第57話 犬よりも猫のが好み
昼、ベッドでゴロゴロ。
(実際問題、海外って初めてだから何を用意したらいいのかよく分からないでござる)
一応至れり尽くせりの待遇ではあるらしいので、むしろ着替え以外何を持っていけというのか。何が必要で何がいらないのか。富裕層の考えることは分からんでござる。
(今の時代の中国は都心の大気汚染が酷いからマスクとゴーグルは大量に持ってけってらしいけど、謎のワンワンが出るのは写真を見る限り都心ではないでござる)
「お兄ちゃーん、入っていいー?」
「はいどうぞ」
日曜、部活は休みの妹君が部屋を訪ねてくる。
「はいこれ、欲しいお土産リスト」
「はいはい、……なになに?土偶?はにわ?」
中国で土偶とかはにわって売ってるでごさるか。
「ん? お兄ちゃん、キャリーバッグまだ開けっ放しじゃん」
「いやー、着替え以外何を持っていけばいいのやらで。むしろお土産沢山買うならあんまり持ってかないで空けといた方がいいのかなって」
「あー、そうだね」
観光に行くのではないので旅行雑誌とか冊子の類いというのは必要ないでござる。遊びに行くんじゃないからキャリーバッグも必要ないのではと思われる。
ブーン、ブーン。
「おや、着信」
「お兄ちゃんに電話? お兄ちゃん友達いたの?」
妹君ヒドス。
「はい、もしもし。戦野です」
『おうござるか!アタシアタシ!お前ちょっと上野公園来いや!』
「どちらさまですか?」
『ボケツッコミやってる余裕ないんだよ! いいから急げ!緊急事態だ!』
「アッハイ」
姉上そっくりな口調の女性はリエッセさんしかいないでござる。急いで着替えてリビングから自室に移した青龍を掴み取る。
「ちょっと呼び出されたから行ってくるでござる」
「お兄ちゃん。今の電話の声、女の人の声だよね」
「えっ、ああ、まあ」
「どこ行くの?」
「う、上野公園に……」
「へ~え、女の人と上野公園ねえ。桜が満開でお花見日和の上野公園に女の人に呼ばれて……」
あれ。妹君が恐い。これはまたそういうことなんだろうという激しい誤解が生じているでござる。べーつに吾輩だって思春期の男なんだからデートの1つや2つしてもいいと思うんですがそれは。
「こんちわー」
「おっそいぞ!」
緊急事態というからヘシン!して駆けつけると、特に緊急事態ではなかった。
「すいません、ちょっとありまして……ってなんですかこの騒ぎは」
「先手を打たれたようです」
「打たれたようです、とは?」
「この未知の生命体は先日お見せした写真のソレですが、自然発生した生命体ではないのだろうという推測です」
呼び出された上野公園。桜舞い散る美しい風景の中に似合わぬ獣が大量発生していた。秘書さんが得体の知れない、明日から調査に行こうというその例の生物を撫でていた。
「(∪^ω^)わんわんお!」
しかし写真に写っていた凶悪なソイツとはまるで違い、千切れんばかりにしっぽを振りまくり完全に飼い慣らされた犬と化していた。お花見客と戯れてドンチャン騒ぎしている。
「だーもうかわいいなコンチクショウ!ほーれボール取ってこーい!」
「あおーん!」
「なんじゃこりゃ」
何事かと思って急いで来たのに、仮面の戦士が犬とも狼ともつかぬ動物に取ってこいをやっている。なんという光景でござる。
「大量出現したという報告を受けたときは慌てたものですがこういう先手なら打たれてもいいですね。ウチの社員寮はペット不可なので」
ああ、そう……。
「武蔵野学園の寮もペット不可……」
「私は忙しくて滅多に自分の家に帰れないから飼えないわ」
ローズとファングは膝枕をして撫でている。撫でられている方は気持ち良さそうでござる。おい、ちょっとそこ変われよ。その太もも吾輩んのだぞ。
「ファントムさんは?」
「犬用の骨買ってから来るって」
「へー、そう」
これは印象操作なのか、外堀から埋めるのが目的なのか。『先手を打たれた』のなら『誰か』がいるってこと。なに思惑に乗せられてるんですかね皆さん。
「ワン!」
いやワン! じゃねーよ。チンチンしてんじゃねーよ。
「ほれ、もう一個ボールあるぞ」
なにやってんのアンタ。急いで来いって言ったの誰でござるか。
……………………………。
「ウェーイ!」
もういいや!どうにでもなーれ!(AA略)!
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