第48話 見えそうで見えない絶対境界
ここは…どこでござる……?知らないウユニ塩湖だ………。
「あなたが欲しいって言ったからね」
すいません、どちらさまでござる?
「ほんの一瞬ならなんとかなったよ。でも今はそれが限界」
ぺろっ、これは……塩!高度4000mの塩……!
「もっと鍛えてもっと強くなってね?」
美少女の為ならよろこんで!
「トモミンによろしくね」
――――――お兄ちゃん?お兄ちゃーん!お兄ちゃんってばー!!
「はっ」
「あっ、起きた。大丈夫?」
目を覚ますと妹君が上に乗って、吾が輩の顔を覗き込んでいた。
「巫っ女巫女な美少女のおっぱいに塩を塗ってペロペロしていた夢を見ていたてござる。あれっ、ここは誰?私はここ?」
「これは頭打ってダメかもしれないわね」
吾が輩の部屋じゃないでござる。もっと広いしベランダもある。それにこんな白い部屋じゃない……。窓際のベッドからは知らない風景が目に入る。
「ここ病院。あなた、銀座の事件に巻き込まれたのよ。覚えてないの?」
「えっ?」
「こりゃーダメな感じ」
知らないベッドの脇に、パジャマ姿じゃない母上がいた。
「お母さんや私に黙って銀座に遊びに行くからバチが当たったんだよ!」
「そうね。でも今回はデートだったみたいだから大目に見てあげるわ。怪我も大したことないし、女の子のことはちゃんと守ってあげたみたいだし」
「えー、あー、うーん?」
なんだろう。記憶が混濁していてよく思い出せないでござる。吾が輩が?銀座に デートみたいだったって、吾が輩はお付き合いしている女性はいませんが。母上、ニヤニヤしないでもらえますか?気持ち悪いでござる。
「会長のおばあちゃんにまたお世話になったんだから、ちゃんとお礼言っておきなさいよ?着替えはベッドの下にボストンバッグで持ってきてあるから」
「じゃ、お兄ちゃん隣の人によろしくね!サイン絶対だからね!」
「サイン?」
コサイン?タンジェント?はて、なんのことなのかさっぱり。母上と妹君が帰ると、その後ろにもう一つベッドがあった。いたのは……白い狂犬。今はすやすやと寝息を立てている。
「あー、あー?」
白くぼやけた頭からなんとなく見えてきたでござる。うん、ちょっと待てよ?何故吾が輩を殺しかけた人間を同じ部屋に置くの?たまたま勝ったからいいものの、そうじゃなかったら今ごろ遺体安置所でござる。これは激しい誤解があるとみた。
(おっぱい柔らかかったからいいけど……)
そういえば夢を見て、誰かと話していたような気がするけどなんだったのか。手からこぼれ落ちる水のように薄れていく。人の夢と書いて儚いと書くでござる。
(どうやらあの不思議な鏡の世界から誰かが助けてくれたんでござるね……、あっ)
ビジネスマン魔術師さんは無事なのだろうか。道路に転がったまま動かなくなってしまったあの人は。犯罪組織の敵なのに常識人で身なりもしっかりしている人。
(最悪の場合、あの人が死んだから出てこられたということも……)
隣のベッドを見やる。
(チカラに溺れているワケでも飲まれているワケでもなさそうなのに、あそこまで攻撃的とは。何か事情がありそうでござるな)
うなじから鎖骨にかけて見える、ほんの少しだけの肌色が劣情を催す。要はエロい。
(これは禁欲との戦いでござる……!でももうちょっとはだければおっぱいが見え見え見え見え……!)
吾が輩は変態紳士でござる。まだ手は出さない。
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