれた事を誇りに思うヨ。

 君だけではなく、それだけ誰かを変える力になる事が出来たこの仕事に対しても、誇りを持っている」

真白:「……罪を憎んで人を憎まず。私も、この仕事が。裕一さんが、今は誇りです」

守矢:「だから私は、この仕事を続けたい。誰か個人のためではなく、街の皆のために……だ。

 君が私を慕ってくれるのはとても嬉しい。だが、私は君だけのものにはなれない。街の皆のための存在でいたい。

 あの時の返事をしていなかったネ。私は……」

真白:「……聞かせて下さい。あなたの、答えを」


 真白の言葉に一つ頷き、守矢の口が開かれる。そこから紡がれる答えは――。




???:「おっと! それ以上はいけない。それを言ってしまえば全ておしまいだ!」




 一瞬のめまいが真白を襲った、次の瞬間。彼女の目の前には、突然、知らない男が現れていた。

 真白はそれが、エフェクトによる精神干渉だと気づく。


真白:「――! あなたは、もしかして」


???:「失礼、お嬢さん。私は……今は名もなき、“灰色の射手ライヘンバッハ”の元相棒だ。

 君たちの事は、ずっと彼の頭の中から見せてもらっていたよ。いや素晴らしい活躍ぶりだった!」

真白:「元、相棒……やはりですか」

元相棒:「詳しい話は省くが、あの輸送機の中で話した通り、私はあの事件で死んだ。肉体的にはだがね。

 だが奇跡的に彼の頭の中に意識として残った。彼には自覚がないようだが。

 ノイマンでエリートである私の能力を長年かけて熟成し、ようやく今、君の精神に干渉して元の姿を投影している状況だ。

 さて、時間もない。手短に言おう」


 その言葉を遮らぬよう、真白は無言で頷く。


元相棒:「彼は私への罪悪感から街のためだ何だと言っているが、あんなのは詭弁だ。

 そうでなければ、こんな可愛らしいお嬢さんをずっと手元に置いておくと思うかね?」

真白:「――で、ですが……!」

元相棒:「いや、これは真実さ。何せ私は彼の頭に住んでいるんだ。考えている事は何もかも見通しているとも」

真白:「……なら、わかってるんじゃないですか」

元相棒:「君への答えかね? もちろん知っている――」


 真白の表情が、悲しげに歪む。


真白:「その答えに、私は……反論、出来ない」

元相棒:「――知っているが、それ以上に彼が発するであろう言葉の裏も知っている」

真白:「言葉の……裏……?」

元相棒:「生来の私であればここで勿体つけるのだが、流石にあんまりなのでズバリ教えよう」

「彼は君を愛している。人間として、一人の娘のように、家族のように。そして……」



「……一人の女性としても、ね」



真白:「……それでもなお、その愛情より罪悪感が勝っている。あなたの存在は、それほどまでに大きかったんですね」

元相棒:「それは必ず時が解決してくれる。私より優秀で誠実で愛嬌のある相棒として、これから隣に居続ければいいのさ」

真白:「私は――」


 胸に手を当て、真白は答える。それが、己にとっての真実であると確かめるように。


真白:「裕一さんから、否定されようとも……拒絶されようとも。

 その隣で笑っていたい。どれだけ図々しいと思われても……ヴィランでしたから、慣れています」

元相棒:「それでいい。相棒とは常に傍らで苦楽を共にし、背中を預けられる存在だ。私のような過去の遺物では、もう成り立たない。

 身分も生まれも関係ない。君が君らしくいれば、彼は必ず応えるとも。そういう男だ」


 そこで言葉を切り、眼前の男はしかめっ面を浮かべる。


元相棒:「おっと、そろそろ時間のようだ。では私はまた意識の海に戻るとするよ。ちなみに彼はこの事を夢うつつにしか覚えていないだろうから、悪しからず」

真白:「……ありがとうございます。名前も知らない、元相棒さん」

 深々と、頭を下げる。

元相棒:「……守矢先輩を、これからも頼むよ」

真白:顔を上げて、決然と応える。

「――はい」




 軽いめまいの後、気づけば彼の姿は掻き消え、目の前には見慣れた守矢の顔がある。


守矢:「……ん、すまない。どうも平和ボケしたようだ。ぼんやりしてしまった」

真白:「おはようございます、裕一さん。うたた寝なんて、らしくないですよ?」

 少しだけ、ぎこちない笑顔で。

守矢:「流石に歳かネ……失礼した。先ほどの話の続きだが――」




真白:その口を止めます。唇で。




守矢:「――?!」

真白:そっと、壊れ物を扱うような慎重さで、ゆっくりと離れる。

「返事の続きは、聞かないでおきます。ですが――私は元ヴィランですよ? 欲しいなら、裕一さんの心だって、奪ってみせます。

 だから――」

 言葉の続きの代わりに、もう一度だけ、口づけをする。

守矢:「――――」


 触れ合う暖かな唇に、冷たい雫が、そっと落ちる。


真白:「――お願いです。誰のためでも良い。皆のためだって構わない。でも――この瞬間だけは、私だけを見てほしい。あなたを独占したい」

守矢:「……言っただろう。私は街の皆のものでいたい、と。

 君だってこの街の一人だ。

 それに、堂々とヴィラン宣言されてしまっては、手元から離すわけにもいかなくなってしまったじゃないか」

真白:「……そうですよ。こんな凶悪なヴィラン、放っておけない」

守矢:「……背中を預けられるのは、君だけだ。私と共に、これからも戦ってくれるね」


 守矢の問いかけに、真白は身体を離し、強く頷く。


真白:「ええ、もちろんです。これからも、ずっと。

 あなたと一緒に戦い抜きます……何があろうと」


 ……傍から見ると、いびつな関係にも見えるだろう。だが確固たる繋がりが、二人の間にはあった。

 きっとこれからも、F都の平和は続くだろう。この街には、正義のお巡りさんが二人もいるのだから。

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