第140話 まーた髪の話してる
「向こうは何か言ってきたでござる?」
「ううん、なんにも。降伏するつもりはないみたい」
宣戦布告をしてから一時間。バルト海のど真ん中に立ち様子を伺っているでござる。トモミンのチート能力、ファントムドライブでアルシオーネに潜入してもらった。
「リエッセさんはM2金庫に囚われてたわ」
「アレでござるか…」
あのアンチマテリアル、アンチマジカルの特殊金属。今思えば吾が輩達ですら破壊に難儀するほどの物質は、明らかに裏の組織が噛んでるでござる。
「吾が輩達の力は魔法に当たらないはずなのに、それさえ無効化する物を開発出来るというのは」
「今はそんなことどうだっていいわ。潰すだけよ」
「ごもっとも」
「あ、なんか来たわよ」
「あれは…軍艦ね。アルシオーネの紋章が見えるわ」
「にーちゃん後ろもー」
ようやく動きがあった。軍艦が一隻、また一隻と見えるウチにぞろぞろと出てきたでござる。やる気マンマンなのね。しかも周辺国まで出てくるってこれは徹底抗戦の構えでござる。
「囲まれたな大将」
あっという間に360度包囲されたでござる。別に出てくるの待たなくてもよかったけど。
「ボートが来たわよ」
「国皇陛下から手紙、ハイ」
「どうも」
『誰が東洋の牛豚なんかに娘をやるかバーカ! バーカ! ぶぅぅぅぅるあぁぁぁあか!!!』
ぐしゃっ
「ほう…」
上等でござる。日本の黒豚黒毛和牛舐めんなよ!
「【天照】!」
真っ黒だった鎧は純白に染まり、帯びた朱の線がぼんやり輝きを放つ。太陽の暖かさに似たそれを握りしめて、本当にこれでよかったのかなと逡巡する。
「なに? 今さらビビってるの?」
「まさか。ただここで何もしなければリエッセさんは普通の人に戻れたんかなーって…」
「そんなに不安なら直接行って確かめればいいのよ」
「本当に吾が輩でいいのかなって思ったでござる。それはリエッセさんだけじゃなくて、皆も」
「今さらになって何言ってるんだか」
「あのねござるくん。好きな人と一緒にいたいからそばにいるんだよ? リエッセさんだって同じことを思ってると思う。そうじゃなかったらこうはならないよ」
リーシャさん…。吾が輩の人生なんてとっくに消化試合で適当にやり過ごすだけかと思ってたけど、まだまだ捨てたもんじゃないでござる。
「…そろそろ水の上に立ってるのも疲れたでござるなあ。ねえシオンさん?」
「やるの? やるの? やっていいの? やっちゃうの? やっちゃうわよ?」
「や っ ち ま え !!!!」
「【
もはや自然災害。バルト海が一瞬にして凍りつき氷上の軍艦全てが身動き出来なくなったでござる。
「氷雪系定番でござるね」
「容赦ねーなー」
「あったりまえじゃない自由にぶっ放せるんだから! こんなに楽しいことはないわ! 【
まるで買ってもらった新しいおもちゃにはしゃぐ子どもでござる。可愛いなあ。
「ミサイルなんか通用しないわよ! 【
「そいじゃあオレらも始めるかい」
「うん!」
「「【
「今日は地獄の大盤振る舞いだぜえ?!」
「いいですね、皆派手な技持ってて。私は
「カレン、背中から炎の翼が出るのは派手じゃないの? これだけ暖かくて水分があればよく育つよ。【
「皆派手過ぎ…。わわわ私だってまだ見せてない本気あるし! 【
「白いトランザムでござる」
「トランザム言うな!」
いいなあ。仲間っていいなあ。
「さあ、返してもらうでござる。吾輩の奥さんを!!!」
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「どけどけどけどけェ! 旦那のお通りだァ! 地獄にホームランすんぞコラァ!!!」
「おらおら早く逃げないとケツに爪ブッ刺して穴二つ増やすわよ!!!」
「こんがり肌を焼きたい人には火貸しまーす。地獄の業火でーす。嘘でーす。朱雀でーす」
「地獄の業火が苦手な人はこちらへどーぞー。触手プレイでーす」
「電気マッサージもあるわよう!! ちょっと死んじゃうけど!!!」
これじゃどっちが悪役なんだか分からんでござる…。悪役っていうか侵略者かなこれ。
「ファントム!! M2金庫はどこ?!」
「お城の一番端。そのまま持ってきたのかそこだけ飛び出てるから上から見れば分かるわ」
「うっしブッ壊すでござる!!!」
「あっいいなー。横一列に戦隊並びしてるぞ」
「記念だしスマホでいいからちょっと写真を…」
「俺達もやるかー」
「真似すんな!」
ドゴッ!
