第69話 日常

Rito


あれから母親は離婚を受け入れ


無事に施設を退院して今日は引っ越しの日


父親は海外出向が決まり


先週からシンガポールに行ってしまった


もともと家族で住んでいた家には


俺とFumiyaが住んでいる


ここに母親も一緒に住むという案も


あったが


母親は離婚したからもう戻らないという


ことになり


都内の1LDKに一人で住むことになった





俺たちと母親が一緒に住まないのか?


という疑問がわくと思うが


そこまでは元通りにはならなかった


Fumiyaはもう母親とは住めない


と言い出し


俺はと言うと


母親と二人暮らしでも良かったが


結局Fumiyaとの暮らしを選んだ


色んな形の家族があると思う





Rito「母さん、荷物これで全部?」


母親「うん」


Rito「じゃあ引っ越し屋に持ってって


もらうよ」


「うん」


「これで全部です」





Rito「家出るの寂しい?」


母親「うん?そうねぇ


ずーっとここに住んでたからね


思い出がたくさん


いいこともそうでないことも」


「色々あったもんな」


「Fumiyaは?今日は?」


「出掛けたよ」


「そう」


「俺たちも新しい家に向かうか


引っ越し屋が来ちゃうから」


「そうね」





Reila


今日はNorikoさんのいる東京に引っ越す日


荷物は全部引っ越し業者にお願いしてある


この家は壊して土地を売ることにした


場所が比較的良かったことと


運も合わさって無事に買い手も見つかった





Reila「おばぁちゃん、そろそろ行こっか」


おばぁちゃん「うん」


「この家離れるの寂しい?」


「そうだね


思い出がたくさんあるからね


たかしが小さい頃からの」


「そっか」


「でもこれで良かった


ReiちゃんとNoriちゃんと一緒に住めるし


ReiちゃんとNoriちゃんは不思議なことに


本当の親子のように仲がいいし」





ほんとに不思議


Norikoさんとはお父さんたちのことが


なければ

 

一生会うことはなかったのに


今Norikoさんに出会えた運命に


感謝している





Seia


田中さん「Sei、お待たせ」


Seia「うん、お疲れ様」


田中さんと付き合って数カ月


今日もいつものように


田中さんのバイト先に迎えに行き


アイスを食べながら一緒に帰る




 

これでは付き合う前と変化ないじゃないかと


思われると思うが


手をつなぐようになったこと


週末二人で出かけるようになったこと


一応少しはそれらしいこともしている





「Seiのアイス美味しい?何だっけ?」


「キャラメルバナナ、食べる?」


「私、ストロベリー飽きちゃった


私のと交換して」


「いいよ」


相変わらず田中さんペースなところは


変わらない


それが嫌かというとそんなことはない


むしろ嬉しい


俺はこういう人間なんだと思う





ふと思う


田中さんは俺と付き合って


楽しいんだろうか


アメリカに6年間もいた田中さんにとって


俺との毎日は退屈なんじゃないかって


田中さんの本心を聞きたいけど


怖くて聞けないままいた


「あっ、キャラメルバナナ美味しい


こんなに美味しいの食べてたのずっと」


「ストロベリーも美味しいよ」





Rito


新しい家に到着


Rito「新築だから、綺麗だね」


母親「そうね


お母さん何気に一人暮らしはじめてなのよ」


「えっ、そうなんだ」


「学生時代はずっと実家だったし


卒業してすぐお父さんと


結婚しちゃったから」


「これから独身生活満喫しなきゃな」


「独身生活


そうね、楽しまなきゃね」





最近明るくなった


何か吹っ切れたのだろう


今の母親を見てると


これで良かったんだと思う





母親「新しい仕事先早く探さなきゃ


引っ越し代に当分の生活費に


この家の家賃も全部お父さんに


出してもらったから」


Rito「慌てなくていいと思うよ」


「でも何もしないわけにはいかないよ


Ritoの高校受験もあって


お金かかる時期だし」


「高校のことは考えてるの?」


「一応ね」


「そう、あなたの好きなようにしなさい


あなたの人生なんだから」





Reila


ピンポーン


Norikoさん「はーい」


ガチャ


Norikoさん「いらっしゃい


長旅疲れたでしょ、お疲れ様」


Reila「こんにちは」


Norikoさん「入って、入って」


おばぁちゃん「Noriちゃん、写真.....」


Norikoさん「あぁ、Reiちゃんの部屋に


三人のいい写真たくさんあったから


飾ったんです


ようやくReiちゃん戻ってきて


家族三人になったんだから」


Reila「Norikoさん」





お父さんが何でNorikoさんと付き合ったのか


今はよく分かる


ほんとに素敵な人だね、お父さん


おばぁちゃん「Noriちゃん


私たちに気を使わないでね


これからは毎日一緒に暮らすんだから


Noriちゃんは私たちの家族」


Norikoさん「おばさん」





Seia


クラスメイト「Seiaって田中さんと


付き合ってるの?」


Seia「えっ」


付き合ってる


付き合ってる、けど


田中さん俺が彼氏ってしられるの


恥ずかしいかな





「いや、付き合ってないよ」


「そうなの?


