「むーむーむー!」

「エリっち……凄かったぁ……」


 ぐったりとした声を出して横たわるクー。一糸まとわぬクーを見ながら、エリックは愛おしく彼女の頭を撫でていた。


「優しいのに的確で、体の隅々まで愛されちゃったー。もう、エリっちの野獣!」

「クーの反応がすごかったんで、その調子に乗りました」

「いいのよ。エリっちだから。むしろ嬉しかった」


 言って体を寄せてくるクー。エリックはまどろみながらその温もりと重さに身を任せる。そのまま穏やかな時間が――


「よーし、終わったな!」

「そのようですね。では遠慮なく」


 穏やかな時間は、ネイラとケプリの声で中断される。

 二人の服装も、クーと同じく女性用の薄布寝間着だ。湯浴みも済ませ、準備万端と言った感じである。


「え? え?」


 思わず半身を起こすエリック。

 だがその寝間着姿と二人の達の表情から、何をしたいかは明白だ。


「んだよ大将。まだ元気そうじゃないか。実はちょっと心配してたんだよな、その辺」

「ギャン泣きするんで最初だけはクー様にお譲りしましたが、ケプリ達を袖にされるのは悲しいと思っています」

「泣いてないもん! ……そりゃ、最初は二人っきりじゃないとヤだって駄々こねたけど!」


 遠慮なくベットに腰掛けるネイラとケプリ。その二人にクーは拗ねるように告げる。


「蜘蛛女は嫉妬深いからなぁ。ま、オレも最初は譲る気でいたんでいいけどな」

「え? 最初? いや、その」

「んだよ大将。オレとはヤりたくないのか?」

「そう言われると……シたいです」


 押し切られるような物言いだが、嘘は言っていない。ネイラの腰を抱き寄せるようにベッドに招き入れる。


「流石、ファラオ。素直さは美徳です。では勢いでケプリともどうですか?」

「いや待って。ケプリをそう言うふうに扱うつもりはないから」

「了解しました。ではケプリは参加せずに席を外して――」

「じゃなくて。……勢いでじゃなくて、正式にお願いしたい」


 一礼して去ろうとするケプリの手を取り、引っ張るようにして抱き寄せる。


「むーむーむー!」


 そんな行為を前にして、クーは頬を膨らませていた。


「……クー。その、クーの気持ちは理解してるし、怒るのは当然だと思う。

 だけこれが僕の偽りない気持ちで……クーとネイラとケプリに優劣をつけることなんてできない」

「むー! エリっちのばか! そーいうときはウソでも『キミだけが大事なんだ』っていってほしいの!」


 エリックの背中をぽかぽか殴るクー。その両脇には抱き寄せたネイラとケプリ。


「この状況でそう言ってもなぁ」

「分かりませんよ。何せクー様です。ファラオの言葉なら案外コロッと騙されるかもしれません」

「ありそうだ。よかったな大将。この蜘蛛アンタにぞっこんだぞ。あまりの余りっぷりに、少し心配だけど」

「ないわよ! ……そりゃ、ちょっとは揺らぐかもだけど!」

「かもなんだ」


 ネイラの言葉ではないが、少し心配になるエリック。

 散々エリックの背中を叩き、ベッドの上をゴロゴロしたり足をバタバタさせながら、瞳に涙を浮かべてクーは呟く。


「…………その二人なら、ギリ許す……」


 実のところ、その答えはずっと心の中にあった。


(あーしはエリックに一番愛されたいけど)


「あーしはエリックの愛を独占したいというわけではないし。したいけど。それでエリックを拘束したくないし。したいけど」

「あの、クー……?」

「地獄の蜘蛛の本性だな」

ファラオの甲斐性の見せ時ですね」


 ヤンデレに堕ちそうになるクー。それを見ながら戦々恐々とする三人。


「ネイラとケプリんの事だって好きだもん! 二人がガチでエリックのこと好きなの解るし、幸せになってほしいもん!」

「おう。オレも蜘蛛女のことは好きだぜ。でなきゃ一番譲るとかしねーよ。ま、大将をめぐってガチバトルっていうのも悪くねえって思ったけどな」

「そうですね。ファラオに対するその気持ち含めて、クー様は素晴らしいと思っています。でも拘束監禁誘拐だけはご容赦を」

「えーと、円満解決……したのかな?」


 修羅場の雰囲気が消えたのを察し、エリックが声をかける。


「言っとくけど、あーしら以外に手をだしたら鬼おこだからね! 糸できゅっと締めるから」

「そうだな。本気のヘラクレスパンチが飛んでくると思えよ、大将!」

「ケプリは手加減して900度の炎で包むだけにしておきます」

「いや、死んじゃうから。……でもまあ、その心配はないかな」


 殺意の籠った三人の言葉にツッコミを入れるエリックだが、むしろ安心した声だった。


「僕の手には三人で十分だよ。っていうか、今でもいっぱいいっぱいで、いろいろ混乱してるんだけど!」

「安心しなよ大将。大船に乗った気分で身を任せな!」

「ケプリはファラオがどのような性癖を持っていたとしても受け入れるつもりです」

「そんなこと言ってると、エリっちのえちえちビーストに食われちゃうぞー」


 からかうように『経験』したクーがネイラとケプリに告げる。


「え、マジか」

「マジマジ。夜のエリっちはすごいわよー。あーしまだ腰立たないもん」

ファラオがすごい事はケプリは知っています。ですがそちらの方面は未知でした。実践して評価を改めなくては」

「いや、クーがからかってるだけだから!」

「本当かぁ、大将?」

「真偽を確かめさせていただきます」


 言ってネイラとケプリもベッドに倒れ込む。少し遅れて、クーもベッドをゴロゴロと転がってエリックに近づき――


「エリっちー」

「大将」

ファラオ


 エリックを中心に、クーの褐色の肌とネイラの白い肌とケプリの小麦色の肌が絡み合った。

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