「わかった。信じる」
「話し合いだ?」
無事、バスターヘラクレスを無力化したエリック。賭けみたいなところもあったが、クーに蟲使いのスキルが通用する以上は通じるかもしれないという目算はあった。
「うん。ええと、キミはドーマンさんの命を狙いに来たんじゃないのかな? シマを荒らされたってことは何かを取られた?」
「ああん? お前らアイツの仲間じゃないのか?」
「いや、僕は……形式上はドーマンさんに雇われているんだけど、その辺の事情をまるで知らなくて」
「わかった。信じる」
さっきまで散々好戦的だったエルフだが、素直に情報を口にする。抵抗は無意味だと悟ったのだろうか。
「あいつらはオレ等の仲間を誘拐したんだよ」
「誘拐?」
「ああ。フェアリー族の集落を襲って、連れ去ったんだ」
フェアリー。体長30cmほどの羽根が生えた妖精で、不思議な力を持つといわれている。主に回復や付与などに長け、幸運を呼び寄せたりといった人間では扱えない領域の魔術もあるといわれている。
「仲間の一大事ってことでオレはヘラクレスを使ってあの男を追ったんだよ。つい一昨日に
「家って……もしかしてあの格好でドーマンさんの家に襲撃を?」
「当たり前だろうが。【
「……寝込んでる間にそんな事件があったのか」
時間軸的に、カインの土剣のダメージで寝込んでいる最中である。ドーマンはそこから慌てて冒険者ギルドに依頼したのだろう。
「ともあれ、フェアリーを助けたらもうドーマンさんは狙わない?」
「一発ぐらい殴っておきたいがな。まあオレを負かした男がそう言うなら勘弁してやるぜ」
「負け……てはないと思うよ。相性による不意打ちだし。こんなの二度は通じないでしょ?」
「流石大将、大した度量だぜ。勝った相手に情けをかけるなんてな!」
「た、大将?」
数分前までの雰囲気とは大違いである。その差異にエリックは戸惑うが、どうあれこちらに好意的であることは交渉する上で望ましい。
エリックは半目を閉じる様に内側に意識を向ける。そして
(……って事なんだけど、クー。それっぽい荷物ある?)
(ポイ、って言われても箱は全部同じだからわからンゴ)
<
(箱も大きいし調べるの鬼ムズなんですけど。ねえエリっち、人間に戻っていい?)
(できれば蜘蛛のままでお願い。誘拐の証拠を見つけないと、しらばっくれられたらおしまいだから)
クーにはドーマンの馬車の積み荷を調べてもらっていた。秘密裏である必要があるので、目立たない蜘蛛状態――これでも大きさ30cmなので見つかる可能性はある
が――で探してもらっていた。
(あーしら以外全員糸で縛ってから探せばいーじゃない。あのおっさんが誘拐したっていうんならさー)
(それだと僕らも盗賊扱いになるんでやめて。っていうかドーマンさんたちはそこにいるの?)
(いるいる。エリっちたちがいる方を見て、ガクガク震えてる。見えてないんだろうけど、黒いのの声が聞こえてからずっと)
(ああ、あの名乗り声か。確かに怖いかな)
そこまで聞いてから、エリックは考える。
エルフの言い分が正しいのなら、ドーマンは森からフェアリーを誘拐した。そしてバスターヘラクレスに襲われ、逃げる様にオータムを離れようとした。
そのバスターヘラクレスが襲ってきたとしたら、その目的は知っているはずだ。ならそれを守ろうとするのでは?
(クー、ドーマンさん、何か守ってるとかしてない? 箱とかそういうの)
(ん? そーいえば瓶を握ってる。中になんかいるっポイポイ。ちっちゃい女の子?)
(当たりだ。それが誘拐されたフェアリーだ)
(おけおけ。それじゃああいつからそれを奪って――)
(いや、違うから)
クーの行動を先読みしたエリックが制止し、どうすべきかを告げる。不満そうなクーの感情が流れてきたが、最終的には納得してくれたようだ。
「ドーマンさん」
その場で人間状態に戻っ――って服を糸で作りなおし――たクー。その声に体をびくりと震わせるドーマンだが、次の瞬間怒りの声をクーにぶつける。
「こんな所で何をしている! 早くアイツを足止めしてこい!」
「はい。襲撃してきた者は捕らえてあります。今は身動きが取れない状態です」
「ウソを言うな! ワシの精鋭部隊や
「いいから、一緒に来て」
悪態をつくドーマンの口に糸を絡め、言葉を封じるクー。その言葉の圧力に頷くドーマン。
(エリっちは穏便に連れてきて、って言ってたけど。これぐらいは、ね)
(ほーんと、ムカつくんだから。ムカ着火ファイヤーなんだから!)
糸を戻し、ドーマンと馬車の御者等を連れてクーは移動する。
その先には、
「へぇ。フェアリーを見つけたのか。さすがだぜ、大将!」
「うん。後はドーマンさんと交渉して――」
「わーったよ。大将の懐に免じて我慢してやるぜ」
妙に打ち解けているエルフ女性とエリックの姿。
それを見てクーのおこレベルは、なんとなく一段階上昇していた。
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