「じゃー、どうするのよ。エリっち?」

 エリックとクーとネイラは冒険者ギルドの討伐部隊に入ることが出来なかった。


「ごめん、僕がEランクだから……」


 原因はエリックの冒険者ランクである。Eランクであるエリックは実力不足とみなされ、討伐部隊に入ることが出来なかった。

 実力で言えばクーやネイラは充分なのだが、二人は冒険者ギルドの一員ではない。エリックの手伝いと言うフリーの存在だ。冒険者ギルドとしては登録されていない者を戦力としてカウントすることはできない。


(はは……。また僕が足を引っ張ってる……)


 クーもネイラも、その実力は並の冒険者以上だ。いや、この街にはいない、世界に五十人もいないだろうAランク冒険者でも叶わないだろう。

 アラクネであるクーは人間状態であったとしても<糸使い《スレッドマスター》>のスキルランクは高く、縦横無尽かつ広範囲に戦場を支配できる。攻撃にサポートにと様々な状況で戦えるだろう。それはエリックもよく知っている。

 そしてネイラは高い格闘技術で戦場を突破できる。素の状態でも武術大会で準優勝と言う強さを誇り、バスターヘラクレスと同期すれば重戦車ドレッドノートとして戦場を駆け巡るだろう。こうした戦場において、あの突破力は必要だ。

 いっそ――


「『いっそ僕なんか見捨てて、二人は冒険者ギルドにはいったほうがいいのに』」

「なんて考えてるんなら怒るぞオレ達!」

「痛い痛い痛い! ええ!? どうして考えてることが分かったの!」


 クーとネイラに左右から拳で突かれるエリック。痛みよりも驚きの方が勝っていた。


「んな顔してりゃオレでもわかるぜ、大将」

「エリっちは自己評価低すぎ! っていうかあんなこと言われたらあーしらの方からお断りよ!」

「おう! あいつらの鼻を明かしてやろうぜ!」

「え? あの、クー? ネイラ?」

「あーしら三人でミイラボコって、エリっちが弱くないってところ教えてやるんだから!」

「だな。オレ等の大将が伊達じゃないってことを見せつけてやるぜ」

「いや……無理だから。流石にミイラの群れに突っ込めとか言われても!」


 怒りに燃えるクーとネイラに、エリックは事実を告げる。それが出来ないからの現状なわけである。


「そこは任せろ! 大将にはヘラクレスがある! 前みたいに<命令オーダー>すれば――」

「無理だって。一発パンチした後に丸一日寝込んでたんだから。ミイラと戦ったらそれこそ死んじゃう!」

「根性入れれば何とかなる!」

「精神でどうにかなる問題じゃないから!」

『何度も言うが、誓いを無視してしかも聖人以外に扱われるのはやめてほしいのだが』

「……ちっ。お固いなぁ、大将もヘラクレスも」


 かたくなに拒否するエリック。そして当のヘラクレスからもクレームがついたため、ネイラは諦めたように肩をすくめた。


「そこまでしなくても、あーしらがミイラ倒せばそれでよくね? ばばーっとやっちゃってそこにエリっちがいれば」

「それだとクーとネイラが倒したんだ、って思われちゃうよ。実際、そうなるだろうし」


 クーの言葉に苦笑するエリック。

 二人の実力は皆に知れ渡っている。カインを退けたり、武術大会で準優勝したり。何の実績のないエリックが一緒に居たところで何かの役に立つとは思えない。


「んなことない! エリっちがいないと、あーしらヤババになるもん!」


 だがクーは胸を張ってそれを否定する。

 エリックがいたからこそ、今こうしているのだと。


「ええ……? その、買いかぶりすぎだって」

「だからエリっちは自分のことが見えなさすぎ! あの痴女の時もキマイラじじいの時もエリっちがいたから助かったんだからね!」

「そうかな……? あの時、僕に出来た事ってそんな大したことじゃ――」

「ああ、もう! とにかくあーしらはエリっちがハブられるのなら、冒険者達アイツらと一緒に行動しないから!」


 ぷんすこ、と自分で怒りの擬音を言いながら腕を組むクー。ネイラも同意とばかりに首を縦に振った。


「う、うん。でも二人がじっとしてるのは流石にもったいないって言うか。その、危険な目にあってほしいって意味じゃなくて、でもこのままだと街の人達が――」

「じゃー、どうするのよ。エリっち?」

「ええと……」


 エリック自身気付いていない事だが、いつの間にかその顔は下ではなく前を向いていた。二人の足を引っ張っていると落ち込むのではなく、今この場でどうしようと思案する顔に。


(もー、ようやくエリっちらしくなった。エンジンかかるの遅すぎ)

(そう言うなって、いつもの顔にもどって嬉しいくせに。顔がにやけてるぞ)

(……っ! そ、そりゃウダウダされるよりはいいだけだし!)

(照れるなよ。オレも嬉しいんだ。大将はこうでなくちゃな)

(……ん。そうね)


 小声で囁き合い、互いの手のひらをタッチするクーとネイラ。

 二人にとって、エリックが弱いことなんてどうでもいい。そんな事はエリック・ホワイトの真価ではない。

 彼の真価は悩みながらも進むこと。転んでも泣きながら這おうとするところ。その精神性よわさこそが、彼のなのだ。


「……なんであのミイラたちはこの街に攻めてきたんだろう?」

「アンデッドモンスターに目的なんてあるのか? 脳みそ腐ってるんだぜ?」

「いや、それを統率している者がいるってことだからやっぱり何かしらの意図はあるんだと思う。

 そして目的があるという事は、話し合いが出来るかもしれない」


 勿論、目的がただの略奪の可能性もある。生きている人間を皆殺しにしてミイラを増やしたいという可能性もあるだろう。

 だが、そうでない可能性もあるのだ。


「んー? じゃあその人に話を聞きに行くでいいんじゃね?」

「そうなんだけど……そもそもどういう存在かも知らないし、ミイラもたくさんいるわけだから結局会話が出来る状況に持って行けるかどうか」

「んなもん、オレ等に任せとけ!」

「そーよ。ばばーっとやっちゃうから!」


 遠慮がちにためらうエリックに、胸を叩いて答えるネイラとクー。


「な、なんでそんなに嬉しそうなの……?」

「ひっ・みっ・つっ!」

「乙女には色々あるんだよ、察せ!」

「乙女って……結構な荒事なんだけどなぁ」

 

 乙女ってよくわからない、とエリックはそれ以上の追及を避ける。聞いても教えてくれそうにないし。

 こうして、エリックはミイラの統率者に話を聞きに行くのであった。

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