第36話 飛んで火に入る夏の虫

先にホテルにチェックインを済ませ、会場のアリーナに向かうとたくさんの人、たくさんの警察、たくさんの報道陣。


(を、横目に素通りして一足先に会場に入れる特別招待者の吾が輩。フヒヒ)


ライヴ当日。急遽厳戒体制で実施されることとなったシオン・アスターワンメイクライヴ。警察やライヴ主催者からの要請で、スタッフは武蔵野グループから出しているとのことだ。



「では、招待券と身分証と帯刀許可証をお願いします」


「はい。……はい?」


特別受付で招待券と車の免許証を出す。が、なんでこの受付のおねーさんは吾が輩の持ってる棒のようなコレが剣だと知ってるでござるか?


「戦野武将さん、ですよね? 会長から帯刀許可証も確認するよう命令されていまして」


「ああ、なるほど」


ショルダーバッグから帯刀許可証を出す。


「はい、確かに。ではこのインカムを左耳に」


「ファ?」


「着けろつってんだよバァカ。つかまだ気が付かねーのかよこのタコ」


「おびょっ………?!!」


「デケエ声出すなバカ」


「モゴ………!!!」


驚いた瞬間口を手で塞がれた。眼鏡をしていたお姉さんがその眼鏡を下げてメンチ切ってきたでござる。よくよく見たらヤンキー皇女殿下であらせられるリエッセさんでした。本人にヤンキーとか言ったらブッ飛ばされそうだけど。


「なにやってるでござるかリエッセさん」


「ライヴ始まるまではこうやって不審者探してんだよ。警察も警備員もスタッフもこっちの息の掛かった人間だけだ。なら客か不法侵入しかない」


「他の皆さんは?」


「中で危険物がないか最終チェックしてる。いいか?お前はライヴで最もシオンに近い場所にいる。もしもの時は実力行使でお前が阻止しろ」


「ええ……、それはつまり抜刀しろと?」


「そうだ」


いやそうだとか軽く言われても吾が輩、柔道はやったことあるけど剣なんてなんにもやったことないのに…。ましてや真剣なんて扱ったことないのにいきなり抜けと。実力行使ということはヘシン!しろということでござるか…。


「そのインカムでいつでも会話できる。中東の時に貸したヤツと同じだ。事あるごとに連絡するから聞き逃すなよ?」


「ああ、どんな国の言語でも翻訳してくれるとかいうハイテクひどい設定のインカムでござるな。せっかく抽選に当たったのになにこの仕組まれた感……」


「ほら、さっさと行け。シオンと二人きりで会えるようにしておいてやったから」


「おっしゃー!テロでもなんでもバッチ来いやー!!!」


「だからデケエ声出すなつってんだろ!」


案内で中に入るとショルダーバッグはお預かりしてくれたでござる。荷物を持たせるとかなんだか偉い人になった気分でござる。


「他の特別招待者の方と席で会うと思いますが、このことはご内密にお願いします。ござる君」


「ええハイそれはもちのロン」


(この子、緊張してて気付いてないのね)


「では…」


コンコン、と二回ノックする。中からどうぞ、と聞こえる。き、緊張してきたでござる。緊張しすぎて心臓が和太鼓叩いてるでござる。ソイヤソイヤッ!!


「失礼しまーす…」


「いらっしゃい。あなたが私のボディーガードさん?」


いた。最近出番のない陰の薄い自称絶世の美女(笑)のお師匠さまなんて霞んで見えるどころか霞んで消えてしまうほどの、美しい人がいた。


「ごめんなさいね、わがまま言って。久しぶりの日本だから意地でもライヴやりたかったの」


「いえいえいえいえ! こんな男でよろしければいつでもどこでも呼び出してください!」


「ふふふ、そう?」


彼女がシオン・アスター。ライヴ衣装に身を包んでいて目のやり場に困るし妖艶なフインキでああもう鼻血出そう。


「ほら、こっち座って?」


ソファーポンポンしてるでござる!! 妖艶な美少女に隣座っていいよってされてるでござる!!!


「じゃあLIME交換しましょ」


「えっ?!いいんですか?!」


「日本に来たときはいつでもどこでも呼び出していいのよね?」


「ええそりゃもう!」


おおおおおお!まさかのLIME交換! ってIDじゃなくて電話番号から持ってきたぞこの人!


「あのこれ…電話番号からになってるんですけど……」


「いいのいいの♪」


ええ?!なにこれ?!どういうこと?!初めて会ったたかがファンにそこまでしていいの?!これはつまり脈アリでファイナルアンSry


「ね? ござるくん?」


「ウェ?」


なんで吾輩のこと知ってんのこの人。

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