第125話 言わせないでござる!
「こんにちはー、でござる」
なんだかんだ結局無職辞めたでござる。レイミさんの学園で用務員やんない? という話を受けて、高等部の職員玄関に来たでござる。作業服の採寸とか書類とかあるとのことで。
「武蔵野武将さんですね、お話は副学長から承っております。私は二年国語担当、弓道部顧問の大泉洋子です」
「戦野でござる。しれっと名字変えないで」
お迎えしてくれたのは落ち着きがあって、長い髪を後ろで束ねているだけの普通の先生だった。勝手な偏見だけど武道系の顧問の先生はやはり黒髪が似合うでござる。よかった。間違って姉上出されたらちょっと気まずいかなって思ってたし。別に姉上が普通の人間じゃないとは言ってないでござる。
「初等部の子に聞いたんですが本当に熊みたいな方なんですね」
「チラッと行った時もくませんせーと呼ばれてたでござる」
「ふふふ、では案内します」
少し立ち話してスリッパに履き替える。廊下を歩いていると何故か吾が輩まで挨拶されるから、取り敢えず会釈して返す。前のハワイ遠足の時から思ってたでござるが、男子生徒に比べて圧倒的に女子生徒が多いでござる。
「大泉先生、武蔵野学園はどうしてこんな男女の比率が違うでござるか?」
「昔の武蔵野学園は共学ではなくて、『私立武蔵野女子高等学校』だったそうですよ。私も入ってからの研修で初めて知ったんですが」
「へえ、普通の女子高だったと」
「今はもう男女の比率と女子の制服くらいしか名残はないそうです」
吾が輩も初めて知ったでござる。元々は普通の高校だったとは。母上が地元だから聞いてみたら何か話が聞けるかもしれないでござる。
「失礼します。副学長、お連れしました」
「いらっしゃあーい」
応接室に案内され、先生がノックして入るときっちりとスーツを着たレイミさんがノートパソコンに向かっていたでござる。
「さーて、ちゃっちゃとやっちゃいますか」
「なんでわざわざレイミさんがここに? 用務員のことなら同じ用務員さんに頼めばいいでござる」
「いないのよ、用務員」
「またまたー、こんな大きな学校に一人もいないワケないでござる」
「いませんよ?」
「…マジ?」
い
やいや流石にそれはおかしいでござる。じゃあこの広大な敷地の清掃や花壇のお手入れとか、切れた蛍光灯の交換は誰がやってるでござるか。
「何人も雇ってたんじゃ経費が掛かりすぎるから、暇のある職員が持ち回りでやってるの」
「わあ」
「といっても清掃は毎日掃除の時間にやってもらってるし、施設やグラウンドとかも、それぞれの部活と顧問に管理してもらってるから実際はそこまでじゃないのよ? ただ警備員もいるからあんまり予算回せないだけで」
あれ、初等部でも見かけなかったけどプールなんてあったでござるか。
「??? 用務員いらないんじゃないかと思うでござる」
「流石にいつでも暇のある教師がいるワケではありませんから。それに不審者や侵入者もいて、警備員さん達がそちらの対応に行ってしまった時はどうしても穴が生じてしまいます」
「つまり吾が輩に遊撃手をやって欲しいということでござるな」
「そゆことー。じゃあ脱いで」
「え? いや採寸なんて服着たままでも…」
「フヒヒ、体の隅々まで調べちゃうぞ~」
メジャーを取り出して大変楽しそうに笑いながらにじり寄る色ボケ副学長様。後ずさりする吾が輩。
ガシッ!
