「ソイツがお前の本気か」
西門でエリック達が行動しているのと同時に、冒険者ギルドの面々は南門で戦っていた。
戦士や格闘家と言った前衛職が突撃し、それを支援するように射手や魔術師が遠距離から支援する。実に五倍近い兵力差を埋めるのは冒険者たちの実力と経験だ。最初は戦い慣れしていた冒険者たちが押していたが――
「なんだこいつら!? 倒してもすぐに復活するぞ!」
「非実体化しやがった! おい、僧侶系ジョブは倒したヤツから浄化していけ!」
「やってるけど数が多すぎるんだよ! 本職の神官を呼んで<
「貴族と一緒に中央街に引きこもってるんだぞ、アイツら! どうやって呼ぶんだよ!」
「知るか!? 畜生、ジリ貧だぞこの状況!」
倒れても煙のように消え去り、そしてすぐに次のミイラが殺到する。そして時間が立てば消えたミイラは復元するように立ち上がってくる。何度倒しても蘇る不死者を前に、戦局は徐々に泥沼化していく。
戦士たちが形成していた陣はミイラの数の暴力で崩壊する。敵味方入り乱れる乱戦となり、冒険者たちは手近な者達と円陣を組んでじわりじわりと逃げるしかなかった。門までたどりついて、タイミングよく中に入って難を逃れる冒険者達。
「いや無理だろこれ! ふざけんな!」
そんな中、カイン・バレッドは一人でミイラと戦っていた。殿を務めた……のではなく単に逃げ遅れただけである。自意識過剰な性格が撤退のタイミングを拒み、邪神の眷属を倒した(わけではないのだが)意地がこの結果を生み出していた。
炎の精霊を使って効率よくミイラを倒すが、目立つ行動が災いして多くのミイラを引き寄せることになる。精霊の力を借りて剣を振るう事はできるが、魂を浄化することなどできないのだ。
「くそ、これで最後だ好きにしなぁ! ……お?」
終わりを覚悟したカインは、最後の力を振り絞って巨大な炎の攻撃を放つ。燃え盛る炎の中でミイラたちが次々と消えていくのを見ていた。炎の範囲外にいたミイラたちも消え、復活する様子もない。
きょとんとしているカインは背後からの歓声を
「なんだ!? ミイラたちが消えたぞ!」
「冒険者たちがやったのか! あの数を!」
「
「南門は守られたんだ!」
状況だけ見れば、ミイラが消えてそこに邪神の眷属から街を守った
そして、カインもその誤解を解くつもりはなかった。逃げ損ねて死を覚悟してたら助かった、と正直に言うような性格はしていない。
「大したことなかったな! 俺の精霊剣に勝てる者はいないんだよ! はっはっは!」
彼の活躍により、窮地に陥った街の危機は救われた。この戦いは後にオータムの英傑と呼ばれるカイン・バレッドの一頁となるのであった。
◆ ◇ ◆
さて、突如消えた大量のミイラが何処に行ったかと言うと――
「ソイツがお前の本気か」
「そうだ。この街を囲む
ネイラの言葉に、犬仮面が答える。
犬仮面の身体を大量の包帯が包み込み、身長3mほどの巨人となっていた。オータムを囲んでいるミイラすべてを魂にして呼び戻し、、己の身体に纏わせたのだ。そこに集まる
「いいねぇ、一撃必殺。チマチマやるよりもオレ好みだ!」
ネイラも拳を突き出し、息を整える。装甲を解除し、そのパワーを右手に集わせる。一点集中。防御を捨てた事を相手に見せ、覚悟を決める。
「そういや、名前を聞いてなかったな」
「余はゾルゴ。王国を守りし
「我が名はディアネイラ・ソリシア・オルゴポリス! 森の
それ以上の言葉は不要、とばかりに互いに構えをとる。包帯の巨人はその腕を振り上げ、黒の聖人は丹田に力を籠めるように仁王立ちをする。
吹きすさぶ風。それが砂を舞い上げ、一瞬クーの視界を遮る。
「――――っ!」
その一瞬で、勝負は決していた。
重い音が響く。拳が何かを叩いた音。クーの視界を通じて、エリックはその勝敗を確認する。
「――見事。ディアネイラ・ソリシア・オルゴポリス」
「そっちこそ。アンタ、嫌いじゃねぇぜ。大将がいなけりゃ、惚れてたかもな」
そんなやり取りの後に、巨人は崩れ落ち、包帯は消え去っていく。
雄叫びをあげ、犬仮面の傍で拳を突き上げるネイラ。それがオータムを襲った不死者との戦いの、本当の終結となった。
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