第66話 具現

「カッ、アッ」


「…」


胸に突き刺さった青龍。だらりと力なく崩れる体。かすかに聞こえる呼吸。自分で凶器を抜く力はなく、己を貫いた相手にもたれかかりわずかに余った人生を走馬灯が駆ける。


「『もう少し、そのまま演技を続けて……』」


「はっ……」


わざとらしく引き抜く素振りを見せつける。あくまでも、素振り『だけ』でござる。わざとらしく見せつけながら頭を近づけ、耳元で囁く。


「な、なんということを…」


「む、息子よ! な、なにも殺すことなどなかったのに!」


「『あなたは誰ですか?』」


「?!」


突然の問いに戸惑う中年の男性。


「な、なにを言っている…? 私は我が息子の父親、中華人民共和国国家首席だぞ!」


「『そうですね、普段表に出ているお方は別人。よく似ているけど、ただの影武者』」


「な、なんなんださっきから貴様!それよりも我が息子を殺しおって!例え八人目でもどうなるのか分かっているのか!」


「この声なに?お兄さんだけどお兄さんじゃない…、誰かの声がカブッて聞こえる…」


「私もです…、なんなんでしょうこの声……」


「『では、あなたが隠し持っているその短刀はなんですか?』」


「えっ?」


「あのおじちゃん、たんとー?」


「『この青年がしくじったとき、企てが露見しないように殺してしまうつもりだったのでしょう。私の目は誤魔化せませんよ』」


「チィッ、この役立たずが!これだから人間は使えない!」


『何者か』が猛然と脱兎の如く逃げる!


「『伸びろォォォォォー!』」


「ヒッ!」


まだ青年の胸に突き刺さったままの剣が凄まじい速度で伸び、中年男性の頭を捉える。後頭部から侵入し眉間から飛び出て紫色の血液が噴き出す。


「ギィヤアアアー!」


断末魔の叫び。まさしく『断末魔』であった。中年男性はみるみるうちに化けの皮が剥がれ落ち、ずるりと地面に溶ける。


「なっ、なにあれ…」


「スカイさん、私の後ろに下がってください。目の毒です」


中年の男性は人間ではなかった。人間の皮を被った、魔物と呼ぶに相応しいおどろおどしい異形の化け物だった。


「『やはり…、しかし鬼の中でも最下級の者。この裏には黒幕がいるのでしょう』」


剣はしだいに元の刀身へと戻る。ボンクラと呼ばれていた青年の胸からずぶりと引き抜く。青年は倒れ、空を仰ぎ息を吹き返す。剣の先端には小さな寄生虫が刺さっていた。心臓の一ミリとズレないそばに巣食っていたそこに突き刺し、かつ力を流し込み重傷を避けたのだった。


「げほっ、ゲホゴホッ。ありがとうございます……」


「…青龍たん、もういいでござるか?」


『たん付けやめろ。ええ、もう十分です』


「ブヒイ、めちゃくちゃ疲れたでござるぅ」ビクンビクン


吾が輩は変身を解いて地面に倒れこんだ。そばには真っ青に染まった龍が立っていた。淡い光を放ち、人の形に姿を変えた。


「わっわっわっ、なんか出たー!」


「ぐ、具現化……」


『私は、青龍』


|д゜)チラッ


「すけすけ…、青い巫女服ですけすけ…。ノーブラ紐パンでスケスケェ…。太ももが実に眩しい…。なんという眩しい太もも、なんという素晴らしい桃尻…。太ももからお尻にかけて、少女としての幼さと大人としての艶やかさを持つ流麗なライン…。陶器のような白さ…。もはや芸術品…。この美しさ素晴らしさは千の言葉を以てしても万の言葉を以てしても語り尽くせない…。濡れ透けとはまた違ったエロス…。青龍たん見かけによらず大胆でござるね(キリッ」


『お前はシネッ!』


ごんっ


「あべし!」


「青龍様、僕もすけすけはイイと思います!」


『お前もやっぱりシネッ!』


げしっ


「ぶべら!」

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