「えっと、先生…?」
「すいません、これも命令ですので」
後ろから抱きついて押さえてくる大泉先生。
「大丈夫、なんなら私も脱ぐから。ということでまずは下からじゃー!」
「レイミさん、落ち着くでござる。ね? ちょっ待ってアーッ!」
ガラッ
「失礼しまーす」
間一髪、ベルトが外されてズボンは完全に下ろされてパンツが半分下がったところで邪魔が入ったでござる。
「カレンさん!」
夏は暑さもあるけど解放感もある。露出の多い服装で出掛けたりプールや海に行ったり、大胆になりがち。でも間違っても人のパンツずり下ろそうとしちゃダメでござる。
「失礼しまーす」
「あっ、カレンさんちょうどいいところに来たでござる! ちょっこらパンツ下げないで!」
「よいではないかよいではないか!」
「なにやってるんですか」
ごちごちーん!
鉄拳制裁二連発。
「いったぁい…」
「なんで私も…」
「先生も同罪です」
助かった。ずり下げられたパンツとズボンをいそいそと直す。見られたのがカレンさんでよかったでござる。これがもし全然関係ない知らない生徒だったら、新しい用務員はド変態のレッテルを貼られてしまうところだった。
「なんでカレンがいるのよーう!」
「プールの帰りです。ござるさんが入ってくるの見えたので尾行して聞き耳を立ててました」
「カレンさん、盗み聞きは良くないですよ」
「先生は今自分が何をしていたのか胸に手を当てて考えて欲しいでござる」
プールの帰りというのでよく見れば手には水着のバッグ、赤い髪は生乾き、首にタオルを掛けている。夏服は上も下も薄くてよく透けるでござるなあ。赤色の透けブラ。胸元もボタンがギリギリまで開いてておっぱいこぼれちゃいそうだし、首筋も鎖骨もチラチラ…、スカートも短くて靴下も履いてないこれはこれは瑞々しくてまぶしい太ももの生足…。
「下も赤ですよ。見ますか?」
「あっ、いやそんなつもりじゃ」
吾が輩の視線に気付いたのかスカートを持ち上げて見せようとするカレンさん。そうだ、そうだった。カレンさんは吾が輩の鎖骨にキスマークで焼き印する人だったでござる。きっとこれは序の口。ヤバそうだから自重しよ。
「ウチは女子ばっかだからプールの時は皆こんな格好ですよ。胸元全開、おへそ見えててもブラが見えなければそれでよし、ソックスも履かないで裸足のまま。男子もシャツ全開ですし、ズボンのすそは捲ってますし、裸足ですし」
ある意味楽園だけど男子諸君は生殺しでござるね。
「エリート校なのにそんな乱れた風紀でいいんでござるか?」
「そこの万年発情期の副学長のせいです。生徒会長としてもどうかと思ったんですがもう風習になっててどうにもなりません」
「私は悪くないわよ? 私が生徒会長やってたときにエアコンガンガンにしたら凄い請求来たから、窓全開服も全開でうちわでしのぎましょって全校集会で話して私が率先して実行しただけよ」
どう考えてもあなたのせいです本当にありがとうございました。
「カレンさん生徒会長だったんでござるね」
「他はあんまりやってないみたいですけど、ここは高等部に上がるときに試験を受けて、成績トップの主席合格した者が現生徒会長とサシで勝負して勝ったら引き継ぐんです。私は勝ちました」
「あんまりっていうか普通はそんなのやってないと思うでござる。二年生で生徒会長ってことはじゃあ入学した時から?」
「はい」
「大変でござるなあ」
「カレン、あんた早く教室に戻りなさい。もう鐘がなるわよ」
「そうはいきません。生徒会長権限です、次の授業はキャンセルしました」
「ぐぬぬ…」
「大泉先生は職員室に戻ってください。私が採寸しますからレイミさんが紙に書いてください」
「はーい、戻りまーす…」
「じゃあ測りますね。帽子もあるみたいなので頭から」
流石生徒会長、仕事をするときは真面目でござる。どっかのはっちゃけ副学長とは大違いでござる。
「頭、肩幅、胸囲、ウエスト、腰回り…」
「はいストップ。どこ触ってるでござるか」
「チン…」
「言わんでよろしい」
前言撤回。こっちも暑さのあまり頭がパーになってるでござる。
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