第65話 in the case of Rui Miku
Rui
母親の検査から2週間
今日は検査結果を聞きに行く日
以前手術をしてもらった医者から
聞く予定だった
あの日薬をもらってから
少し落ち着いた気もする
するが、また痩せた気がする
食事がすすまないらしい
この状況を早くなんとかしてやりたい
何もできない自分がもどかしい
明らかに手術前と後とでは変わった
何が変わったとも言えないけど
確かに変わった
母親はまだ寝ている
そろそろ起こして病院に
連れていかなければ
Miku
あれから先輩とは
少し距離が縮まった気がする
あの日を境に
私からメールするようになったし
再来週また出かける予定
行き先は水族館
前回遊園地に行って
私と先輩は遊園地に行けないということに
気づいて
今回は私の提案で水族館に行く予定だった
先輩後輩の関係からは抜け出した気がする
最近敬語も使ったり、使わなかったり
友達になれたような気がする
先輩と水族館に行くのは2週間後
Rui
受付「栗山さん、2番の診察室に
お入りください」
Rui「母さん、呼ばれたよ」
母親「あぁ、うん」
ガラガラ
手術を担当した医師と久しぶりに会う
先生「息子さんいらしてるんですね」
Rui「はい」
「お掛けください」
「これがこの前の検査の
結果なんですが」
パサッ
数枚のレントゲン写真を並べる
素人だからよく分からない
よく分からないが
先生「結果から申しますと
栗山さんの今現在の状況は
ステージでいうとステージ4です」
Rui「えっ、何で手術したのに
そんなに進行してるんですか」
「お母さんの場合
胃がんは胃がんでも
進行性のスキルス胃がんでして」
「えっ、聞いてません
誤診てことですか?」
「いえ、違います
お母さんのがんは進行性の
つまり悪性のがんだったということです」
母親「ということは.....」
先生「転移がみられます」
Rui「転移」
先生「リンパ節それから骨への転移
遠隔転移がみられます」
Rui「えっ、そんなに.....次の手術は?」
先生「残念ですが
根治手術は難しいです
化学療法で症状をおさえる形になると
思います」
「嘘だろ
根治手術が難しいって
治らないってことかよ」
「.....」
Rui「もっと早く分からなかったのかよ
ふざけんな、誤診だろ」
母親「Rui、落ち着いて」
Rui「落ち着けるわけねぇだろっ」
母親「あの、私どうしたら.....」
先生「とにかく抗がん剤治療をすぐに
はじめましょう」
母親「抗がん剤.....」
Miku
水族館前
前回の失敗を繰り返すまいと
今日は余裕を持って行動したから
時間はバッチリ
今の時刻は、12時50分
先輩との約束は13時
チケットも買っておいた
前回先輩におごってもらったから
今日は私の番
仮を返さないわけにはいかない
Hayato「待った?ごめんね」
Miku「いえ、ぴったり」
「良かった」
「先輩チケット買ってあるから
行きましょう」
「えっ、俺もう買っといたよ、二人分」
「へっ」
「Mikuちゃん絶対
今日は私が買いますって言うと思ったから
事前に買っといたよ」
「えっ」
「仮を作るわけにはいきませんとか言って
Mikuちゃん絶対買うって
言い張ると思ったから」
先輩さすがです
私の考えてることお見通しですね
Miku「チケットが4枚」
Hayato「まぁ、いいよ、また来ればいい」
また、があるんだね
「中入ろう、じゃあ今日は
Mikuちゃんのチケットで
ありがとう、Mikuちゃん」
「いえ」
Rui
帰りのタクシー
.....
こんな状況で話すことなんて
言葉が見つからない
嘘だろ、嘘だろ、嘘だろ
いつからこうなった?
なんでこうなった?
手術できないなんて嘘だろ
もっと早く病院に行ってたら
助かったのか?
手術時間が延びたのは
あの時は何が起きてたんだ?
もうわけが分からない
母親は病院で疲れたらしく眠っている
どうしたらいいんだよ
何でこんななっちゃったんだよ
Miku
Miku「あっ、クラゲ、きれい
あとクリオネもみたいな」
Hayato「Mikuちゃんこの間の遊園地より
楽しそう」
「えっ、そうですか?でも楽しいです
私昔から水族館って好きなんですよね」
「そうなんだ、良かった
Mikuちゃんが見たいものを見よう」
「じゃああとでイルカショーも見たいな」
「イルカショーは.....1時間後
それまで適当にブラブラしよう」
「はい」
Rui
ようやく自宅に到着
家を出てから2時間半しかたってないのに
永遠かのように長かった
もう受験どころではない
これからどうしたらいいんだ
化学療法しかない
いや、こんな時代だ
ネットで調べたら何かいい方法が
見つかるはずだ
おばぁちゃんに知らせなきゃ
もう母親の意見を聞いてる場合ではない
トゥルルルルルル
Miku
Miku「クリオネの神秘的な感じが
すごく好き」
Hayato「神秘的かぁ
確かに不思議な生き物だよね」
「クリオネはハダカカメガイ科で
貝の一種なんです」
「へ〜」
「別名氷の妖精と呼ばれていて
クリオネが捕食する姿は
天使から悪魔に変わるとも言われていて
一度の食事で半年から一年もつとも
言われてるんです」
「Mikuちゃんさっきのクラゲといい
クリオネといい知識がすごいね」
「そうですか?」
「ほんとに好きなんだね」
「うん、大好き」
まさか一人でしょっちゅう水族館に
行ってますなんて言ったら
暗い子って思われそうだから
そのことは内緒にしておこう
Rui
トゥルルルルルル
おばぁちゃん「もしもし栗山でございます」
Rui「おばぁちゃん、俺Rui」
「久しぶり、Rui
最近連絡ないから
どうしてるかなって思ってたのよ」
「うん.....」
「そうだ
宇宙航空学科のある大学に行くんでしょ
聞いたわよ」
「えっ、うん」
すっかり大学とか宇宙とかもう
どうでもよくなっていた
毎日参考書ではなく
ネットで病気のことを調べる毎日だから
「そうだ、Mikiは?元気?」
Mikiとは俺の母さんのこと
昨日から入院していて自宅にはいない
「おばぁちゃん、母さんのことなんだけど」
Miku
「Mikuちゃん、イルカショー
見に行こうか」
「うん」
「ここ夜はライトアップされて
きれいみたいだよ」
「えっ、そうなの?」
「ほら」
「ほんとだ、見たい」
「じゃあ、見てから帰る?」
「えっ」
「Mikuちゃん門限あるか」
「いえ、大丈夫です」
今まで誰かと出かけたことがないから
正確にいうと
門限とか何時にとかそんなことを
親と話す機会すらなかった
「じゃあ、ちょっと見てすぐ帰ろう」
「うん」
今が人生で一番楽しい時かもしれない
この世界はこの世界には
こんなに楽しいことがあったんだね
あんなに上の世界に
帰りたいと思っていたのに
今満喫している自分がいる
それもこれもすべて先輩のお陰
「Mikuちゃん、どうしたの?
行こう」
「あっ、うん」
Rui
おばぁちゃん「えっ、今なんて.....」
Rui「胃がん」
「嘘.....でしょ」
「どうして教えてくれなかったのっ」
「いや、母さ.....
ごめん、もっと早く言えば良かった」
「Ruiに強く言っても仕方ないわね
きっとMikiが言わないって言ったのよね
頑固だから
で、手術はいつなの?」
「いや、もう......終わったんだ」
「手術終わったの?じゃあ」
「いや、まだ話に続きがあって.....」
「えっ.....
今Mikiはどこにいるの?」
「病院」
「良くなったんじゃないの?」
「手術は成功したんだけど
実はそれからしばらくして
体調悪い日が続いてて病院に行ったら
ステージ4のスキルス胃がんてことが
分かって.....」
「スキルス......」
「そう、進行性の.....」
「うそ.... . 」
「で、検査の結果
転移がみられるということで」
「また手術するの?」
「いや、手術できない」
「そんな.....」
「それで今」
「もう分かった、その先はもう.....
Rui、ごめんね」
「えっ」
「今まで一人で抱えて大変だったでしょ」
「おばぁちゃん.....」
(涙がこぼれる)
「おばぁちゃん明日の朝一
(あれ、俺涙が.....)
