「……そんな感じだったっけ?」
「……そんな感じだったっけ?」
「そんな感じだったかなぁ?」
クーとネイラは状況を思い出し、齟齬がないことを確認する。あの水着大会自体が女性をおびき寄せる罠で、集められた女性達を奴隷にして売り物にするのが『彼ら』の本業なのだ。
「ねえアホエルフ。この首輪千切れそう?」
「金属製だからな。さすがにバスターヘラクレスの力でないと無理だ」
「あーね」
「……何のんきに話をしてるのよ、貴方達」
二人に声をかけたのは、倒れる寸前まで一緒に居たカーラとアリサだ。二人とも首輪をつけられ、状況を察して顔を青ざめさせていた。首輪が取れないかといろいろ試したが、どうしようもない。
「あたしたちが奴隷だなんて……こんなこと、なんで……?」
「裏社会の連中がこんな所に出てくるとか、商人ギルドは何をしているの……!」
「しょうにんぎるど?」
「ええ。商人ギルドはオータムの街の商売を管理しているわ。それは表立ってできない商売……例えば奴隷密売も含まれるの。簡単に言えば、あんな町通りでこんな誘拐まがいの奴隷商法なんかさせないために」
奴隷の売買自体は、国の法律により認められている。ただしそれは国の許可をとっている商人だけが可能で、奴隷の売買数も報告の義務があった。国は民を守るためにある。奴隷商売を放置して国民に害が出るなら、本末転倒なのだ。
だが、律儀にそれを守っていては商売にはならない。その為国の許可をとらない奴隷商人も存在する。ありていに言えば裏社会の商売だ。そして商人ギルドはそういった商売が表に出ないように管理する必要がある。――そうしないと真っ当な奴隷商人達の商売が成り立たないからだ。
「はー。よくわかんないけど、怖い人がいるってのは解った」
「はン。悪者がいるってことか!」
「その悪いヒトに捕まったのがあたし達なのよ」
「このままだと私達は……」
あまりよく分かっていないけど納得するクーとネイラ。
そんな二人を見ながら暗澹とした表情を浮かべるカーラとアリサ。
『
『流石は匂いに敏感なジョブだな。効果も普通の奴らよりも高いようだ。それとももともとそういう素質を持っていたのかぁ?』
『逆らったって無駄なことはお前がよく分かっているだろう? 人は香に勝てない事をお前の身体にしっかり教えてやるぜ。ついでに奴隷という立場もな!』
『知ってるぜ
『どうした? もっと頑張ってスキルを使って防御して見ろよ。痛みには耐えられても、こういうコトには耐えられないってか!』
『魔物相手は辛いか? はは、だが体はまだ大丈夫だって言ってるぜ! 大したもんだな
それぞれの未来を想像し、うつむく二人。もしかしたら想像以上のことをやらされるかもしれない。それを想うとさらに気分が悪くなる。混乱と絶望が拍手をかけ、立ってられなうほどの眩暈が二人を襲った。
「カイン様……どうかお助けください」
「……無理よ。今回の事はカイン様には伝えてないし。そもそもここがどこかも分からないのよ」
「ああああ……!」
「こうなったら、扉を開けて入ってきたときに襲い掛かるしか……でも相手もそれは予想しているだろうし。そもそも扉の外から命令されれば、体が勝手に軌道を逸らしてしまう……!」
色々思考し、そして絶望するカーラとアリサ。万策尽きた。首輪を嵌められた時点で、逆転の手口はすべて失われたのだ。
手際から考えれば、相手はこういった誘拐のプロだ。隙など見せるはずもない。こちらの素性も知っているのだから、対策ぐらいは普通に立ててくるはずだ。第一武器もない。武装や道具の類は着替える際にロッカーの中に置いているし、隠し武器などがあっても運ばれる際に調べられている。
「んー……命令されたのって『逃げるな』的な感じ?」
「みたいだな。今のところそれ以外の制限はなさそうだ」
対してクーとネイラは柔軟体操をしながらそんな会話をしていた。明らかに戦う準備をしている様子だ。
「エリっちがいたら虫を通じて外の様子探れたんだけどなー」
「だよなぁ。大将がいないってだけでここまで行き当たりばったりになるか」
「あーしまで脳筋仲間にするのやめて」
「お前の場合は大将に依存しすぎた」
「んな!? 違っ、あーしは、べべ別にエリっちに、い、依存? 依存なんか――」
「こういう時の第一声が『大将がいれば』なクセに」
「あ、あくまでできることとできない事の差なんだから! か、勘違いしないでよねっ!」
「へいへい。まー、実際大将抜きだと不安は多いけど、やるしかないか」
言って拳を突き出すネイラ。赤面してむすっとしてるけど、それに拳を合わせるクー。
「ふぇっふぇっふぇ。準備が取殿しましたよ、皆さん」
扉を開けて、奴隷商人らしい男が声をかけてくる。
そのタイミングと同時にクーとネイラは動き出す。
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