しょっちゅう一緒にいるし


付き合ってるんだと思った


田中さんとSeiaタイプ全然違うもんな」


タイプが、全然違う


やっぱりそうだよな


釣り合ってないことは分かってる





ガラガラ


あっ、田中さん


今の聞かれたかな?


ガタッ

(椅子に座る音)


チラッ


聞いてないかな


どうだろう?


でも田中さんもこれでいいって


思ってるよね


田中さんも俺が彼氏なんて知られたら


恥ずかしいよね





ピコン


ドキン


すごいタイミングでメール


田中さん「今日お迎えいいから」


えっ


やっぱりさっきの聞いてたのかな


「何で?」


「何でも」





Rito


母さんが引っ越して1か月


今日は母さんの家で鍋


鍋は一人じゃなくて大勢でするもの


ということで


大勢ではないけどせめて二人で


それと母さんの就職先が決まった


お祝いも兼ねていた





ピンポーン


母親「お帰り」


Rito「ただいま」


「あらやだRitoの家じゃないのにね」


「いや、第2の家だと思ってるよ」


「ありがとう、上がって」


「そうだ、就職祝い」


「えー、ありがとう、開けてもいい?」


「うん」


カサカサ


「シャツ?綺麗な色」


「母さんの会社制服って聞いたから」


「そうなの、いい年してね


でも社員ではないけど


事務の仕事見つかって良かった」


「いつから仕事?」


「明後日から」


「もうドキドキよ〜」


と言いながらも楽しそうだな





「お鍋できてるよ、食べよ」


「うまそ〜」


「ただのお鍋よ」


「Fumiyaと二人だから


変なもんばっか食ってる」


「お母さんたまに食事作りに行こうか


お母さん完全に母親業放棄しちゃってる」


「大丈夫だよ、放棄してないよ


これがうちの形なんだよ


まずは仕事を頑張ってよ」


「Rito.....お母さん


あなたがいて良かった


あなたにたくさん救ってもらった


お母さんはあなたを


救ってあげられなかったけど」





「そんなことないよ


俺はすべてこれで良かったと思ってるよ


これからうまくいくよ、色んなこと」


「そうね、そうよね


お母さんあなたに色んなこと教わった


Rito、ありがとう」





Reila


Norikoさんとおばぁちゃんと


一緒に住むようになって1か月


Reila「Norikoさんてお父さんと


どれぐらい付き合ってたの?」


Norikoさん「えっ」


「いや、Noriちゃんが嫌じゃなければ」


「私は嫌ではないよ」


「お父さんとは


高校2年から22才までだから


5年間くらいかな」


「結婚長く付き合ったんだね」


「そうだね」





「どこで知り合ったの?」


「同じ部活だったの」


「何の部活?」


「弓道部ね」


「Noriちゃん弓道するんだーお父さんも


はじめて知った」


「お父さんうまかったのよ


大会出たりして」





「へー、でどっちから告白したの?」


「告白は、お父さんからだったかな」


「どんな感じで?」


「Reiちゃんこの話楽しい?」


「うん、楽しい」


「部活の帰りだったと思う」


「お父さんてどんな人?」


娘の私がこんなこと聞くなんて変かな





Seia


田中さんにお迎えを断られた日から


3日後


田中さんは具合が悪かったのが

 

珍しく学校を休んでいた


何度かメールしたけど


返ってくることはなかった


やっぱりあの会話聞かれてたんだと思う


一応田中さんのことを考えて


否定したんだけど何かまずかったかな





ガラガラ


ヒソヒソ

(えっ、田中さんどうしたんだろう)


(イメチェン?)


えっ


振り返ると


た、田中さん


そこには髪の毛を真っ黒に染めて


制服を乱すことなくきっちりと着て


指定の靴下に指定のカバンに

 

それに眼鏡までしてる田中さんがいた


えっ、どうしたんだ


何かの罰ゲームか?


