「えりっちー!」
「で、どーするのエリっち? この中からネコ探す?」
老人をクーの糸で縛った後、エリックはどうしたものかと考える。地下室内にずらりと並ぶ檻。この檻の中から一匹のネコを探すのは骨だ。……下手をすると、既に
「うーん……。とりあえず書類を探そう」
「しょるい?」
「うん。おそらくだけど、作った
言ってエリックは老人が歩いてきた方に足を向ける。ついてくるクーの気配を感じながら、エリックは書物が置かれていそうな場所を探していた。
「なして書類? っていうか記録あるの?」
「うん。推測だけどこの
今まで襲って来た
ネズミとサソリ。カメとカエル。そういった小さな動物が中心だ。戦闘用でも猿やアルマジロが最大で、獅子などの大型の獣は見られなかった。
それはおそらく真正面から戦うのではなく、気付かれぬように不意を突くためだろう。風通行から侵入し、一撃を食らわせて逃げる。小さいが故に人の目に留まらず、難なく脱出できる。
そう思うと、老人が侵入者に異常に警戒していたことも理解できる。老人の話を信じるなら上に居たのは騎士なのだから、かなり重要な場所なのだろう。
(そんな場所で無計画に
暗殺、領主、騎士、ナントカ派? もしかしてここって結構危険な場所なんじゃ……?)
そこまで考えて頭を振るエリック。考えれば考えるほど、事の重大さに陰うつになってくる。
要はここにどれだけネコが捕らえられて、その中にミーコがいるかいないかだ。それが確認できないのなら、次は虱潰しになる。
事務を行うようなスペースを発見し、その扉に入る。幸い、書類らしいものはすぐに見つかった。ただ……。
「わぁ、バラバラだ。これを整理してその中からネコを探すのか……」
ジャンルや種類や時系列などバラバラにまとめられた書類が、無造作に投げ出されている。老人の気質が理解できる机だった。
「まあでも檻を一つ一つ探すよりは楽かな」
「ふーん。じゃあ、エリっち頑張ってねー。あーし、字読めないんで」
「うん。しばらく休んでて。さっきの戦いは疲れただろうし」
「ぜーんぜん! あんなのよゆーよゆー!」
言って近くの椅子に腰掛けるクー。やることがないのか、所在なさげに近くにある物を触ったりしている。刃物などの危険物がないことを確認し、エリックは書類に神経をむけた。
『キマイラリスト №021
作成者 ――アルフォンソ・クリスティー』
おそらくこれが最新の記録だ。アルフォンソ・クリスティーというのはあの老人の名前だろうか? ともあれそこから遡っていくのがよさそうだ。
『獲得予算は前回より大幅に減った。同時に冒険者ギルドの妨害工作により流通ルートが寸断される。それにより、動物の供給は大幅に減るだろう。どうにか動物を確保しなければならない。面倒じゃのぅ』
『如何にゴランド派が武人ぞろいであっても、動物であれば
『ワシの可愛い
要所要所に書かれてあるメモ書き。おそらくあの老人のモノだろう。暗殺計画のメモ書きと、個人の愚痴が混じったようだ。目の端に留めながら記録を見ていく。ネコの捕獲記録は――
「えりっちー!」
「わああ!?」
突然背中に柔らかい感覚。そして首に回される黒い腕。そのまま体重を押し付けてくる感覚。
冷静になったエリックは理解する。クーが背中に抱き着いてきたのだという事を。そして困惑する。そうなるとこの背中に押し当てられた二つの柔らかいモノは……まるで水の袋のような、それでいて温かく――
「ふへへへ。えりっちえりっちえりっちー」
「な、何? クー、どうしたの!?」
抱き着いた腕からエリックをゆさゆさ揺らすクー。圧し掛かってくるクーの重さ。密着しているからだから感じるクーの温もり。その感覚と状況はエリックの混乱をさらに高めた。
(落ち着け、僕! いや、この感覚は、うん。気づかないふりをしよう! その、柔らかすぎて、どうにかなりそうなんですけど!)
甘えるようなクーの声。もにょんとした背中に押し当てられるクーの双丘。お腹と思われる部分を押し当てられた背中の感覚。蕩ける理性。男としてむくむくと湧き上がる何か。
そしてその感覚は突然終わりを告げる。ふらふらとよろける様に離れていくクー。
「あふー。マジ暑くなってきたー。脱ぐぽよ」
「ちょ、待って! 本当に何がどうなってるの!? 急に酔っぱらったみたいになって……!?」
服に手をかけたクーを止める様にエリックが押さえる。今ここで脱がれたら、もう自分でもどうなるかわからない。必死に初めて会った時のことを思い出さないようにしていた。
「って……コーヒー? もしかして――」
机の上に置いてあるコーヒーカップを見るエリック。クーが座っていた近くに置いてあったものだ。
「そう言えば、蜘蛛ってコーヒーで酔っぱらうって聞いたことが……まさかアラクネもそうなの……!?」
「ひっく、酔ってないにょ?」
「思いっきり酔ってるー!? とにかく落ち着いて! 服は脱いじゃダメ! お水でも飲んで――」
――え?
突然の脱力感に襲われ、エリックは膝をつく。頭がぐらぐらして、意識を保つのがやっとだ。平衡感覚が狂い、そこでようやく頭の鈍痛に気付く。殴られたんだな、とどこか冷静に判断していた。
そのままエリックは地面に倒れ伏す
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