「ですよねー」
「すんませんしたー」
ガクッ
――――――――――――――
「出せェェェェェ! 出せコラァァァ―――!!! アタシは金の延べ棒かっつーのーーー!!! 開けろやァァァァァ!!!!」
胸元までしか出せない格子の窓をガンガン揺らしながら叫ぶ。ちくしょう壊れねえ! 何が晩飯にインド象用麻酔薬だ! 人のこと怪獣扱いしやがって!!
「申し訳ございませんリエッセ様、国皇陛下のご命令ですから」
「ざけんな!!! あのクソ親父は何考えてんだ!」
お付きのメイドに噛みついていたら姉上が来た。くそったれ、アタシより強いヤツ置いて万が一にも逃がさねーつもりかよ。
「落ち着け妹よ。相手は隣の国の皇子だぞ? なにがそんなに不満なんだ」
「あんなナヨナヨシナシナした豆粒ドチビの貧弱ヒョロガリ白もやし不満しかないわ!!!」
「まあお前に押しつけたんだがな。最初は私に縁談を寄越したんだが、私も正直あんなものはいらん」
「姉上ぇ!!」
なんだとコノヤロー!!!
「お前の選んだ男がどれほどか試してきてやろう。なんなら四十八手味見しても構わんのだろう?」
「おいこら年増ババア! 人の男に手を出すな!!」
「誰が年増だ! 私はまだ35だ!」
「一般人じゃねーんだぞとっくに行き遅れだ! やーい年増女!! 行き遅れー!!! 妹に追い抜かれて先越される気分はどんな感じ? ねぇねぇどんな感じ?」
「言わせておけば調子に乗るな! 図体ばっか成長して中身はまるでガキのクセにこの牛乳女が! こともあろうにこの姉よりも乳がデカいだと???!!!」
「だぁーれがガキだってああん?! このつるぺた! ド貧乳!! まな板!!! 二次元!!!! 崖っぷち!!!!! 断崖絶壁!!!!!! 反り立つ壁!!!!!!! スケートリンク!!!!!!!! マイナスAAカップ!!!!!!!!! なんの色気もないアスファルトの打ちっぱなしビル女にだぁれが欲情するかバァァァァーカ!!!!!!!!!!」
「う…、ううう…うわぁぁぁぁぁん!! リエッセが言っちゃいけないこと言ったぁぁぁぁ!!!」
「あ、あの…お二人とも落ち着い…」
「「うるさい! すっこんでろ!!!!」」
「はーい…、あっ」
「何を騒いでおる」
ひとしきり罵って叫び倒したところで今一番ぶっ飛ばしたいヤツが来た。丸裸にひん剥いて簀巻きにしてケツにディルド突っ込んで広場で晒し者にしてやろうかこのハゲェェェーーーー!!!!
「父上!」
「クソ親父ィィィ!!!」
「着替えろリエッセ。今から式を執り行う」
「うるせえこのハゲ!! 逆光眩しいんだよこのタコ!!! タコは海で墨でも吐いてろタァァァコ!!!」
「ハゲ言うでないわ!!!」
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