第56話 妖怪でなくても試験も学校もないのもいる

「つーワケでして来週から中国でござる。お土産何買ってくればいいでござる?」


「おばあちゃんの買い付け旅行ねえ。まあ中国って言っても特産品ってほどのお土産はないと思うけど、兵馬俑?」


「お兄ちゃんばっかりずるーい!」


家族には会長のおばあちゃんが買い付けに連れていってくれるという言い訳を話すことになった。もちろん実際はおばあちゃん本人は中国なんかに行かず、一緒に来るのは影武者。


『今回の件は水面下で動いています。くれぐれも他言のないようおねがいします』


だそうな。ま、あぶなっかしいことに首を突っ込んでるとバレたらそれこそ怒られるしそんなんじゃ済まないかもしれないでござる。


「やっぱり中国のお酒は興味あるかなあ」


「お母さん、こないだお姉ちゃんとシオンさんと一緒に気持ち悪いってのたうち回ってたじゃん。二人ともしばらくお酒は禁止です!」


「うっ」


「あー、まあ……しょうがねえよなあ…」


先日の呑んだくれ集会。妹君が帰ってくる頃には既に三人ともくたばっていたでござる。


「おかげでシオン・アスターのイメージは粉々に砕け散ったよ……、憧れだったのに…」


学校が終わり、帰ったら知らない人の靴を見つけて、リビングに顔を出せば憧れの人がキッチンでマーライオンする姿、残る二人は一階と二階のトイレを占領。そりゃー幻滅しても仕方ないというものでござる。


「おまけに皆してお酒臭いし…」


「ごめん……」


「結局最初の三本じゃ足らないって騒いで吾が輩はパシられたし」


「ううっ」


いくら三人でとはいえ全部で一升瓶10本も空けたら、ね……。おまけにおつまみ大量に食い散らかしたもんだから完全に宴会と化していたでござる。呑んだくれの歌姫は泥酔して大声で歌って踊り始めるし、姉上は酒瓶振り回すし、母上はキス魔に変貌するし。もちろん普通の片付けも汚い片付けも介抱も吾輩。


「出発まではまだ時間があるからゆっくり考えたらいいでござる」


「月曜日の朝出るんだろ? いいなー海外旅行」


「瑠姫ちゃんは学校があるでしょー」


「お母さんは何にもないでしょー」


「うううっ」


完全にお小遣い減らされたのを根に持ってるでござるな。テストも学校もないとか妖怪かな?なんだろう、主人公である吾が輩よりずっと無職ニートしてるでござる。廃スペック、残念美人、巨乳、無職ニート。なんでも出来るけど何にもしない人。母上の方が無駄に属性持ってて吾が輩の方が特徴がないでござる。一説によると地元の暴走族初代総長だというが嘘か誠か。


『灰になった未知の生命体について成分検査を行ってもらいましたが、これもこの世界のどの物質と一致しなかったそうです。完全に手詰まりになりました』


一つだけ気になったことがあるでござる。秘書さんはずっとあの写真に写っていたソイツを【未知の生命体】と呼んでいた。けどソイツは本当に【生命体】なのでござる?


(どっかのボンクラは適当にボコボコにして黙らせればいいでござる。厄介なのは力任せが通じない相手でござる)


ソイツは既に狩られているということはつまり、通常兵器で対抗可能ということでござる。わざわざ吾が輩を出向かせる必要があるのか?あるということならまだ生き残りがいるか手に負えないのがいるかでござる。


(現地の戦力がどのくらいかは知らないけど、数で押しきれるならそれでもいい希ガス)


色々と疑問が残るが要はヤっちまえばいい話。相手がこの世の者でないのならなおさらやりやすい。さっさと蹴散らして中国お菓子巡りの旅にするでござる。

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