「この世界の君達のことを教えてほしい」

 ――同じスキル、もしくは相反するスキル同士がぶつかり合った場合、それはスキルの使い手同士の綱引きとなる。

 エーテルの強さを基本とし、外敵内的な様々な要因を加味して力の強い方の効果が発揮される。


「死ね」


 蟲王エリックは変化した自分の肉体の能力を十全に扱い、エリックに攻撃してくる。

 アラクネの糸で締め付け、ヘラクレスのパワーで押しつぶし、元太陽神の炎で焼き尽くす。

 そのどれもがエリックからすれば過剰攻撃オーバーキル。そして避けることもできない。

 だからエリックは<命令オーダー>して止めるしかない。それは蟲王エリックも分かっている。だからこちらも<命令オーダー>してその命令を跳ねのける。


 ――同じスキル、もしくは相反するスキル同士がぶつかり合った場合、それはスキルの使い手同士の綱引きとなる。

 エーテルの強さを基本とし、外敵内的な様々な要因を加味して力の強い方の効果が発揮される。


(このは余の体になじませた、もはや同化状態。

 異世界の自分であったとしても、そのスキルが同質だったとしても、扱いなれた我が身と言う時点で余の勝利は揺るがぬ!)


 蟲王エリックの見立ては間違いない。

 単純に<命令オーダー>すれば、結果は明白だ。この世界の人間ではないエリックが、知った顔で彼女達を扱えるはずなどない。

 だからというわけではないが――


(急に<命令オーダー>しないで、って言われたからね)


 エリックがスキルの使用をためらったのは、そんな理由。元の世界の彼女にそう含められたから。だから――


「この世界の君達のことを教えてほしい」


情報探査サーチ>――


 対象は、クーとヘラクレスとケプリ。

 この世界で――エリック・ホワイトが蟲王として君臨する世界で、どんな生き方をして今に至ったのか。それを知りたかった。


『クモじゃないわよ。あーしはアラクネ。名前はクー』


 最初に流れ込んだのは、クーとの出会い。


『あはははは。人間にいじめられて復讐するんだ。いいよ、あーしそういうの大好き!』

『ねえ! 食べていい! この街の人達食べていい!』


 それは――人間の敵ではあるがエリックがよく知るクーの笑顔だった。その笑顔は魔物だから、というわけではない。


(彼女は、きっと僕に合わせてくれたんだ。人間を食べないようにってときも、食べていいって時も。自分勝手に見えて、誰よりも孤独を怖がる臆病者だから)


 だからクーは嫌われないように生きていた。自分を捨てない相手から見捨てられる恐怖を知っているから。

 だから――


『や! 何でも言う事聞く! だから、だから捨てないで!』

昆虫種インセクタみたいに群れる事できないけど、他の事ならなんでもするから! 身体だって好きに使っていいし、どんな命令でも聞くからぁ! だから捨てないでぇ!』


 だから、自分よりも『有用』な軍隊である昆虫種インセクタ蟲王エリックに着いた時、そう泣き叫んだ。そして――蟲王の血肉になるように<命令オーダー>された。


『ああ……うあ、あーしが、溶ける……! いや、なのにぃ、ああああ!』


 肉体が崩れ去る苦痛と大事にされる快楽。それがその時から今も続いている。


『オレの名前はバスターヘラクレス! 悪辣非道な人間共に鉄槌を下すためにここに参上!』


 次に流れ込んだのは、ネイラ――正確にはヘラクレスの記憶だ。


『なぁ!? ヘラクレスに命令して、オレの身体を!?』


 蟲王エリックはネイラの身体を包むヘラクレスに<命令オーダー>し、全身の動きを封じる。そのままねじるようにネイラの腕を――


『うああああああああああああ!』


 森の聖人とはいえ、重戦車ジャガーノートのパワーにはかなわない。それが全身を包み、蟲王エリックの意のままに動くのだ。関節の数だけ苦痛が響き、気を失えば脳を揺さぶられて無理矢理起こされて。


『やめ……もうやめてください……お願いします……』


 その心を折るまで拷問は続き、泣き叫ぶエルフの悲鳴は気が狂うまで終わらなかった。そして主を失ったヘラクレスは、蟲王に操られるままに同化する。


『貴方はファラオ……いいえ、その魂は汚れています』


 そしてケプリ。彼女は蟲王エリックの悪意に気付き、初手から殺すつもりで炎を解き放ち――


『あ……っ!』


 同化したアラクネの糸に捕らわれ、ヘラクレスのパワーで蹂躙されていた。


『元神か。いいだろう、お前は心から屈服するまで調教してやる。たっぷり時間をかけて、身も心も余に従うように仕向けてやろう』

『敗けません……。この身は、ファラオに捧げるモノ。純潔を奪われても、心までは屈しま――きゃああああああああああ!』


 そうして長い時間ケプリは蟲王エリックに弄られ続け、そして――


「この世界はありえたかもしれない可能性の世界。エリック・ホワイトが『正しく』スキルを使って『成功』した世界」


 スキルとは神に与えられたモノだ。神がそうしろと定めたモノだ。

 だから与えられたスキルを最大限に活用する蟲王エリックは、正しい。戦士が武器で魔物を殺すのが当然のように、蟲使いが虫を使って何かを殺したり奪うのは正しい。


「だけど、そういうふうにすれば強くなれると分かったとしても、僕はそんなことはしない」


 正しい事と、やりたいことは違う。もしそうすることが正しいとしても、エリックは絶対に彼女達の笑顔を奪わない。


「あんな悲鳴を上げさせることが、正しい事なんて認めない!」

 

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