第64話 戦えない豚はただの豚?

「え、えーと? 仮想が現実化で現実が仮想化?で合ってるでござる?」


「そうそう、それそれ」


おっかしーなー。今は山奥のお寺に向かっているはずなのになんでこんな難しいお話が始まっているでござる?


「あの、話がまるで見えてこない件について」


「我々は、というより人類はと言った方が正しいですね。侵略を受けています。その対抗手段を産み出すための現実と仮想を往復する技術です」


「人類が?侵略?誰からでござる?」


「異世界人です」


「イイテンキーダナー」


もうね、驚きを通り越して呆れますよ。どんなにボケツッコミのノリが大事だって言ってもここまではノってあげられないでござる。


「そりゃあいきなり聞かされても信じないよね~。ボクだって信じなかったし」


「とにかく、今日は決闘です!先方には私が謝りますからあなたはちゃんとやってください」


「はーい」


「到着しました」


何がなんだかよく分からない話をしている内に車が止まった。降りて外へ出るともう緑しかない山林の中、コケにびっしり埋め尽くされた石造りの階段があった。もう一台、黒塗りの車が止まっていた。


「あっ、お疲れっしたー」


「待ちなさい」


「ええ…だってこれ……」


決闘の前に疲れちゃうでござる……。そびえ立つ壁と思えるほどの傾斜に一つ一つが大きな石の階段。げんなり眺めていると外套にフードを被った目の前を子どもが走って行った。


「わーい!」


「おっと」


「あぁ、お嬢様!申し訳ありません」


「いえいえ」


同じく外套を深く被ったお付きの人と思わしき女性が追いかけて行った。


「秘書ねーちゃん、今の……」


「今日のあちら側の立会人です」


立会『人』…?見間違いじゃなければ今のは『人』じゃないでござる。


「さ、行きましょう。時間に余裕はありません」


あ、やっぱり登るんでござるねこのコケ階段…。


「遅いぞ!」


「申し訳ありません。ほら戦野さん、早く」


「ブヒイ…」


「お兄さん、おっもいよ……」


手を引っ張られ、後ろから押され、息も絶え絶えにようやく頂上にたどり着く。開けた場所に出る。崩れかけた寺の社を背に仁王立ちした若い男性がいた。


「さあ、決闘だ!八人目はどこにいる!!」


先ほどの外套の二人と知らない中年男性が視界の端に立っていた。


「ふぁい」


「八人目はどこだ!」


「はいはい」


「なんだ、逃げたのか?ハッ!これだから日本人は!」


「へいへいへーい」


「おいうるさいぞ!なんなんだキミは!!燻製肉だかボンレスハムだか分からないのは!」


「もはや海洋生物でも哺乳類でもなくなったでござる」


「この人が八人目です」


「は…?はあああああぁ?!別人じゃないか!そっちの褐色の女子小学生は?!」


「ボク?ボクはヘヴンズ・ミスだよ?」


「ΩΩΩ<ナ、ナンダッテー!」


この人は吾が輩達の個人情報をちゃんと知らないんでござるか。


「ふざけるな!こんな相撲取りだかプロレスラーか分からないヤツが青龍の持ち主だと?!しかもそこの女子小学生が玄武の持ち主?!デタラメ言うのもいい加減にしろ!ぬおおおおお!」


「あっこらっ」


「そぉい!」


ビタァン!


「あべしっ!」


まだちゃんと挨拶していないのに飛びかかってきたので一本背負いを決めてやったでござる。地面は草とコケの生えた土。遠慮は無用でござる。


「くそっ!今のはマグレだ!うおおおお!!!!」


「そぉい!そぉい!」


「ぶべらっ!だああああ!」


「そぉい!そぉい!そぉい!」


「ひでぶっ!らああああ!」


「そぉい!そぉい!そぉい!そそそそぉい!」


「たわらばっ!」


「あれ、お兄さん強い?」


「そういえば、中学生の時にオリンピック金メダリストを倒しているという無駄な設定がありましたね」


戦えないブタはただのブタでござる!

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