そのまま俺の机の前に来た





Seia「お、おはよう」


田中さん「おはよう」


「田中さんいつもと雰囲気違うね

 

どうしたの?」


「どうもしない、ただ飽きたの」


「そ、そうなんだ」


「田中さん、眼鏡」


「私目が悪いのもともと


今まではコンタクトしてたの


家ではいつも眼鏡なの」


「そっか」


「やっぱりお前ら付き合ってるの?」


またその質問





Reila


Reila「私お父さんのこと


あんまり覚えてないの」


「そっかぁ


私の中でたかしさんは


決断力があって男らしい人


その代わりなんでも勝手に


決めちゃうからよく喧嘩してたなぁ」


「そうなんだー」


「自分のことだけじゃなく


私のことまでも決めちゃうから」


「あはは、それは嫌かも」


「ね、よく喧嘩してた、懐かしい」





「結婚のプロポーズは?


いつされたの?」


「プロポーズ?大学在学中にね」


「どんな感じだった?」


「んー、なんか細かいこと


忘れちゃっんだけど


あっ、そうだ大学の部活合宿中にね」


「部活何してたの?」


「テニスね」


「それで」





「毎年夏に山梨にある合宿所に行くんだけど


夜飲み会を抜け出して


二人で星を見に行ったのね」


「なんかロマンチックー」


「ここまではね」


「何かあったの?」


「たかしさん飲み過ぎちゃって


気持ち悪くなってそのまま寝ちゃったの」


「えー」





「で、一人星を見てたら


たかしさんのズボンに


何か入ってるのが見えて


こっそり見たら指輪が入ってたの」


で、婚約指輪とは思わなかったんだけど


中開けたらかわいい指輪が入ってて


多分私のだろうと思って


私も酔っ払っててそのまま


もらって部屋に戻っちゃったの」





「お父さんは?」


「何回か起こしたんだけど起きなくて


一人じゃ運べないから


頼んで運んでもらったの」


「そのあとどうなったの?」





Seia


クラスメイト「やっぱりお前ら


付き合ってるの?」


またその質問


Seia「いや、俺」


田中さん「付き合ってるけど、それが何?」


えっ、田中肯定しちゃうんだ


「Seia、付き合ってるよね?」


「えっ、うん」


「なんだよ


やっぱり付き合ってるんじゃねぇかよ


Seiaこの前否定してたから」


「あー」


それは田中さん迷惑かなと思って


でも堂々と田中さんが肯定した今


否定はできない、というより


否定する理由がない





田中さん「ちょっと来て」


Seia「えっ」


「いーから」


「田中さん、どうしたの?」


「どうしたのじゃないどういうつもり?」


「何が?」


「どうして付き合ってないなんて


言ったの?


あれは嘘だったの?その程度だったの?」


「違うよ、本気だよ


ただ.....」


「ただ?何なのよ」





「田中さん俺が彼氏じゃ


恥ずかしいかなって思って」


「何言ってるの


私そんなことSeiaくんに


言ったことある?」


Seiaくんなんて言われたのは


いつ振りだろうか


「いや、言ったことない」


「私Seiaくんが否定してたから


てっきり私みたいなのが彼女だから


恥ずかしくて言えないのかと思って」


「えっ、そんなことあるわけない


田中さんはその、何というか素敵だよ


だから外見変えたの?」


「えっ?そ、そうよ」





そうだったんだ


今気づいたさっきは教室、今は廊下


場所を変える意味はあったのだろうか


不特定多数の人にこの会話を


聞かれてしまっている


「ヒュー」


当の田中さんは気にしてる様子はない


さすがアメリカン





Reila


Reila「それでどうなったの?」


Norikoさん「次の日


なくなった指輪を必死に探してて


たかしさん前の日酔っ払ってて


記憶がなかったみたいで


私も私でうっかり指輪もらったこと


忘れちゃってて」


「あはははは」





「そのまま合宿は終了して


帰りのバスで何か探してるの?って


聞いたら」


「彼もいや、大丈夫って言ってて」


で、私の薬指を見て


「その指輪どうしたの?って聞かれて


ようやく前日のこと思い出して


たかしさんのポケットに入ってたから


かわいくてつけちゃったって言ったら


それ婚約指輪なんだけど


えーってなってね


で、周りの人にも聞かれてね」


「すごいね」


「今思うとすごい状況よね


なんか懐かしい」


当たり前だけど


お父さんとNoriちゃんの間に


こんなに素敵な歴史があるんだね




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