そっちに行くから」
(今まで何があっても泣くことは
なかったのに)
Miku
「Mikuちゃん
やっぱり夜までいて正解だね」
「うん、すっごくきれい
こんなに綺麗な景色生まれてはじめて見た」
「フッ、そんなオーバーな」
「いえ、ほんとです
今までずっとふさぎ込んでたから
きれいな景色を見ても
ふさぎ込んた心で見てたからか
きれいとかそんな感情すら湧かなかった
だから先輩にはとても感謝してます」
「いや、そんな感謝だなんて」
Rui
今日おばぁちゃんが来る
きっと母親は勝手に知らせた俺に対して
怒るだろう
怒るだろうけど、知らせることができて
良かった
少しホッとしてる自分がいる
正直これから母さんをどうやって
支えていったらいいのか分からなかった
それに女同士じゃないと言えないことも
この先きっと出てくるだろう
突然娘の病気を聞かされた
おばぁちゃんの気持ちを思うと
やり切れない
できることなら1年前、いやせめて半年前に
時間を戻したい
そしたらどんなことをしてでも
母親を助け出す
俺の寿命が縮まろうと
俺の手がなくなろうとも足がなくなろうとも
ピンポーン
Miku
「先輩、今日は楽しかったです」
「良かった、俺もMikuちゃんのお陰で
いい息抜きになったよ」
「そうだ、先輩受験生なんですよね
今日は塾はいいんですか?」
「たまにはね」
「先輩は将来の夢とかあるんですか?」
「俺?俺はね、獣医になること」
「獣医?」
「そう
昔子供のころに犬を飼ってたんだけど
病気で亡くなっちゃったんだよね
子供ながらにショックでさー
目の前で亡くなったから
その頃のことが忘れられなくてさ
他にも色々夢はあったんだけど
今自分の中でぱっと思い浮かぶのは
獣医なんだよね」
「素敵な夢ですね、なんか先輩らしい」
「そうかな?」
「はい、私なんか将来の夢とかないし
考えたこともないから」
「これから出てくるよ
Mikuちゃん頭いいから何にでもなれる」
「何にでも.....」
「そうだよ」
やっぱり先輩は素敵な人
なのにはじめて会った時に
いつもジロジロ見てくる怪しい人なんて
思った自分が恥ずかしい
「そうだ
このチケット俺が持っててもいい?」
「はい」
「俺の受験が終わったらお祝いに
また来ない?二人で」
「それいいですね」
Rui
Rui「すみません面会に来た、栗山です」
受付「はい、栗山さんですね
少しお待ちください」
Rui「おばぁちゃんもここに名前書いて」
おばぁちゃん「あっ、うん」
受付「今ちょうど起きていらっしゃいますよ
中へお入りください」
Rui「おばぁちゃん一緒に入る?
それともおばぁちゃんだけで入る?
ちなみに母さんには今日おばぁちゃんが
行くことは行ってない」
「Rui、ありがとね
色々と気を使ってくれてね
あなたはほんとに優しい子
どうしようかな、おばぁちゃん.....
Mikiに会うのが.....こわいのよ」
「おばぁちゃん.....」
「ちょっと待ってね、ふぅー」
おばぁちゃんの緊張がこっちにまで
伝わってくる
「Mikiの前では....ね、
泣きたくないからね
泣きたいのはMikiだからね」
手術前からずっと見てきた俺と
突然今の状況を突き付けられた
おばぁちゃんとではだいぶ、いやかなり
気分が違うと思う
正直おばぁちゃんの方がきついと思う
「おばぁちゃん」
(背中をさする)
「よし、Rui一緒に入ろうか」
ガラガラ
おばぁちゃん「Miki!」
母親「えっ、お母さん.....」
目の前の状況がうまく飲みこめないらしく
母親の目が大きく見開く
痩せたこともありより一層大きく
一瞬俺に目配せをする
次の瞬間
「おかあさーんっ、おかあさーんっ」
今まで堪えていたものが一気に
吹き出したらしく
子供のように泣き出す
「Mikiちゃん、Mikiちゃん」
俺は、外に出る....か
母親もおばぁちゃんのことを
きっと心のどこかで待っていたのだろう
もっと早く連れてくれば良かった
うわーん
うわーん
ドアを閉めても母親の泣き声は聞こえていた
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