「なんでもするからエリっちを探して!」

 オータム冒険者ギルド――


「クソ悪魔ー! エリっちがどこに行ったか教えなさーい!」


 そんな台詞と同時に、冒険者ギルド長の部屋に押し入るクー。

 クーの視線の先には、少し年老いた人間の男性とそのサポートをする人間に化けた悪魔ヴィネがいた。過去から未来まで見通すことのできる悪魔。

 彼女の瞳なら、平行世界に飛ばされたエリックを探し出すことが出来るかもしれない。そう思い、エンプーサを放置して冒険者ギルドまでやってきたのだ。

 冒険者ギルドに乱入するクーを止めようとする冒険者はいたが、


「すみませんギルド長、止められませんでした……!」

「このエルフ、メチャ強すぎて。あと泥団子が重すぎて!」


 街中に魔物が現れるという非常事態。避難所となっている冒険者ギルドの長の部屋に乗り込もうとするギルドメンバーではない者達。それを止めようとした冒険者達は、こぞって糸で縛られたりエルフの拳で打ちのめされたり泥団子で潰されたりしていた。


「人をクソ悪魔呼ばわりとか無遠慮なクモね。人にものを頼む態度を知らないのかしら?」


 ぶしつけにもほどがある態度に、ギルド長付きの事務員は不機嫌な態度で返した。名目上は人間で通しているののだから、悪魔と見名がいる場所で呼ばれるのは好ましくない


「なんでもするからエリっちを探して!」

「……あら?」


 嫌味を返してくると思ったヴィネだが、あっさり頭を下げるクーに驚きの声を上げていた。


「あーしじゃどうしようもないの! エリっちがどこに行ったかわかんなくて、あんたしか頼れなくて! あーしに出来ることなら何でもするから! だからアンタの瞳でエリっちを探して!」


 瞳に涙を浮かべ、必死の表情ですがるクー。その姿を見て、ヴィネはため息をついた。


「主。とりあえず三人を中に。他のメンバーに聞かれたくありませんので」

「分かった。冒険者達には私が話をつけよう」


 ギルド長はそう言って混乱する冒険者たちを宥めに向かう。入れ替わるようにネイラとケプリが部屋に入り、事情を説明した。


「結論から言えば――場所は分かりました。平行世界<ディラクスト>に『この世界の』ホワイト様がいます。僅かに可能性がずれた世界です」


 ヴィネの言葉に表情を明るくするクー。


「ですが、それまでです。

 私は平行世界に移動する手段を持ちえません。平行世界座標を告げることはできますが、それ以上は」

「……う」


 しかし喜びもつかの間。平行世界に移動する手段がない事に気付き、落胆するクー。ネイラとケプリもそれは予想していたのか、腕を組んだ。


「狙った世界への移動は神レベルだからなぁ。勇者ブレイブでギリだろうな。チビッ子の魔法でも無理か?」

「無理ですね。ケプリの世界を基点とした移動ならできますが、それ以外は流石に」

「わざわざその世界に行かなくとも、その少年を召喚すればいいのだろう? ならば私の出番だ」


 扉を開けて入ってきた男――冒険者ギルド長がそう言い放つ。


「へ? できんのか、おっさん」

「エルルにおっさん呼ばわりされるのはショックだなぁ……まあ、それはともかく。

 特定世界の特定人物を召喚することは可能だよ。元々この世界の人間だから、召喚後の魔力維持も不要だ。召喚時のコストだけで事は足りる」

「やったぁ……! それじゃあサクッとエリっち召喚して――」

「問題はそのコストでね。正直、今街を守る以外のコストを出す余裕がないんだ」


 肩をすくめるギルド長。

 オータムの街は今、謎の赤騎士により蹂躙されている。その数は未だ衰えていないのだ。一時期エリックを始めとしたチームが盛り返したのだが……。


「キミたちが戦線離脱したことで、また押し返されたんだ」

「そんなのあーしら知らないし! エリっちがいないのに戦う理由ないし!」


 頬を膨らませるクー。

 実際、クーたちが戦う理由は『エリックが望んだから』だ。そのエリックがいない以上、戦う理由はない。


「うん。まあだから取引しよう。その子は私が責任をもって召喚する。だから君達はその分あの赤い騎士達を押さえてほしい」

「いいように利用されている節はありますが、ファラオの為でもありますし、何よりも街を守るのはファラオの望みです。乗るとしましょう」


 ケプリの言葉は、クーとネイラの代弁だった。あまり乗り気ではないけど、エリックの為なら仕方ない。


「では取引成立だ。二時間もすれば召喚は終わる。それまで頑張ってくれ」

「確認ですが、皆様が防衛するラインまであの騎士を向かわせなければ問題ありませんね? 些かな止め方になりますが」

「うん? 構わないよ。何分非常事態だ」


 頷くギルド長。

 そんなギルド長に、事務員ヴィネはそっと薬を差し出す。粉状にした胃の薬だ。


「? どうしてこれを?」

「十四分後に必要になりますので。今の取引を後悔して、激しい胃痛を起こす未来が見えました」


 え? という表情をするギルド長。その視線の先で、


「というわけです。本気で行きましょう」

「うーっし、大暴れしてやるぜ!」

「秒で片づけてやるわ!」


 エリックと言うブレーキ役がいなくなったケプリとネイラとクーが、戦意溢れる瞳をしていた。


「私の胃痛で、すむのなら……」

「私財をいくつか処分ことになるので、その書類も用意済みです」

「……君の気遣いにはいつも感謝しているよ」

「おほめにあずかり感謝します」


 すでに胃腸の変調を感じつつあるギルド長であった。


◆       ◇       ◆


キャンペーンミッション!『オータムシティを開放せよ!』

 ……第一部、閉幕!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る