第82話 君たちの未来の話をしよう1 破滅が来るとわかっていても人は目をそらして破滅する

未来のことは予測できない、なにが起こるかわからないと言う人は多いです。でも、たいていのことは予測できます。


なにが起こるかわかっていても、見ない振りをする人が多いのです、意識的あるいは無意識的に。


私は40年近く前、まだインターネットという概念すら存在しない時代、やっとコンピューターでの通信が始まった頃に(企業内LANすらほぼ皆無)、通信が業界をどのように変えるかを発表したことがあります。みなさんに関係する部分で言うと、出版業界では多くの人がネットの小説サービスに投稿するようになり、出版社はその中で人気のある作品を書籍化するようになると予測しました。まさにその通りのことが起きています。

私にその調査を委託した組織がプレスリリースを出したところ、多数の問合せがあり(その組織始まって以来らしい)、急遽発表会を開催し、私はそこで会場に詰めかけた多数の企業の方々からスタンディング・オベーションを受けました。残念ながら出版関係者はひとりもいらっしゃいませんでした。他の業界には現実に目を向けている人がいたのでしょう。


ネット業界のことで言えば、当時は黎明期でしたので通信回線+ネットサービス+コンテンツをセットで提供している会社が少しだけありました。遠くない時期に、通信回線を提供する事業(キャリア)、ネットサービス(今でいうSNSや検索サービス、クラウドなど)を提供する事業、コンテンツを提供する事業の3つにわかれて業界ができる。そして社会に対して最大の影響力を持つのはネットサービスを提供する事業になるだろうと予測しました。顧客データと商材や情報の流れを掌握できるわけですからね。

それはその通りになりました。これくらいなら、誰でも予想できたはずです。みなさんもそう思いますよね? それと同じように、今これからのことを予測すればいいだけです。


同じことを考えている方が多かったからスタンディング・オベーションをいただいたわけで、私が優れた発表をしたわけではないと思っています。出版業界にも似たような予測をしていた人は多いでしょう。しかし、わかりきった未来に目を背けてしまった人がほとんどだったのです。


これからどうなるかわかっていても、人は目を背けて見ない振りをしがちです。


そんなことはない、自分は違うとおっしゃる人がいるかもしれません。では、お訊ねします。


東京直下型地震の確率と想定被害は東京周辺あるいは日本から脱出してもよいレベルのリスクです。なぜ、あなたはまだ東京あるいは日本にいるのですか?


日本は、日本国内はもちろん中国および韓国の環境汚染、放射能汚染の影響を受ける可能性が高く、すでに受けています。今後、悪化するでしょう。あなたはなにか対策していますか? なぜなにもしてないのですか?


これに類する質問はいくらでもあります。しかし多くの場合、相手の回答はわかっていますし、相手を不快にさせるだけなのでしません。経済的要因でなにもできないという人はたくさんいます。家庭の事情もあるでしょう。それでも死ぬかもしれない時にはお金のことは後回するし、家族を助けるためになにかするでしょう。このへんになると人生観とか価値判断の話になるので深くはたちいりませんが、論理的な反論を受けることはあまりなくて、感情的な反論(価値感、人生観)になっちゃうんですね。


中国および韓国からの汚染については、偏西風がありますから地理的に避けられないんです。すでに黄砂やPM2.5が中国から来ています。韓国のソウルの大気汚染は現在世界最悪のレベルに達しています。韓国の原発のほとんどは日本海側に立地しており、事故が起きれば日本に影響が出るのは必至です。

リスクは数十年前でもわかっていました。この状況を避けるためには数十年前からアジア地域での環境保全について提案し、行動しなければなりませんでした。

20年前に汚染のリスクを話すと、ほとんどの人は、「ふーん」(半信半疑、でも反論するほど関心もない)でした。話した中にはこの問題について影響力を行使できそうな人もいました。


こうしたわかりきった未来をさまざまな事情で人は無視して破滅を受け入れてきました。私は20年前から地震と汚染のリスクは話していますが、理由に納得する人はいても具体的な行動を起こした人は稀有です。


出版業界も同じです。今の出版業界の仕組みが破綻することは40年前にはわかっていたのですが、自分が責任者となって変革したくないとか、まだ先のことだからとか先延ばしにしてきた結果が現在です。同様にこれから起こることもわかっていて無視しています。


このことはみなさん自身にも当てはまります。このままだと自分の将来がどうなるか、ほとんどの人はわかっているでしょう。さらに言えば多くの場合、みなさんが考えているよりも悪くなります。世界全体の状況が悪化し、その中で日本はさらに悪化するからです。みなさんが考える自分の将来は、今の日本の状態でのことです。日本の状況が悪化すれば、それに従ってみなさんを取り巻く環境も悪化し、みなさんの将来も悪くなります。


世界や日本の未来のことを知りたいですか? ここで話すよりも小説にします。きっと信じてくれない。

たとえば10年後に、「昔は全員の投票で政治家を選んでたんだぜ。信じられないほど野蛮だよな」となると言ってもそのまま信じる人は少ないでしょう。

民主主義はもうすぐ終わります。正確に言えば定義通りの民主主義が実現したことはなく、その事実が可視化され、それに伴って制度も変わってゆきます。興味ある方は拙著『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)のP100あたりをご参照ください。あるいは下記記事もよいと思います。

 死に瀕する民主主義。一人ひとりが民主主義を守る自覚を

 ~『民主主義の死に方―二極化する政治が招く独裁への道―』書評

 https://hbol.jp/180606


ちなみに、民主主義がなくなるとミステリというジャンルも死滅するというか、大きく変貌するようです。詳しくは『娯楽としての炎上――ポスト・トゥルース時代のミステリ』(藤田直哉さん)をご参照ください。


「一人ひとりが民主主義を守る自覚を」は編集部が付け加えました。私はみんなが自覚を持っても民主主義の死は止められないと考えています。


長くなりましたので、またのちほど。

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