「それは無理です」
「急ごう。この騒ぎを収めて、いつもの日常に帰るんだ」
エリックは言って立ち上がる。
「そうだな。あいつらを蹴散らして――」
「いいえ、
拳を握って走ろうとするネイラに水を差すように、ケプリは告げる。
「何が無理だって? オレが負けるって事か?」
「いいえ、その心配はあまり。エンプーサの妨害は予想外でしたが、逆に言えば彼女はもうあの程度しかできません。無視していいでしょう。最大難敵と思われたエンプーサがあの状態なら、この戦い自体に負けはありません。
ですが『いつもの日常に戻る』事は難しいかと」
ケプリは一泊置いて、言葉を続ける。
「先ほどのマツカゼ様の言葉通りです。この戦いが終われば、
更に
人間と魔物は相容れない。それは価値観の違いもあるが、持ちうる力の差もある。
隣に爆発するかもしれない火薬があると聞いて、誰が安心して眠れるだろうか? 殺人鬼がいるかもしれない町に、誰が好んで住むだろうか?
「分かっている」
「お望みではないのでしょうが、やはり
……いいえ、そうすることでしか
大きすぎる力。差のある力。
巨大な身体を持つ者は、人の家に住むことはできない。たとえ歩調を合わせるとしても、どこかで歪みが出てくる。恐れ、怯え、それは少しずつ溜まっていく。
力在るものを恐れないわけがない。異物を恐れないわけがない。人が求めるのは、いつだって己の安寧だ。その安寧を得るために、英雄を求めているに過ぎないのだ。
アラクネと言う力を得た蟲使いは、もはや人の社会では生きてはいけない。此処を去るか、或いは自らが支配するか。その二者択一なのだ。
「ありがとう、ケプリ。僕のことを心配してくれて」
エリックは言ってケプリの頭を優しく撫でる。
「だけど、まだ何とかなる。
かなり綱渡りだけど、この状況をどうにか収めればなんとか」
「どうするんだ、大将? いや、オレはどっちでもいいぜ。
親指で自分を指差し、ネイラが告げる。何があってもエリックについていく。その言葉に迷いはない。
「……
「オレはフリョーだからな! 型にはまるのは嫌いなんだよ!」
「うん。その、すごく嬉しい。ネイラがいてくれるならすごく安心できる」
「おうよ! 大船に乗ったつもりでやりたいことやってくれ!」
「うん。それじゃあ――」
胸を叩くネイラ。その姿に背中を押されるように、エリックは『作戦』を説明する。
「…………という感じなんだけど」
「
「そうだな。オレもさすがにムカついた。いや、文句はないぜ」
「う……。いや、そういうつもりはないんだけど……ないわけでもないけど」
「ですがまあ、逆に言えばこの状況を打破して日常に戻るなら、そこまでしないと無理でしょう。
無理ならそれこそ覇道かピラミッドに籠ることをお勧めするだけです」
難色を示したケプリだが、失敗しても次手はある、と言う事で納得した。エリックが無事ならば、それ以外はどうでもいい。
「となると、予想外の懸念はできるだけ早く排除しておきたいですね。
具体的には
「赤騎士もだな。そいつらを排除しながら、なんとかっていう貴族とエンプーサを押さえる。それが最低ラインだ。
大将、蜘蛛女の力を使って戦えるか?」
「大丈夫……だと思う。クーと融合して、スキルの使い方は理解したから」
『バンバンあーしを使ってよね! なんなら、その辺の人を食べてエーテル補充してもいいよ』
「いや、流石にそれは……」
最終の打ち合わせを済ませ、<
「ケプリのポジションは変化なく。ケプリは土と炎で皆様を援護しながら、敵排除に」
「オレは赤騎士メインで動くぜ。派手に動き回って、気を引いておくから!」
「僕は遊撃の形で臨機応変に動く。糸使いの戦い方に体を慣らしながらになるけど……」
『エリっちならできるって! あーしの戦い、ずっと見てたんだしさ!』
そして四人はオータムの戦いに戻る。
その瞳に絶望はなく、自ら望む未来に向かって強く足を踏み出していた。
◆ ◇ ◆
キャンペーンミッション!『オータムシティを開放せよ!』
……第二部、閉幕!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます